第87話 賑やかなお茶会
ある日の王宮の庭園はとても騒がしい様子だった。
「メリー母様とけっこんするのは僕だよ!!」
「いや、アメリアと結婚するのは俺だね」
5歳になったルイスと言い合いをしているのは、ウィリアムとリリィの子のリアムだ。
リアムも8歳になり体は随分と大きくなっていたが、言動は双子のシルファよりも幼い。
「あなたたち、何を言っているの?」
11歳のメリベルはお姉さんらしく諌める。──が。
「アメリアお姉様と結婚するのはわたくしよ!」
「へぁ?」
ルイスはキョトンとするが、リアムは噛み付く。
「女同士で結婚できるわけないだろー!」
「ほほほ、これだからお子様は!…法改正が昨年行われて、愛し合っていれば種別性別関係なく結婚できるようになったのよ!!養子も優先的に迎えられるわよ!」
「ふざけるな!」
「そ、そうだそうだー!」
よくわかってないルイスは横目でリアムを見ながら彼を応援する。
「アメリアを賭けて俺と勝負しろ!」
「嫌よ。わたくしとの勝負で先日に100敗目を記録したというのに…もっと鍛錬してからにしなさい」
「ぬぐぐぐぐっ…!」
そんなカオスな状況を眺めるのは、アメリア、イザベル、リリィだ。
リリィは目が点になっている。
「あの…どういうことでしょうか?」
「ルイスはマザコン、リアムは叔母様が大好き、メリベルは百合…」
「ゔぇっ!?」
アメリアの手でサブレが砕けた。
「…ではないわ。単に憧れている人を自分より弱い男に取られたくないだけよ」
少々呆れ顔のイザベルは「もう少し言い様があるでしょうに」と薄ら笑いを浮かべている。
「アメリア様にはアルフレッド様がいますけども…?」
「メリベルは理解しているけれど、後の二人はいまいちわかっていないわね。からかっているのよ」
「ベル、それは本当?」
「…おそらく?」
「本当だと言ってよ!…メリベルの求婚を断るなんて苦行、考えただけでも嫌だわ…」
ガクリとアメリアは体制を崩す。
するとルイスが気が付いて、慌てて走ってやってきた。
「どうしましたメリー母様!?いじめられましたか!」
目元がアルフレッドにそっくりなせいか、睨んでいるがあまり迫力がない。イザベルはニコリと笑った。
「いいえ、貴方のお母様は星祭りの演舞の衣装に悩んでいるのよ?」
「!」
星祭り、と聞いてルイスは途端に真剣な顔になった。
ローダークの戯れを退けた勇者アメリアにちなんだ星祭りは、人々の意識と伝承を途切れさせないための祭だ。
メイソンにより経費節減と銘打って廃されていた建国祭を復活するにあたり、ウィリアムとアルフレッドが趣旨を少々変えて復活させたのだ。
フローライトは生ける者たちを見守っていてくれるが、ローダークもまた、別の目線で人々を見ていることを忘れさせないために…と。
毎年アメリアが二柱へ舞を奉納するのだが、舞台の飾りつけと衣装はイザベルの商会が担っている。
「貴女のお母様の魅力を、最大限に引き出すような衣装…何か良い案はないかしら?」
「っ!…ぼ、僕が考えますっ!」
「ルイス、ずるいぞ。俺もやるからな!」
「…リアム殿下。大人に頼むのはナシよ?」
リアムはチッと舌打ちした。リリィは「もう!」と笑いながら怒り、アメリアは吹き出した。
「お母様、わたくしも考えてよろしくて?」
「ええもちろんよ。素材も書いてもらえると嬉しいわ。予算は控えめにね」
「わかりました」
メリベルが心得ておりますと頷くと、リアムが「ずるい」と絡みだした。
リアムは知力武力ともに勝てないメリベルへ、何かとやっかんでいるのだ。
当のメリベルはため息をつく。
「まったく…わたくしが教えないといけませんの?」
そう言いつつメリベルは2人を伴って母たちがお茶をしているテーブルから離れる。
リリィは感心しきりだ。
「メリベルちゃんはすごいわね…あの年齢で空気を読んで気遣いができるなんて…」
