第16話 私は魔女だと告白する

 <遺書>

 

 ご両親の帰りは遅いとのことだったので、僕は暁の身の回りの家事を担うことになりました。と言っても、女子の暁の方が、男子の僕よりよっぽどスキルはありますから。手伝いの範囲を出なかったように思います。焦がしたチキンの煙を悟られないよう換気扇をフル稼働させて、横目で暁の手つきを真似しながら衣服を畳みました。


 お風呂を沸かし、慣れないままに雑事に勤しむ僕に、暁は一緒にお風呂に入ろうと誘ってきました。

 あっけないほど起伏もなく誘われたせいで僕もこれが普通のことなのかと思ってしまったほどです。

 迷いもありました。ですが、下心が勝ちました。

 衣擦れ音を背後に、僕は脱いだ服を下着まで畳んでいました。見ないよう、見ないよう、努めましたが、暁が裸であることは否応に確認できました。告白した女子の乳房に、僕は鼻息を荒くしていたように思います。同時に、絶対に興奮している様は見せまいと無駄すぎる抵抗もしていました。


 裸の暁を風呂場のチェアに座らせ、腰にタオルを巻いた僕は膨らみを隠すように入浴しました。

 洗って欲しい、と言われました。

 のぼせそうになる頭で、言葉の意味を解釈し、僕はこんなことまでしておいて恥ずかしさが考えを支配しました。あとは堂々巡りです。しない理由、できない理由を並べたて口にしようと思いました。それはきっと良心とは言わないのでしょうが、友達としての必要な境のようにも思ったのです。


 でも、

 悪いことを欲しい、と言われてしまいました。


 悪いこと。この時の僕は、このワードが目的であり手段であり、“命題”でした。

 脳のタガが外れた感覚さえありました。その感情は、欲望の一歩先にありました。

 モヤがかかる思考で、僕はおもむろに暁の胸を鷲掴みにしました。痛そうに顔をしかめた暁を意図して無視し、うなじを舐め、耳を噛みました。反動で暁はチェアから転げ落ち、不全の足をだらりと這いつくばらせ、そんな彼女は横たわったままに目をつむったのです。


 僕は、真っ黒なまま愛を知りました。


 一晩です。一晩中、僕は無我夢中に腰を振りました。どうやればいいのかもどかしく、ときに苦しそうになる暁の表情を見てやめようと何度も思いました。ただ、“悪いこと“、これが頭の中に反芻するたびに、僕はなるべくして暁の思い通りにはならないよう性交を続けました。

 

 午前五時ごろぐらいです。

 ベッドに寝かしつけた暁が寝言をぼやくのです。

 暁は、このまま息絶えて死んでしまいたい、と。


 その発言の真意は、いまだにわかりません。今更、わかろうとうとも思いません。

 しかし、当時の僕の僕は、白濁液の快感よりもずっと奥底の衝動が破裂しました。

 我ながら、どういう思いだったのでしょうか。

 好意?

 怒り?

 友情?

 懐古?

 信頼?

 男気?

 たぶん、どれとも違います。

 ただ、一番近しい気がしていた“愛情”というものとは、絶対に違っていたと思います。



 

 僕は、思いつく限り最大の“悪いこと”をしてやろうと思いました。




 朝焼けは、小窓を挟んで床に黒い黒い影を生みました。僕は自力で工具箱を見つけました。仕事部屋っぽいところにありました。その箱から硬く、固い、トンカチを拝借しました。倉庫に巻き付いてあった鎖の鍵は探したのですが見つからなかったので諦めました。朝のうちに済ましておきたかったので、鍵を探すよりも手っ取り早い手段を取ることにそれと言って躊躇はありませんでした。トンカチがあるのですから、他に思案もありませんでした。

 僕はその足で件の倉庫に行きました。

 音を立てないよう、鍵を壊しました。

 戸を開くと、糞尿と汚水の匂いが立ち込めます。

 秋の終わりの涼しい風が吹いていました。天気は良好。遠くに羊雲が見えたぐらいで、ほとんど快晴です。念の為ジョギングなどで門の外を歩いている住民がいないか確認しました。長く戸を開けておくとこの悪臭が騒ぎを起こすかもしれない。僕はさっさと済ませてしまおうと思い、倉庫の中に入って戸を閉めました。これで異臭と廃人三人と僕だけの空間になった、そう思いました。


