第20話 動き出す
「ペンダント…?」
先程着替えていた時はメイドたちの顔と名前を覚えるのと、会話に浮き立って気が付かなかった。
「装飾品は…花嫁衣装を着させられた時は、なかったわよねぇ」
クローゼットのある部屋へ行き大きな鏡で確認すると、神の石…神の名前と同じ名前がつけられた宝石、緑がかった青色のフローライトが揺れる銀の鎖のペンダントだ。
石はアメリアの親指の第一関節までくらいの大きさで、正八面体の原石のまま。
(大きいわ。高そう)
だからメイドたちは外さなかったのだろう。モスグリーンのドレスにもよく合っている。
満月のように研磨されたもっともっと小さな物を、イザベルの形見としてエリザが身につけていた。
大きい割にゴロゴロと転がらない。まるでアメリアの肌に吸い付くように位置を保っていた。
(これは、もしかしてあの時に…?)
首を断たれる直前、誰かはわからないが女性の声がした。
その後に敏感になっていた首にこれをかけられた気がする。
悲しげな…それでいて必死な雰囲気を纏っていた女性。
アメリアは冷たくない石に手を添えて、もっとよく見ようと持ち上げた。
「んっ!?」
目の位置まで持ってこようとしたが、一定の位置以上、上にいかない。
「と、取れない…!?」
両手で鎖を持ち上げても顎から上には上がらない。
そんな状況でつい思い出すのは、古代の魔女が造ったダンジョンの宝箱に入っていたといういわくつきのペンダント。それを首にかけたら最後、寿命を吸い取られてペンダントは消えてしまう。魔女に寿命を渡した後、ペンダントはまた宝箱に戻るのだとか。
(ふ、フローライトだからそんな事は無いわよ…!)
嫌な雰囲気はしない。むしろ身体がスッキリするような感覚さえある。
アメリアはペンダントを外すことを諦めた。
(この状況の鍵なのかしら…?)
もしかして、と思う。
先程ダイアナに手を弾かれた際に走った強い静電気のようなもの。
アメリアのことを軽んじ処刑に追いやったダイアナを、ペンダントが敵認定したからかもしれない。
(だとしたら嬉しいわね。味方は多いほうがいいわ)
考えながら応接間へ戻っていると、石が微かに光る。肯定のようだが彼女は見えていない。
しかし、その瞬間にハッとした。
(そうだわ!考えるよりも先にやることがあるわよ)
あの全てを監視するダイアナがいないのだ。ダイアナの手先だった感じの悪いメイドもまだいない。
(今しかないわ)
勝手知ったる執務室で手紙を二通書き終えると、廊下へ出て巡回している騎士を掴まえた。
手紙を父へ渡すよう、依頼しようとして気がつく。
(…握りつぶされるわね、これ)
歪んだ世界では手紙など紙切れ同然だった。いや、ゴミか。
アメリアは仕方なく、以前は全く成功しなかった交渉をすることにした。
「お願いがあるの。屋敷へ忘れ物をしたから父と話を…いえ、ジャック副団長へ会いに行きたいのだけど」
「…しかし…」
案の定、騎士は渋い顔だ。様々な連絡を断絶するように言われているのだろう。
「騎士団長でもいいわ。執務室はどちらかしら?」
「……ご案内します」
王妃より直々に質問されたため、断れないようだ。
彼は「王妃様が気軽に出歩くのは危険ですので、少しの間だけです」と忠告をして、王族の宮とほど近い騎士団長の執務室まで案内してくれた。
運良く、マーカス騎士団長が在籍しておりアメリアの来訪を非常に驚いていた。
「!…いかがなされましたか?」
「いえ、ちょっと…実家に忘れ物をしてしまいまして…。非常に大切なものなんです。祖母の形見で」
背後に居る騎士が邪魔だ。そう目配せをすると彼は部下へ用事を言いつけて追い出した。
そして真剣な顔をして質問をする。
「…どうされた?アメリア嬢」
「!」
結婚前までは、いつもそう呼んでいてくれた。こうして対面で会話出来るのも久々だ。
思い出して目が潤むが、気合でこらえる。
「これを」
すっと白い封筒を出すと宛名を見てマーカスは頷いた。
宛先はイザベル・エリオットで親友同士ということも彼は知っている。
「それから…こちらも」
宛先は父だがマーカスのほうが良いかも知れない。もう一通の手紙を渡す。こちらは封をしていない。
言葉で伝えたいが、歪んだ世界では話した内容がダイアナに何もかも筒抜けだった。おそらく魔法だろうと今は思える。
まごまごしていると、マーカスは何かを察したのか、読んでもいいか?と軽く封筒の封を開く素振りを見せたので、アメリアは頷いた。
彼は手紙を中から取り出し、内容を読んで目を見開いた。
「……」
目が文字を追う様子を見て、アメリアはドキドキしていた。
(私は”知らない”予定だけど…何か訊かれたらイザベルに聞いたって言おう)
先にイザベルの手紙を出したので、彼女関係だと勘違いしてくれると嬉しい。
手紙を読み終えたマーカスはそれを執務室に置かれた、縁が赤い半透明の長い箱に入れた。
すると、ボッと音がして手紙が燃えて消える。
(魔導具!…あんなものがあるのね)
今更ながら、王宮のことを本当に知らなかった…いや、知らないようにされていたのだと気がつく。
きっと自分が渡した私的な手紙類は、全て読まれてあの中に入っていたのだろう。
「両方とも、承知しました」
「!…よろしいの?」
「もちろんです。…私も気になっておりましたし…しかし、命令がないので」
「…そうですわね」
騎士団は王家の持ち物だ。王か王妃、王の許可を得た者の命令がないと動けない。
(王妃で良かったわ)
そう思ったのは初めてだ。
「…では、よろしくお願いします」
「はい。私が直々に実行いたしましょう」
先程の部下の様子を見て思うところがあったのだろう。魔法も剣技もこの国で一番を誇る彼が直接渡してくれるのなら安心だ。
廊下を出ると先程の騎士が扉に背を貼り付けて待っていたので、おとなしく付いて応接間へ戻るとウィリアムが居てソファへ座っていた。
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