第十五話 「体育祭 後編」

瑠梨とわたしの視線が合いお互いに気まずくなる。わたしが戸惑っていると、瑠梨は恐る恐る口を開いた。

「絵穹ちゃん……えっと、さっきありがとう」

「あっ、うん。怪我とかない?」

「大丈夫……!」

「そっか、良かった」

そこで会話は途切れてしまう。


瑠梨はそっとわたしの腕を離すと、ぎこちなく微笑んだ。

そしてサッと向きを変えどこかへ去って行ってしまった。

……久しぶりで気まずかったけれど、瑠梨と話せて良かった。

わたしはそう思いながら、次の場所へと移動を始めた。


とうとうパン食い競走の時間が来た。

わたしと蘭が必死で練習していたものがパン食い競走だというのは、なんとも気の抜けることだが、頑張ってきた努力は無駄じゃないはずだ。

今わたし達のクラスである二組は、五組あるなかで三位だ。良い順位とは言えない。


そんなときに、二組の走者が転んでしまった。

クラスメイトから落胆の声が上がり、一気に順位も落ちてしまった。そして所々から堪えきれない不満の声が上がる。

そんなときに、わたしの順番が来た。

最後に必死の状態で走ってきたクラスメートから渡されたバトンを握り、全力疾走する。

とりあえずこれで一人を抜いた。二組から歓声が上がる。

そしてわたしは目の前にパンを見据えると、タイミングを見極めジャンプし──一発でパンをくわえた。

隣で苦戦していた生徒が「えっ!?」と驚いたような声を出す。


そしてそのままわたしはまた全力疾走し、もう一人抜いた。

結果的に言えば、五組中三位の最初の状態に戻したのである。

汗だくで次の走者にバトンを渡すと、パンをくわえていたのもあり口の中がパサパサだった。


蘭が駆け寄ってきてくれ、興奮したように水を渡してくれる。

「凄いよ絵穹っ! 一瞬で元の状態に戻してた。クラスのみんなも目がキラキラしてたよ!」

わたしはその言葉に頬を緩ませ、深呼吸をしながらニッと笑った。

そして呼吸が落ち着くと、蘭の手を握らせ自分の拳をぶつけた。

「蘭、後はよろしく。いっぱい練習したから絶対に大丈夫」

わたしの言葉に蘭は目を丸くしたあと、ニカッと太陽のように笑った。

「うん! 受け取った! 任せて」

わたし達は笑い合い、同時に頷いた。


蘭の順番が来た。

彼女が走り出した瞬間に、二組がどよっとざわつく。

普段、運動が苦手で走るのも遅めである蘭が速く走り、前の走者にグングンと追いついて行っているからだ。

そしてわたしと同じように一発でパンをくわえると、一人抜かして走り続けた。

「蘭ー!! 頑張れぇ!!」

わたしの大声にクラスメートはハッとし、一緒になって蘭を応援する。


そして──蘭はギリギリでもう一人を抜き、一着でゴールを決めた。

わああっと歓声が上がり、二組はお互いにハイタッチをしたり飛び跳ねたりと喜んでいる。

わたしも蘭に駆け寄り、ギュッと抱きついた。

蘭も嬉しそうに笑って抱き締め返して飛び跳ねた。


夏の暑い陽射しが祝福をあげるかのようにわたし達に明かりを向け、少し涼しい風が喜ぶわたし達を労ってくれた気がした。

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