 ひとまず、手前の人の頭をトンカチで叩き割りました。


 奇声を上げられる前に二人目。五発ほど。


 最後の人は暴れそうになっていましたが、薬でボロボロな廃人に負ける言われもなくトンカチで殴ればすぐに動かなくなりました。


 ヒューヒューといびきのように息をしていた人を念入りにトンカチで殴りました。ビクンと痙攣を起こしている人も何度も何度も殴りました。手とか足とかは殴らないようにしました。頭だけを執拗に殴りました。持っていたハンマーは片面が釘打ち用、もう片面は釘抜き用でした。僕はここまで釘打ち用の方ばかりで殴っていたので、グリップを捻り、釘抜き用の方でまた同じ数ほど殴りました。なんとなくハンマーの片面だけが赤いことが嫌だったみたいです。

 

 全員、とうとうぴくりとも動かなくなるまで頭蓋骨を叩き割りました。


 この日、僕は、三人の男女をこの手で殺しました。

 

 頭の中は、明朝の湖畔のように澄んでいました。報告しようと思ったわけではないのですが、暁の顔が無性に見たくなりました。だからその前にお風呂に入らないと、手を入念に洗わないと、汚いまま暁の部屋には入れない、そんなことを考えていました。

 倉庫の戸を開け、なるべく赤いものを庭に垂らさないよう努めました。

 ですので、庭の中央に、車椅子に座ってこちらを見ている暁に気づくまでに時間を要しました。

 僕は暁の足に気付き、なんとなく顔を見ることが気恥ずかしくなりました。伺うように見ます。

 やりすぎちゃっただろうか。

 引かれてないだろうか。

 またSEXしてくれるだろうか。

 さながら、僕は媚びるように、へつらうように、もしかすればニタニタと、

 暁と対峙しました。



 

 瞳孔の奥、暁の目に映っていたのは返り血まみれの僕。

 はじめて、

 はじめて、

 はじめて、

 暁は、僕と目が合いました。

 はじめて、恋にでも落ちたかのような目で、僕を見ていました。

 


 

 それは、静かでした。静かな雷のようでした。

 同時に、長い長い夢から、覚めた瞬間でした。

 これが暁の本性だと、そのときになってやっと知ったのです。刹那、“悪いこと”とやらを覆っていたヴェールがありえないほど希薄になり、雪崩のように心臓にのしかかってきました。チラついたのは、粘りっ気のある真っ赤な手。服で拭いました。汚れは取れませんでした。

 人を殺した実感が、感触が、罪悪感が、汗せんから噴き出しました。

 人を殺した。

 人を殺した。

 人を殺した。

 こんな、こんな、くだらないことのために。人を殺した。


 これが、僕の遺書です。

 僕は、どうしようもないほどに我を見失っていました。僕は、悔しいほどに愚かでした。手元に残っているものは何もないはずなのに、やらねばならないことが大きく多く束のように積み重なっているように感じます。ですが、今から死にます。だから、いたたまれないのです。

 これは、たかが僕が好きな子の気を引くための所業でした。

 すべて、すべて、僕が悪いのです。責任は僕にあるのです。

 

 でも、あえていうなら、

 友達選びを間違えました。


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 熱源があった。燻る種火を、私は、私たちは、手のひらの厚皮で握る。

 火傷を厭わないその様は、美徳への敬意であり、悪逆への嫌悪である。

 私が『暁』の家の子として生を授かった日から、私への愛情は絶えることなく注がれ続けた。皮肉とかじゃないよ。感謝してる。ほんと。実際、程よく裕福な家庭で私はすくすくと育っていったし。教育も負荷がかかりすぎないよう、でも弛緩しすぎないよう、と至って健全なもので不満なんてない。いささか性事情に潔癖な節はあったけれど、普通で十分な愛によって育まれた。文句などあろうはずもないんだ。

 ……あろうはずも、ない。

 ……種火は、燻っていた。


「ねぇ、__ちゃん。〇〇くんたちがあそぼって。一緒に行こうよ」


 当時、小学生時代の私の性は『暁』ではなく『__』だった。

 家庭内で不和があったとかじゃない。難しくてよくわかんないけれど、選択的夫婦別姓というもので、戸籍的には『暁』だったけれど、私は『__』の姓を選んでいた。小学生時分、選んでいいよと言われてもよくわかんなかったから書きやすい方にした憶えがある。


