第十六話 「紡いできたもの」
体育祭後の翌日。
朝のホームルームで、先生はわたし達生徒に髪を配った。
「昨日の体育祭での、MVPを決めたいと思います。みんな、一番頑張っていてお礼を言いたいなという人の名前を書いてね」
先生の言葉にクラスは一気に騒がしくなった。
うるさくなりすぎて、先生に「一人で決めるもんだよー」と注意を受けたほどだ。
わたしは迷わずに、一人の名前を紙の真ん中に書いた。
──石泉 蘭。
そして四つ折りにすると、回収されるのを待った。
蘭のおかげで、わたしは頑張ってみようと思えた。前はわたしが蘭を助けようとしていたのに、今では逆に助けられてばかりいる。
そんな蘭はきっと、クラス内だけでなく、わたしのMVPでもある。
しばらくして紙は回収され、先生は一枚一枚を確認する。
その間も、二組の生徒は「誰の名前書いた?」「俺はー……」と賑やかに話し合う。
蘭も近くの席の女子生徒とにこやかに会話していた。わたしはと言えば、相も変わらず一人でボーッと前を向いている。
しかし、前ほどの虚無感は感じず、逆に少しワクワクさえもしていた。
「よし、結果出たよー」
先生の一声で教室内はすぐに静まる。
すると、意外な言葉が耳に届いた。
「──体育祭のMVPは、同票で石泉と立花だったよ。おめでとう! 頑張ったね!」
「……え?」
わたしの気の抜けた声は、割れんばかりの拍手の音にかき消された。
蘭は嬉しそうに照れ笑いをしている。
わたしはなかなか動けずにポカンと固まっていると、おずおずと瑠梨が口を開いた。
「絵穹ちゃん、二回も頑張ってクラスの順位上げてたから……凄いなって」
するとそれをきっかけにクラスのみんなが声を上げる。
「そうそう! 石泉と立花マジ凄かったよな!」
「やるじゃんお前ら〜!」
「オイ、上から目線すぎだろ。立花固まったままだぞ?」
「蘭ちゃんと絵穹ちゃん、カッコよかったよー!」
「二人ともパンを一発でくわえてたときは、さすがに笑った」
わたしはクラスメートの声を聞いて、ゆっくりと顔に笑みを浮かべた。
「あ、ありがとう……!」
「わたしからも、ありがとう!」
わたしと蘭の言葉に、もう一度クラスは拍手に包まれた。
放課後。
わたしは瑠梨と向かい合って話していた。
「絵穹ちゃん、あのね……えっと」
「うん」
「ご、ごめんなさい……! 今まで避けてて……。わたしのしょうもない嫉妬なんかで、絵穹ちゃんを傷付け続けてきた」
瑠梨はそこまで言うと、彼女の瞳から耐えられずに溢れた涙が零れた。
「わたし、絵穹ちゃんが何を考えてるのかわからなくて……。ずっとわたしと仲良かったのに、蘭ちゃんのことばっかりだから嫌われたのかなって。……面倒くさくてごめんね」
わたしはそこまで聞くと、瑠梨を抱きしめた。
「……わたしの方こそ、瑠梨を放っておいちゃってごめんね。瑠梨のこと大好きだよ。一人でいたとき、瑠梨がいなくて寂しかった」
わたしの言葉に、瑠梨は号泣してわたしを強く抱きしめ返した。
窓の外に広がる空は、深い青色から鮮やかな紅色のグラデーションになっており、わたし達の心をよりギュッと締め付けた。
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