執着と喪失、そして生きる者は歩み続ける


少し時間をかけて、一気に続きを拝読いたしました。
他者が紡ぎあげた物語を辿ることもまた一つの旅であり、文字や感想、挿絵などを通して「紡ぎ手」が伝えようとする思いを理解していくことには、独特の楽しさがあります。

この物語において、とくに丁寧に描かれた主要人物たちは、それぞれに人格的な欠陥を抱えているように見受けられます。

メルは奴隷であった過去に縛られ、自ら決断することの不安定さを恐れている。
アスターは武芸に秀でながらも、剣を振るう目的や意味を失い、他者から与えられる「必要性」に支えられて生きている。
クロードは王子という立場が彼の劣等感を形作り、その積み重なった不信が最後には愛する人々を傷つけてしまう。

思わず「愚かな子供たちだ」と言いたくなる瞬間もあります。けれども、その欠陥こそが彼らの人生を表し、どうしようもないようでいて納得できる関わりや成長を生み出しているのだと思います。

人は生まれながらにして完璧ではなく、すべてを思い通りにすることもできません。喪失や後悔、そして自らの欠点を受け入れてこそ、一歩ずつ成長していけるのでしょう。それこそが、この旅路の果てに感じ取れるものなのだと思います。

一見、あらゆる束縛から解き放たれたかのようでいて、実はそこからが始まりなのだと。生きるという営みとはそういうものだからです。停滞する者やすべてを超越した者と比べたとき、彼らの魅力はまさに「一歩ずつ前へ進む」その姿にあります。困難で、不器用でありながらも、思わず微笑んでしまい、静かに見守りたくなるような歩みです。

17万字に及ぶ旅路、本当にお疲れさまでした。青年と少女が次にどのような旅路を歩むのか、これからも楽しみにしております。

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