「いいよー」


 友人からの誘い。断る理由もなく、約束を受け入れた。ここで断っていれば人生もっと分岐していたのだろうか。いや、きっとどこかでまた地雷を踏み抜いていたことだろう。それぐらいの何気ない日常の一コマにまで、あの悪魔の代物は潜んでいた。

 連れてこられたのは近所の空き地。

 そこには〇〇くんと取り巻き二人。

 いいものをあげると言われ渡されたのは何かが入っている小瓶。それを手に取る。当初、私はこれを硬いクリームのよう、と思っていた。しかし、今になって思えば、あれは軟膏だ。クリームよりも水に溶けにくく塗布した箇所に残ってくれる。

 だから、“香り”だって維持される。

 そのための“軟膏”だったのだろう。


「嗅いでみなよ。すごいよ〜」


 取り巻きから匂いを嗅ぐよう勧められた。勧められた、というより、誘導されたというべきだろう。私たちはなんら疑うことなくスンスンと鼻を近づけた。

 ひとことで言えば強烈。脳を誰かから両手で無理やり揺らされたかのような錯覚に陥り、私は立っていられなくなって転んだ。尻餅なんかじゃない。顔から倒れるように転んだのだ。痛みもジンジンとわかってきたのはずっと後。不思議な感覚、酔ったような感覚、いまだからわかる“確実に危険な“感覚。

 

 それが“麻薬”との出会いだった。


 私はその日以降、麻薬を嗅ぐことはなかった。理性が強かったとかではなく、単純に気持ちの悪さが勝ったから控えた。

 でも、友達はどハマりしているようだった。もっと欲しい、もっと塗りたい、もっと嗅ぎたい、それしか頭の中にないような。

 〇〇くんは、まるで事務でもこなすように「なら働いて」と。

 友達は即断だった。一方、私も一人になるのイヤで頷いた。こんなやりくちで街の子供たちを勧誘していたのだろう。私や友人個人で誘わず数人単位だったのは連帯と監視の両立も兼ねていたのだろうか、なんて思い始めると、どれだけこの名前も規模もわからないグループが精緻なコントロールで動かされていたかわかる。きっと、首謀者は碌なやつじゃなかったんだろうなぁ。

 全体像すら見えないグループには、三つの約束ごとがあった。

「言われた通りに働く」

「口外無用の秘密厳守」

「上の命令は絶対遵守」

 鉄の掟だった。ここの使用者と労働者の関係性は近代の資本主義の理想と言ってもいいぐらいの完成度だった。労働者は明確なエサをを配当され、使用者は旨みを吸う。どちらも納得し、どちらも利益を貪れ、どちらも見張り合える関係は次第にグループを強固なものとし、結果として今になっても大人たちから認知すらされない完璧な犯罪を生み出した。


「えー、お前んち金持ちだろ?もっとくすねられるだろー、使えねー」


 子供が子供を従えている場面をよく目にした。搾取する子供はそれが当然の権利であるかのように、また搾取される側も申し訳なさそうに。

 ヒエラルキーがあった。麻薬の原産者に近い人物ほどヒエラルキーが高い。ヒエラルキーは明確にあったわけではない。徐々に形成されていったようなものだった。情報の格差は、そのまま身分の格差へと変貌していた。それは麻薬を受け取るためには何らかの物々交換、ないし金銭的取引を要していたことがヒエラルキー形成に影響したのだろうと思う。上納品次第で、自然とヒエラルキーの変動が起こる。

 麻薬を欲しがっている子たちはわらわらといた。

 麻薬で型取られたヒエラルキーは、歪にして完璧だった。


「……これ、持ってったらいいのかな」


 友達の誘いで、ある集まりに足を運んだ時のこと。

 小瓶には、ごく少量の軟膏が水滴程度入っていた。

 運べと言われた。

 だから、運んだ。

 行ったことのない街々に赴いた。遠く遠くに行くごとに、人と知り合い疎遠にもなった。もっぱら友達とは別々の行動になる。いくつもの中間地点を挟んで消費者に届けられる仕組みだったようだけれど、私たちのような末端はともかく遠くに行かされた。褒賞は微々たる軟膏。あんまりいらなかった。でも、みんながやっていたからやった。