「あら、リリィもやっていたでしょう?気さくで優しくて…近所でも評判の嫁候補だったと聞いたわよ?」
彼女の実家は今でもエリオット公爵家の庇護の下パン屋を営んでいるが、夫婦の護衛を兼任したちょっといかつい看板娘?が店頭に立っていた。
「そんなことないです!…言われて気付かされることの方が多かったと思います」
イザベルを前にすると落ち込みやすいリリィを励ますようにアメリアは言う。
「大丈夫よ、私なんて毎日泥だらけになって剣を振り回していた頃だわ!」
「そうね、マナーの先生から逃げまくっていたものね」
「うっ」
「で、でもっ!それで今のアメリア様がいるのですから!」
今度はリリィがフォローしだした。イザベルはアメリアの手の甲を見ながらクスクスと笑う。
「…まぁそうね。あのやんちゃなメリーが今では、”星の勇者”だものねぇ。人ってどうなるかわからないわよね」
「実感はまるでないわよ」
しかしアメリアの人気は全く衰えず、星祭りは彼女を一目見ようと国内外から人が押し寄せるのだ。もちろん、国賓も多い。
下手なものは作れないと、彼女の晴れ舞台の衣装について頭を悩ませているのは本当だった。
「ファンが考えてくれるから、今回は楽になりそうね」
「いいの?」
「逆に何にも縛られない自由な発想があっていいかもしれないわよ?」
「ああ…そういえばパン屋でも、子供たちに”こういうパン作って!”って、たまに言われてました」
変な組み合わせのことも多いが、食べてみると意外と美味しかったりするのだ。
中には定番パンとして今も親しまれているものもある。
「ふふ、責任はウチが持つからいいのよ。これから何十年と続くし、奇抜なものがあっても良いのよ」
「何十年!?」
「次世代が出現する時期はわからないんでしょう?」
「…ええ」
「ではしばらく貴女が務めないとね」
「私、毎年楽しみなのです!」
リリィが若干凹んだアメリアを励ますように言うと、イザベルの目がキラリと光る。
そしてわざとらしくため息をついた。
「…そろそろアメリア一人ではきついと思うのだけれど」
「?…そうですね。舞い手が数人いたら華やかになりそ…むがっ?」
「リリィ!!」
慌ててアメリアが口を塞いだが、遅かった。
イザベルはより笑みを深くする。
「ほほほ。では一人確保したわね」
「!?」
リリィがぎょっとする。確保とはなんのことか。
イザベルは扇をひらひらさせながら言う。
「アメリアが1人の舞台が嫌だと言うから、今年は舞姫を3人追加しようと考えていたの。リリィは1人目ね」
「え゛っ」
彼女の顔がサーッと青くなる。舞踏会のダンスはなんとか踊れるようになってきたが、それでも”なんとか”である。ダンスが苦手なアメリアとどっこいどっこいだ。
アメリアは申し訳無さそうな表情をしながら手を離し、イザベルに言う。
「あと2人は見つかったの?」
以前の話だと、希望者を募ると聞いたが。
「オズに公募を却下されたのよ。だから、メリベルとシルファが務めるわ」
「え、シルファが?」
リリィは驚いた顔で返す。
「ええ。訊いてみたらとてもやる気だったわよ」
「あの子が…」
リアムと違いシルファは大人しくていつでも本を読んでいるような少女だ。
今日もお茶会には参加せずに、先王ウォルスと一緒に書庫へこもっている。
「そういえば…」
先日に用事があって登城した際、ウォルスとシルファがとても興奮した様子で自分に話してくれたことを思い出す。
「古の賢者様の手記を見つけたとか」
「あら凄い。ペルゼンの賢者様たちが喜びそうね」
ペルゼンはローダークの顕現により一度は王都が壊滅寸前にまでなったため、貴重な書物は城の禁書庫のものしか残っていないのだ。
「ええ、今は書き写していて…終わったら私にくれるそうよ。なんでも、魔族のことについて書かれたものだとか」
自分が勇者だから教えてくれるのだろうか、とその時は思ったのだが。
リリィは首を傾げる。
