第十二話 「チャンス」
体育祭当日まで、あと一週間をきった。
わたしは暑く強い陽射しの下、額に伝う汗を手の甲で拭った。
授業終わり、水筒が空になってしまったことに気付き学校の水飲み場へ行く。
水を入れてガブガブと吸収するかのように飲んでいると──突然後ろから誰かに突撃された。
ガホッ、と水を吹き出しそうになりギリギリで耐える。
「あ、ごっごめんね、絵穹……。つい」
「ゲホゲホッ、蘭?」
「うわぁぁ本当にごめんね!?」
わたしが激しく咳き込みながら目を丸くすると、突撃してきた正体である蘭が慌ててもう一度謝った。
わたしはそんなことよりも、唐突に現れた蘭に驚いて何度も目を瞬いてしまう。
しかし蘭はそんなわたしに気付かず、勢いのままに口を開いた。
「絵穹っ! わたしと一緒にパン食い競走しない!?」
「…………え?」
──……え??
驚きすぎて、一瞬頭の中が宇宙とハテナで埋め尽くされる。
しかしすぐにハッと我に返り、蘭を凝視した。
さきほどまで蘭は、クラスメイトの女子と一緒に喋っていたはずだ。
「えっと……ごめん、説明してもらっても……?」
「あ、そうだね。説明する!」
蘭はフンスッとやる気に満ちた瞳でこちらを見るた。
「わたし、運動とか本当にからっきしでダメなの。でも絵穹は得意な方でしょ? それで練習に付き合ってほしくて……!」
「全然大丈夫だけど……。わたしでいいの?」
「絵穹がいい!」
蘭がキラキラと輝いた目でわたしを見ながら言うので、嬉しく感じながらも少し照れくさかった。
「……わたしのせいで、今は絵穹が一人になっちゃったから……。体育祭がチャンスだと思って」
「チャンス……?」
蘭の言葉に首を傾げる。
すると蘭はコクリと真面目に頷いた。
「体育祭で、クラスのみんなと仲良くなるチャンス。綺花ちゃんや葵ちゃんや美菜ちゃんとも……少しは関係を改善できるかもしれない、チャンス。体育祭でみんなの役に立って、わたし達もクラスメイトの一員だってアピールするの!」
──あぁ……。
わたしは目を伏せた。
何故、蘭はこんなに真っ直ぐに向き合えるのだろうか。
わたしは辛くて、何も感じないようにして逃げて、ほとんど諦めていたというのに。
「……手伝って、くれない? 絵穹」
蘭が不安そうに瞳を揺らしながら訊いてきた。
正直、馬鹿らしいなと思う。
本当にそんな上手くいくのか?
そこまでしてクラスメイトと仲を深める必要はあるのか?
そう悶々と考え……頭の中に、瑠梨の明るく笑う可愛らしい顔が浮かんだ。
「……手伝うよ。〝友達のため〟だもんね」
わたしは久しぶりに感じた夏の爽やかな空気をめいっぱいに吸い込み、ニッと笑った。
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