 いろんな人と出会った。不良そうな子は少数で、意外に普通そうな子が大半だった。

 たまに大きなお兄さんにも小瓶を渡した。当時は怖かったけど可愛がってもらえた。

 男の子との遊び方を教えてもらった。

 男の子との遊び方を覚えた。

 男の子って、素直で、単純で、正直なんだなぁって思った。


「…………?」


 遠方まで運んでいた小瓶も、褒賞の小瓶も、小指のサイズもなかった。

 中身の軟膏もごくごく少量。たまに性的な遊び。

 こんなもののために、みんな必死になっていた。 


「……なんで、私」


 必死になって組織を作って、

 必死になって麻薬を運んで、

 必死になって匂いを嗅いで、

 必死になって気持ちよくなっていた。

 みんな、みんな、薪をくべられた焚き火のように、燃え盛っているように見えた。


「……なんで、私、いいなぁなんて思ったんだろ」


 何不自由のない家庭に生まれ、不便のないよう教養を得て、不利のないよう習い事も怠らず、不満の沸く隙間もなく愛されていた。一方で、出会った子供たちの多くは私よりもずっと貧相な生い立ちの子ばかりだったはずなのに、どうして私が羨むのだろう。いいなぁ、なんて、思わされるのだろう。

 必死になりたかったのだろうか。

 夢中になりたかったのだろうか。

 麻薬は嫌いだけど、友達と遊ぶのも、男の子と気持ちよくなるのも楽しくないわけではなかったはずなのに。


 だれかに悩みを打ち明けられるほど、私はこのいいしれぬ空洞に灯火を掲げられなかった。


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 三人の友人ができた。あっちゃん、かーくん、さぁくん。三人とも明るく朗らかな薬物中毒者だった。

 運べば運ぶほど、ごく少量の麻薬が少量の麻薬となり、麻薬となり、それなりの量の麻薬となった。


「あげるよ。うちにあっても使い道ないし、お母さんに見つかったら怒られそうだし」


 だから処分の意味も込めて麻薬全部を三人の友人にあげた。

 とっても喜んでくれた。

 それ以降私は三人にとって、話せる友人から、使える友人になった。

 運んで、貯めて、運んで、貯めて、運んで、貯める。それをあげる。

 喜ぶ顔が見たかった。そんな純粋な気持ちで譲渡を行なっていたのだろうか、いまになっては当時の気持ちなんてわからない。ただ、なんとなく、いまも同じシチュエーションになったら同じような選択をしているように思う。


 私は、仄かに胸の高鳴りを覚えていた。

 種火は、煙を吐き始める。

 

 もどかしくなった。ごく少量の麻薬を元手に三分割すると考えると、満足に麻薬の譲渡を行える状況というのはあまりにも遅々とした進行を踏まずにはいられなかった。ムズムズと胸の奥のなにかが疼く。うまく言えない欲求を満たせない現状が、果てしないまでにもどかしく思えた。

 だから、ある男の子に特別な上納品を差し出した。

 単純だった。素直だった。男の子は食べてくれた。

 その男の子はサッカー部で、培われたコミュニケーション能力からもヒエラルキーの高い子だった。だから、麻薬の輸入先の居場所も知っていた。男の子には別日の上納品も約束し、気持ちよくなっている間に自分のアリバイを作っておいてもらった。みんなやってるアリバイ作り。


「ここ、使っていいよ。うち、ここの倉庫だれも使わないから」

 三人の友人に場所を提供した。


「ほら、いつもの。たくさん手に入れたから」

 三人の友人に麻薬を提供した。


「アリバイ、作っておいてあげる。ここでゆっくりしててよ」

 三人の友人に安寧を提供した。


 ある日、欲が出て麻薬の出所のお婆さんに直談判に行った。交渉は意外なほどうまくいった。他の子よりもたくさん融通してくれることになった。

 敷地は大きな山の上、こっそり麻薬を受け取ることに苦労はしないと思っていた。だけど、規律のある警戒網は尋常ではなく、いちどバレてしまった。バレてしまったから、私はサッカー部の男の子に罪を着せた。簡単だった。彼は私と関係を持って、写真を撮って、私にお婆さんの元へ交渉に行くよう言われた、と。嘘の密告。実際に男の子は親に買ってもらったケータイでパシャパシャ私を撮ってたし、言い逃れはできなかったっぽかった。


 その日、その男の子は集団リンチにあった。


 私は立ち会えなかった。どうやら他の男の子は私が無理やり食べられた、みたいな想像までしていたらしい。そこまでいってないけど。当時の胸中のざわめきは、いまでもよく覚えている。良心の呵責のようで、自分はダメなことをしてしまったんだと言われているようで、実のところそんな感じでもないようで。

