第81話 アメリアとアルフレッド
───それから3年後。
ウィリアムとリリィの間に、二人によく似たとても美しい双子の男女が誕生した。
ミルクティーブロンドに、それぞれ青と緑の目を持つ赤子だ。青い目で先に生まれたのが女の子、緑の目で後に生まれたのが男の子だ。
リリィの髪色の子供に、ウィリアムはメロメロである。公務の合間を縫って、子育てをしているリリィの元へよく来ていた。
「陛下、そろそろお時間です」
今日もウィリアムを連れ戻しにアルフレッドがやって来る。
「うう、夜にな…リリィ、シルファ、リアム」
おとなしいシルファは先の王妃、ウィリアムの母の名前を頂いたので、先王のウォルスも特に可愛がっている。
リアムのほうは、よく泣いてはリリィを困らせており、赤子に慣れているアメリアでも中々手強かった。
孫を見に来たリリィの両親は「娘にそっくりだ」と言い、当の娘であるリリィはその時に初めて自分の幼少時のやんちゃさをウィリアムも居る前で聞かされて赤面したという。
退出するウィリアムを見送ると、アルフレッドと目が合う。手を振ると、微笑み頷いてくれた。
「さて、私もそろそろ行くわね」
アメリアは王妃であった頃の知識を活かして、リリィの代わりに公務を担っていた。
「申し訳ありません、アメリア様。子育てまで教えていただいているのに…」
「いいのよ。歪んだ世界でやっていた公務に比べれば、楽な仕事よ。ぱぱっとやっつけちゃうわ!」
本当にその通りなのだ。
今はリリィが欠けているが、公務を五人で分けてやっているため作業量自体は少ない。
「シルファ、リアム、お母様にた〜くさん愛してもらってね」
王妃付きになっているコニーと乳母でもあるブリジットへ目配せをすると、彼女たちは「心得ております」と頷いた。何か起きた際はすぐに呼んでもらえるようにしているからだ。
アメリアは育児室から退室すると、早歩きで文官たちが執務を行っているエリアへと足を進める。
その姿は勇者らしい、騎士の制服をアレンジした勇ましいパンツルックだった。
(シルファもリアムも可愛いわ…)
思い出すとつい、顔が緩んでしまう。
イザベルの娘、メリベルもすくすくと育って今はもう三歳だ。周囲に”黒い気配”に脅かされない、新しい命が誕生している事は純粋に嬉しい。
(でも…)
幼子を見ると、歪んだ世界をつい思い出してしまう。
自分の腕の中にいたルイスを。
(今生まれて来てくれたら…きっと婚約破棄しない王子になったのに…)
驚くべき速度で評判を持ち直したウィリアムと、きちんと貴族の教育を受けたリリィが居て二人から愛情を注がれるのだ。素晴らしい王子になっただろうと思うのに。
生まれてきた子供はメリベルと同じく、色が異なる子供たちだった。
(しかも、あの子のように魂が同じかと言うと…違う気がするのよね)
リアムだけを抱っこしてバルコニーに一人出ても、何事も起きない。ルイスを抱いていた時のような感覚にならなかった。
(陛下に似て、頑固だったから…まだ、来れないのかしら…)
現在のメリベルにエリザの記憶は面影も全くないが、ああしてアメリアに出会う時まで小さな体の中に記憶を持っていてくれたのだ。
(しかも、現状を理解した状態だったのよね)
ルイスも神様の元で…記憶を持ったまま歪んだ世界とは違う道筋を辿った今の世界を見ているのだろうか。
(あの子は賢いから、恥ずかしがっているのかも)
メイソンとダイアナに騙されていたとはいえ、色々やらかしている。
その事で生まれ変わりをためらっていそうな気がしていた。
アメリアは足を止めて、窓の外の青空を見上げる。
「ルイス…だ〜れも怒らないから、また来てちょうだい。貴方の笑顔を見せてね…」
呟きは溶けるように消えていった。
数日後、アメリアは孤児院への慰問をアルフレッドと共に行っていた。
走り回る子供たちを見て、アメリアは目を細める。
「みんな元気そうだわ」
健康的で、衣服も平民が着るものと同じだ。数年前まではツギハギだらけの服を着ており、食事もままならない状態だったという。
「ええ。闇に消えていた金が無くなりましたから」
メイソンとルシーダが居なくなり、国庫の急激な減少がピタリと止まったのだ。
「人件費と?」
フォックス家の息のかかった者たちを無駄に王宮にとどまらせ、他にも魔導師や情報操作用の人員、脛に傷を持つ冒険者達を私的に雇うことに使われていた。
「架空商会の維持費や武器防具の購入資金…他、色々です」
息子のセルトが領地の運用資金を出し渋りしていたのもあってか、メイソンは自分が自由にすることの出来る国庫から悪事の資金を得ていた。
ダイアナもあれこれ理由を付け(イザベルの帳簿にツケ)て、宝石やドレス、怪しい植物や鉱物を買い漁っていたという。
それらの余計な浪費が無くなり、なおかつ今の王族は質素倹約だ。資金が増えて孤児院や救護院に回せるお金が増えた。
「神官のルギー様が、百害あって一利なし、と言っていたわ」
「はは、その通りですね。世界征服をしたいのに、子供を疎かにするなんて。本当に皆が言うほど有能だったのか疑問です」
メイソンの評判は幼少時から立派なものばかり。神童、この上ない逸材、カリスマ的存在、歴代で一番優秀な宰相…などなど。