「踊りとどう結びつくのでしょうか?」
「シルファは神様を見てみたいと言っていたわよ」
「うーん…見ることはできないのだけど…」
アメリアは4年ほど舞台にて演武を披露しているが、二柱はアメリアの手の甲にある紋章を輝かせるだけである。
それだけでも十分凄いのだが。
「なんとなく、見えないほうが平和な気がするわ」
イザベルが肩をすくめながら言うと、実際にローダークを見たアメリアとリリィは苦笑した。
「見ると忘れられなくなります」
「あの姿はねぇ。お祭りにやられると子供が泣いちゃうわね…」
赤い月の変化に喜ぶのはごく少数だが存在する、ローダークを崇める信徒だけ。
「まぁ、どうせ来ないわよ。どこかに悪事を仕込むので忙しいでしょうから」
「うーん。否定は出来ないわ」
今日も今日とて、ローダークはコツコツと悪の種をばら撒いているのだろう。
「メリー母様!できました!」
「えっもう?」
お茶会に突撃してきてアメリアへよじ登るルイスを「よいしょ」と抱き上げる。
「申し訳ないです。思ったよりも早く描いてしまって…」
メリベルの報告にアメリアは微笑む。
「大丈夫よ、まだ抱えられるから。…アルが、甘えられるのは10歳くらいまでだぞって脅すからずっとこんな調子なの」
ずっと甘えん坊でもいいのに、とアメリアが言うとイザベラは半笑いになる。
「…親離れがとても大変そうだわ」
「アルフレッド様にも、そこそこベッタリですしね」
「そうなの?てっきりアメリアを取り合って…ライバル視しているのかと思ったわ」
リリィは遅れてやってきたリアムの紙を受け取りながら言う。
「シルファがアルフレッド様のことを好きみたいで…取られたくないみたいです。ヤキモチですよね」
「あらまぁ。王宮ってやっぱりドロドロね」
呆れたようにイザベルは笑う。
「ふふ。もっとお外に連れて行かないとって思っています。…リアム、よく描けてるわ」
「そーだろー!」
得意げに言うリアムはアメリアに憧れて剣術を習っているが、実を言うと両親に似て武力の方はからっきしである。
その彼が描いてきたのは、床に描かれた魔法陣の上に、ふわりと浮かび上がるアメリアだ。
「舞台装置のほうを考えるなんて…やるわね」
「お母様、わたくしのは?」
メリベルが差し出した紙には、花びらを重ねたようなフレアースカートを身に着けている女性が描かれている。服飾師の描くデザイン画のようなイラストにリリィが目を輝かせる。
「妖精みたいだわ!可愛らしくって素敵」
「ではリリィたちの衣装はこれでいきましょう」
「エッ!?」
私もう30歳過ぎてますが…という声をイザベルは無視する。
「それで、ルイスのは…あらあら、オネムなのね」
ルイスははしゃぎすぎたのか、アメリアの胸の中でウトウトしていた。
その手に握られていた紙をそっとメリベルが抜き取ると、テーブルに置く。
「あら、上手」
小さな子が描く絵そのものだが、要点がすぐにわかる絵だった。
「発想が素晴らしいです」
「ふぅん…薄い絹か…昆虫系の魔素材か…」
イザベルはもう素材を考え出しているから、今年はこの衣装に決定のようだ。
「お手柄だわ」
もちもちの頬にキスをすると、うにゃ、と呟いてアメリアの髪をぎゅっと握る。
「ははうえ…だいすき…」
(!)
小さく呟かれた言葉は誰にも聞こえていないようだ。
(まだ…眠い時に出ちゃうのよね。”ルイス”が…)
クスリと微かに笑いながらアメリアは言うのだった。
「ルイス…ありがとう」
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作者より
いつもお読みいただきありがとうございます(^^)
この回からは少しオマケというか後日談になります。
もう少しだけお付き合い下さいませm(_ _)m
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