 ともかく、それは後悔だった。


 なんの後悔だったんだろうね。……さぁ、よくわかんない。よくわかんないけど、まぁ、うん。なんとなくなら。

「……たぶん、なんだか可哀想って思って、……萎えてたんだと思う。解釈違いってやつだったんだろうなぁ」

 

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 お婆さんがいなくなった。殺されたらしい。自業自得の訃報に、私は心が弾んでいた気がする。

 友人の私を見る目が変わった。まだ麻薬を仕入れるツテがあると思ったのだろう。実際にあった。

 三人の友人は誰も帰ると言わなくなった。

 三人の友人はずっと倉庫の中に居座った。

 とうとう三人の友人が家族に見つかった。怒られた。いや、怒られるとかの次元じゃなかった。人生で初めて本気で殴られた。父親からだった。母親はそれを見て泣いていた。私はこの時になってようやっと自分のしてきたことの業の深さを本当の意味で知った気がした。腫れた頬の痛みが引いた後も、ジンジンと尾を引く鈍痛に夜も眠れなかった。


「……ごめんなさい」


 しばらくの間、結論は保留となった。

 それはもう究極の選択だった。

 一家で心中か、あれを殺すか。

 謝って済む問題ではとっくになかった。

 結論が出るまでの間、私は三人の友人にご飯を配膳する係となった。まじまじと自分の罪を見せつけられているようで果てしない苦痛だったけれど、自分の招いた咎としてこれを日課とし怠ることなく続けた。

 未成熟な子供の体躯が薬物に蝕まれ中毒者と化し、意識も朦朧とし混濁している様はさながら地獄に住まう餓鬼のようだと思った。もはや自我のようなものはなく、麻薬によって植え付けられた本能に乗っ取られる姿は、さながら虫か害獣をガラス越しに見ているようだった。飛び回る蠅、たかる蠅、はむ蠅。そんなものを他所目に麻薬を嗅ぎ、排尿を垂れ流し、気の向くままに食事を済ます。あとは口を開けて時間の流れに揺蕩うだけ。そこにいたのは、子供らしい子供などではなく、出涸らしの廃人だった。

 それでも三食、ご飯を倉庫へ持って行った。

 日に日に、家の中の雰囲気が死んでいった。

 快晴の日が続いた。

 

 お盆に食事を載せ、運ぶ。

 

 お盆に食事を載せ、運ぶ。

 

 お盆に食事を載せ、運ぶ。


 お盆に食事を載せ、運ぶ。


 ある日、なんてことのないミスでお盆に載っけていたそうめんを落とした。グチャっと、パリンっと、食べ物だったものが散乱する。薄茶色の床にツユが広がり、不恰好な着地姿のそうめんとガラスの破片。

 拾おうとした。

 その時だった。

 それは衝撃だった。それは衝動だった。季節はちょうど今のような真冬、雪さえ凍える極寒の日の朝方、それはさながらこの時期に咲くはずもないであろう春の花の蕾が、期を熟したかのように花弁を朱色に染めたかのような、爆弾のような感情のゆらめきだった。

 

 ……あっちゃんが床に散らばったそうめんを啜ったんだ。ずるずるって。


 よほどに腹が減っていたのだろう。

 砂や小石も構わず飲み込んでいた。

 衝撃だった。衝動だった。ドロドロとしたヘドロが清流になるような感覚だった。

 自分の中のなにかが、長い夜の末にやまびこのように轟く暁光の如く明瞭となる。

 弾けるように、顕になる熱源。

 早鐘のように高鳴る鼓動。当時、私はこの感情の正体をけっして言語化できなかった。知る由もなかった。その曖昧であって漠然とした熱源にあえて名前をつけるのであれば、と。取り残された今までの生で得た知見を当てこむのであれば、と。ならば、こうなるのだろうか。


 それはきっと、『発火』なんだ。

 私は泣きそうになる程の激烈な興奮のまま、あっちゃんの腹を蹴り飛ばした。


 かーくんのあっけらかんとした、状況をわかっていないかのような間抜けヅラを殴り飛ばし、踏みつけた。さぁくんにも平等に、持ってきたとりわけ用の小皿を投げつけ、倒れたところをなん度もなん度も腹を蹴った。顔を蹴った。髪をひっぱり鼻を潰した。なん度も、なん度も、なん度も。

