第十三話 「一時の幸福と青春」

それから私と蘭は、予定が合う日の放課後にパン食い競走練習をすることになった。

ついでに少しだけ、台風の目の練習もする。


蘭が運動は苦手だと言っていたのは本当で、色々と奇行を繰り返しており正直、爆笑が絶えなかった。

私も私でコケてしまったり、動きすぎでハァハァ言っていると蘭に笑われた。


馬鹿なことをして、楽しかった。

隣に蘭が──人がいることが、とてつもなく嬉しかった。

一緒に顔を見合わせて笑って、幸せだった。


これが瑠梨とも、他のクラスメイトとも感じれると言うのなら……今やっていることは無駄なことではないのかもしれない。

馬鹿馬鹿しいことではないのかもしれない。

「絵穹、どうしたの? 大丈夫? ちょっと休憩する?」

急に黙り込んだわたしに気付いて、蘭は心配そうに顔を覗き込む。


わたしはそんな彼女の顔をめがけて、軽く水をかけた。

「きゃっ!?」

「あははっ、ビックリした? 暑いからコッソリ水道水とってかけちゃった」

「絵穹……やったなぁー!?」

それからわたしと蘭は、他人の迷惑にならないよう気を付けながらも水をかけ合って遊ぶ。

もうパン食い競走や、台風の目の練習どころではなかった。


わたしは、いつも低めに結っているポニーテールを揺らして、蘭から逃げながら笑った。

蘭も肩ほどまである髪をなびかせて、笑顔でわたしを追いかけていた。

しばらくして、はしゃぎすぎたのか二人とも全身びしょ濡れになり、今日は一旦帰ることにした。

「はー、はしゃぎすぎちゃったね」

「うん。二人ともビッショビッショじゃん」

「あんまり遅くなると冷えちゃうし、今日はもう帰ろっか」

「そうだね! あ、絵穹、明日は空いてる?」

「空いてるよ」

「じゃあ明日もここに同じ時間で! よろしくね!」

「わかった!」


わたしと蘭はそれぞれの帰り道の方へ向かった。

しかし振り向いた瞬間、後ろから蘭の声が聞こえてきた。


「絵穹ー! ありがとう〜!!」


わたしは振り返り、蘭に向かって「こちらこそー!!」と返す。

蘭は嬉しそうに笑って頷いていた。


しかしまた、わたしの胸の中はチクチクと罪悪感で蝕まれていた。

……わたしは蘭にお礼を言われることなんて、何もしていないのに。


だがフルフルと頭を降って、暗い考えを消した。

人気の少ない道路に出ると、わたしは目を閉じてさきほどのことを思い出していた。

蘭の笑顔。わたしも笑っていて、辺りには水の雫が飛び交っており、それが太陽の光に反射してキラキラと光っている。

輝かしい記憶に頬が緩んだ。

……蘭とも楽しかったけど、次は瑠梨とも一緒にやりたいな。早く仲直り、できたらいいなぁ……。


わたしは目を開くと、ニッコリ微笑んだ。

道路の先では、温かく眩しい夕日が水色の空を覆い、紅く彩っていた。

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