だがその力が振る舞われる範囲はかなり狭く、貴族しか恩恵を受けていなかった。
アルフレッドがこうして町へ来て話を聞いたらば、平民には何も施さないお高く止まった宰相、という評判だった。むしろ先代のほうが良かったという声が多い。
「そうねぇ、いずれ自分は寿命で亡くなるし、後継者を育てなければ大国の維持なんてできないでしょうし」
万が一、彼らが世界征服をしても一瞬後には瓦解していそうだ。
「その”一瞬”が欲しかったのかもしれませんね」
「うーん、理解できないわ!」
「僕もです」
アルフレッドとアメリアは顔を見合わせて笑った。
「ゆうしゃさま〜」
「!」
小さな女の子がアルフレッドの足にしがみついた。
「ん?…勇者は私じゃないぞ、こちらのアメリア様だ」
「そーなの?」
「ええ、そうよ」
笑顔で答えていると、遠巻きに見ていた年かさの男の子たちが一斉に近寄ってくる。
「魔剣あるの?見せて!」
「握手して下さい!」
口々に言い、アメリアへと手を伸ばしてくる。
「…どこへ行っても人気ですねぇ」
アルフレッドが孤児院の生け垣の外を見ると、通行人がこちらを見ている。
特にアメリアを。
「実感はないのだけれど…」
苦笑しながらアメリアは魔剣”流星”をバッジから外すと、大きくして見せてあげた。
「すげー!!」
「オレも、ほしい!」
「うーん…魔剣に”この人がいいな”って思われないと、手にできないそうよ」
説明が他人事なのは、祖母からいつのまにか託されていて振り回していたから、選ばれたという自覚がないためだ。
「きれい〜」
少女の目が、流星が纏う燐光を追っていた。
「あら、光の精霊が見えるのね?お名前は?」
「ファリン!」
「いい名前だわ、響きが特に良い」
そう伝えると、幼い少女はニコッと笑ってくれた。
(この子も、違う…)
少し寂しさを覚えて頭を撫でると、少女は嬉しそうに撫でられた頭を押さえて「ひゃ〜」と奇声を上げながら走り去って行く。
「ふぅ…」
実を言うとアメリアは歪んだ世界で聖女であったクロエを探しに来ていた。
彼女は孤児で養親がいたという事しか分からない。今はまだ孤児院に居ると思っていたのだが。
(流星に反応するかな、と思ったけど違うのね)
今いる子供たちに、強い治癒魔法を使える子はいないと先程聞いたばかりだ。
アルフレッドが静かに言う。
「争いの種…いや、既に木になっていましたね。それがなければ生まれないのかもしれません」
「そうね…」
賢者のマルヒやヒメックには、”聖女は神により造られた存在である”可能性が高いと言われていた。
そうでなければ都合よく世界の危機に現れないだろう、と。
フローライトの発言で考えていたことではあるが、より真実味が高くなってしまい、やるせない。
「それでも、人格があったと思うのよ」
「ええ。もしかしたら孤児院には居ないのかもしれません。ゆっくり探しましょう」
「…そうね」
アルフレッドの気遣いに頷きながら、子供たちを見る。
彼らはこの国の未来を担う、希望そのものだ。
「今度、適正検査をするのですよ」
「検査?…子どもたちに??」
「ええ。自分に何が向いてるかなんて、わからないでしょう?ましてや平民の場合は、一つ手を付けるごとに膨大な時間やお金を取られる。そこを国から支援するのです」
孤児に関わらず、職業体験などを経て手に職をつけてもらうのが目的なのだとか。
「いいわね、その案!…もしかして、発案者は陛下では?」
「ふふ、正解です。…いろんな枠…兄上は額と言ってましたね。自分に合ったものを見つけて欲しいと言っていましたよ。一つの絵画のように」
”兄上”と言っているから、雑談の時に出た案なのだろう。
平民に寄り添った案を出すウィリアムとリリィに、それを実現させるアルフレッドは非常に良いコンビだ。
文官たちも楽しそうに仕事をしているし、騎士たちも皆を護るのだと気合十分になっている。
「アル。お仕事、楽しい?」
「楽しいです!あの人がいないと、こんなにもうまく回るなんて」
アルフレッドは即答した。メイソンの名前は大っぴらには言えないが、彼はたまにこうして愚痴を言う。
だが歪んだ世界を体験したアメリアも同意見である。
「本当に!…今は、宰相様もお出かけ出来ちゃうものね」
「机に齧り付いていては、よい政策も出せないでしょう?…この後は、約束通りに外へ連れて行ってもらいますよ!」
今やメンデル宰相と呼ばれるアルフレッドは精力的に動き回っており、この後の活動も”勉強”の一貫ですと言っていて譲らない。
危険ですという周囲をなんとか説き伏せてようやく、アメリアと二人きりのデートに漕ぎ着けたのだ。
もちろん今日も、魔剣”氷凛”を帯剣している。
「えーと…アルフレッド様はお強いから、大丈夫だと思いますけど…本当に気をつけましょうね?」
「私がそこそこ出来るのは対人のみです。アメリア師匠、よろしくお願いしますよ」
「え」
師匠と呼ばれて悪い気はしないものの、最近ちょっと積極的になってきたアルフレッドに戸惑いを隠せないアメリアなのだった。
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