第39話 ヨーグルトケーキをつくりまして


 思い立ってヨーグルトケーキを作ろうと準備をしてましたら、消防車のサイレンが。実は、前に住んでいた場所のすぐ近くに消防署があったので、最初はまったく気にしてなかったんです。


 ところが、音が近づいてきて、増えてきて。あれっと思って窓の外を見ると、止まっているんですね消防車が何台か。で、そのうち救急車のサイレンもしてくる。


 そっか、考えてみれば引っ越したんだからあのサイレンの音はなにか近所であったからだったのかって、その時初めて気が付きました。自分、かなり鈍いなあと苦笑いをしてしまいました。


 消防車が止まっている建物付近などに煙とかは見えなかったんで、どの辺で何が起きているのかは全く分かりませんでした。なにか作業しているような声は聞こえましたが。


 見に行く気もなくて、ではどうしましょうねということで、結局ヨーグルトケーキを焼きました。


 ケーキは焼き上がり、冷蔵庫で冷やします。で、窓の外をみるとまだ消防車は止まっています。その後、結局数時間は駐車したままでした。何があったのかは、さっぱりです。


 消防車を見ていて思い出したのが、昔の旅行先の事でした。学生時代で、旅費をケチるため全工程を自動車で行ったんです。もちろん下道で高速道路なんて使いません。


 山間部を通りがかったときです。火事がありました。集落からは少し外れた場所で、工場みたいなところだったんだと思います。野次馬がたくさんいて、それで気がついたんです。


 で、旅行を一緒にしていた友人たちと車から降りて、野次馬よろしく眺めておりました。野次馬と消火活動に勤しむ人達の温度差って大きいですよね。


 消火活動が進む中で、野次馬の皆さんは

「おお、すごいなあ」

 なんて感心しているわけです。


 眼の前で建物が燃えているのに、どこか人事で眺めておりました。で、ふと気がつくと、自分たちの直ぐ側にドラム缶がいくつかありまして。なんでわかったのかは覚えていないんですが、石油が入っているドラム缶だったんです。


 その時は、何も考えていない。で、消火活動が終わってそこを皆で引き上げていった時、ふと誰かが言ったんですよ。

「あのドラム缶って石油が入っているやつだよね」

「引火してたら、大変だったね」


 その時、野次馬はしないでおこう。なにかあるときは近づかないようにしようと思いました。野次馬って集団心理っていうか、自分たちはどこか大丈夫って思いがちなんだと思いました。


 確認は重要だとは思います。でも、煙は出てなかったし、消防車はたくさん来ていたし、避難勧告もされなかったし。何よりも卵はすでに割ってしまった後だったし。ケーキ焼いたのは問題はないかと。

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