第24話 素直には素直

 翌朝、肩を揺すられて起きると、困った顔をしたウィリアムが顔をのぞいていた。

「ふわ…おはようございます、陛下」

「おはよう…」

 素直に挨拶を返してきてくれる。昨日のことは夢ではないようだ。

「昨日は何もございませんよ。鍛錬の約束をしただけですから」

 ウィリアムが悩ましい顔をしているので、さっさと説明してあげると、ホッとした顔になる。

「ソファで寝かせてしまって、すまない」

「いいえ。領地ではよく外でも寝てましたので、問題ありません」

 地面と違って、とても柔らかいクッションだ。

「…外??」

「はい。ちょっとダンジョンまで…あ、護衛はいました」

 相変わらず行き先がおかしいアメリアに、ウィリアムは苦笑する。

「買い物のようにダンジョンに行くんじゃない。女性だというのに…」

「あらあら、女性騎士もいましてよ?」

「そうじゃない。君は侯爵令嬢だろう」

(マーカス様にも言われたわ、それ)

「ふふ、お転婆な侯爵令嬢って面白いでしょう?」

 その時と同じように悪びれずに言うと、とうとうウィリアムは吹き出した。

「…本当に、変わった令嬢だな」

「お褒めいただきありがとうございます」

 丁寧にカーテシーを決めると、呆れたような顔になった。

「なんだか…色々と気にしていたのが…」

「バカバカしくなりますでしょう?私と会うと、皆そう言うのですよ」

 幼少期に親同士の仲が良くて引き合わされたイザベルも、彼女にそう言ったのだ。

 会った当初の彼女は子供っぽくなく非常にツンケンしていて精神年齢が低いとアメリアを邪険にしていたが、しつこく遊びに誘っているうちに、公爵家の庭で勝手に一人で遊んでいるうちに、貴族として王太子の婚約者として教育漬けだった事を「あなたみてたらバカバカしくなった」と言って遊びに参加するようになった。

 その事は公爵夫人に非常に感謝されたし、大きくなってからもイザベルは溜め込まない女性になった。

(だから婚約破棄なんでしょうけど!)

 ほほほ、と笑いつつやってきたメイドたちに世話を焼かれて着替え、既に用意が整っていた朝食を二人で頂く。

 場所は応接間の横にある、全く使っていなかった小さな食堂だ。朝の光が心地よく入ってきている。

「メイドにはなんて説明しましたの?」

「酒を…二人で飲んで寝てしまったと言った」

「それでいいと思います。想像したい方には勝手に想像させていればいい。真実は私達の中にありますから」

 ピタリと一瞬ナイフが止まったウィリアムだったが、「そうだな」と微笑み、食事を進める。

(うんうん、いい感じ)

 この雰囲気で”離れの君”に会いに行けば、彼女も安心するだろう。

「今日のご予定は?」

「公務だ。…アルフレッドと話をしてくる」

「承知いたしました。私は…王妃教育ですわね」

 一瞬、ダイアナの顔が横切ったがフルフルと首を振る。

「大丈夫か?」

「!」

(あの陛下が、私の心配を…)

「不安はありますが、こなしてみせますわ。そのあと、マーカス様にお願いして鍛錬をしてきますので!」

 自分にも飴と鞭を用意しなければ、やっていけない。

「それが褒美か。初日から…元気だな…」

 苦笑するウィリアムに笑って返す。

「ええ。やることが一杯で、楽しみです!」

 爽やかに告げたが、実を言うと心の中では悪い笑顔をしたアメリアがいるのだった。


◇◇◇


 翌朝、肩を揺すられて起きると、困った顔をしたウィリアムが顔をのぞいていた。

「ふわ…おはようございます、陛下」

「おはよう…」

 素直に挨拶を返してきてくれる。昨日のことは夢ではないようだ。

「昨日は何もございませんよ。鍛錬の約束をしただけですから」

 ウィリアムが悩ましい顔をしているので、さっさと説明してあげると、ホッとした顔になる。

「ソファで寝かせてしまって、すまない」

「いいえ。領地ではよく外でも寝てましたので、問題ありません」

 地面と違って、とても柔らかいクッションだ。

「…外??」

「はい。ちょっとダンジョンまで…あ、護衛はいました」

 相変わらず行き先がおかしいアメリアに、ウィリアムは苦笑する。

「買い物のようにダンジョンに行くんじゃない。女性だというのに…」

「あらあら、女性騎士もいましてよ?」

「そうじゃない。君は侯爵令嬢だろう」

(マーカス様にも言われたわ、それ)

「ふふ、お転婆な侯爵令嬢って面白いでしょう?」

 その時と同じように悪びれずに言うと、とうとうウィリアムは吹き出した。

「…本当に、変わった令嬢だな」

「お褒めいただきありがとうございます」

 丁寧にカーテシーを決めると、呆れたような顔になった。

「なんだか…色々と気にしていたのが…」

「バカバカしくなりますでしょう?私と会うと、皆そう言うのですよ」

 幼少期に親同士の仲が良くて引き合わされたイザベルも、彼女にそう言ったのだ。

 会った当初の彼女は子供っぽくなく非常にツンケンしていて精神年齢が低いとアメリアを邪険にしていたが、しつこく遊びに誘っているうちに、公爵家の庭で勝手に一人で遊んでいるうちに、貴族として王太子の婚約者として教育漬けだった事に「バカバカしくなった」と言って遊びに参加するようになった。

 その事は公爵夫人に非常に感謝されたし、大きくなってからもイザベルは溜め込まない女性になった。

(だから婚約破棄なんでしょうけど!)

 ほほほ、と笑いつつメイドが持ってきてくれて既に用意が整っていた朝食を二人で頂く。

 場所は応接間の横にある、全く使っていなかった小さな食堂だ。朝の光が心地よく入ってきている。

「メイドにはなんて説明しましたの?」

「酒を…二人で飲んで寝てしまったと言った」

「それでいいと思います。想像したい方には勝手に想像させていればいい。真実は私達の中にありますから」

 ピタリと一瞬ナイフが止まったウィリアムだったが、「そうだな」と微笑み食事を進める。

(うんうん、いい感じ)

 この雰囲気で”離れの君”に会いに行けば、彼女も安心するだろう。

「今日のご予定は?」

「公務だ。…アルフレッドと話をしてくる」

「承知いたしました。私は…王妃教育ですわね」

 一瞬、ダイアナの顔が横切ったがフルフルと首を振る。

「大丈夫か?」

「!」

(あの陛下が、私の心配を…)

「不安はありますが、こなしてみせますわ。そのあと、マーカス様にお願いして鍛錬をしてきますので!」

 自分にも飴と鞭を用意しなければ、やっていけない。

「それが褒美か。初日から…元気だな…」

 苦笑するウィリアムに笑って返す。

「ええ。やることが一杯で、楽しみです!」

 爽やかに告げたが、実を言うと心の中では悪い笑顔をしたアメリアがいるのだった。

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