 種火は激情のままに燃え盛った。

 ずっと滞っていた血液が身体中に満ち満ちるような、そんな得難い幸福感に満たされた。

 笑った。人生で初めて、心から笑った。麻薬を舐める中毒者を足蹴にただ快哉を叫んだ。

 最っ高の気分だった。

 心の底から高揚した。

 だから、あっちゃんが後ろから突撃してくるなんて予測がつくわけもなかった。その時の打ちどころというか、倒れ方というか、その後の中毒者の友人の悪あがきが思いの外に重かったのか、その日以降、足が動かなくなってしまった。運び屋だった足が消えた日だった。両親は、いわなけれど、それが決定打だったのだろう。倉庫の中の生き物は、決して祭られることのない“さわらぬ神“となった。


「……愉快犯、……愉快犯かぁ。しっくりきちゃうなぁ、はは」

「……おかしいよね。……おかしいよ」

「……テレスはさ、餌を喰むヒトを見たことがある?」

「……そう、餌、おおよそのヒトが口にしないもの」

「……ひどいもんだよ。……でもね」

「……私はね、……子宮が疼くんだ」


「……どん底のどん底に自分から足を踏み外すバカなヒトとか、……自業自得も自業自得で救ってあげようとする気さえ起きようもないどうしようもない終わってるヒトとか、……そんなヒトたちのわかりきった破滅を見られたときのドクドクとした激情がっ、……セックスのひゃく倍気持ちいいんだからっ、おかしいよね、どうかしているよねぇえ、これってどうかしてるよね、ねぇ、テレス!」


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「……どうかしていると思うよ。端的にいって、病気だと思う」


 慰めて欲しいわけでもなさそうだったから、慰めてやるだけの度量も価値もなさそうだったから、私は思ったままの言葉を口にした。息を呑む暁。彼女もわかっていたはずだ。こんな醜悪な自分の内側を曝け出したって、私が「そうか、そうか」と頷くわけがないだろうってことぐらい。

 常人というか、健常者ってやつは、お前とは一緒に笑えない。

 

 なんせ、お前は数人の友人だったものを“シャブ漬け“にした。


 なんせ、お前は数人の友人だったものを“監禁状態“にした。


 なんせ、お前は学校の友人だったものを“犯罪者“に仕立てた。


 なんせ、お前は学校の友人だったものに、数人の友人だったものを殺させた。


 なんせ、お前は学校の友人だったものを、“自殺“に追い込んだ。


 なんせ、お前は四人の人生を、否、無数の人生を根こそぎ奪ったのだから。


 動機は、身の毛もよだつほどの醜い快楽のため。どうかしている。こいつは、どうかしているんだ。

「……テレスも、そう思うよね」と、さも傷心を気取ってはいるが、それが本心か本心に似せた本心ならざるものなのかに関わらずこいつがイカれたサイコパスであることに違いない。この世にのさばらせていいようなやつではない。罪があらばこいつを咎めなければならないし、罰があるならばこいつを裁かねばならない。こいつは、まごうことなき“悪”である。

 だが、そんなことはもうどうでもいいんだ。

 この際、どうだっていいんだ。興味がない。

 あぁ。そうだ。哲学とか、倫理とか、

 とっくの昔に、あぁ、もう死んでくれと、願うばかりの身になってしまった。


「……私は、自由についてとか、平等についてとか、権利についてとか、それなりに考える機会があった。考えることが好きだった。とても人間的で、誰もがわかっているようでわかっていないような抽象的な概念を言語化することは、既知の道が開発されていくような新鮮さに溢れていたんだ」


 独白というにはあまりに独りよがりな語りを私は続ける。


「……自由は謳歌されるべきだし、平等は尊ばれるべきだ。権利は誰しもが認め合わなくてはならないし、そうやって社会の奔流は人間をそれなりに人間らしい人間にしてくれる。素晴らしいものだ。いまはいがみ合ってばかりのこれら抽象的概念は、いつしか、それはもう人類の叡智と血の滲むような努力の末に理想の結実として“エデン”は開闢するのではないだろうかって本気でそう思っている。きっとそう遠回りじゃないんだ。人間は確実に一歩一歩エデンへと歩みを続けているし、ともすれば蝶の羽根のひとふりがきっかけで、近い将来見られるんじゃないだろうかとさえ思う」


 一年後ということはないだろうが、十年後、百年後、一千年も過ぎれば、エデンの模型図ぐらいは出来上がっているに違いない。


「……でも。私は究極たるエデンは、非情かな、ダーウィンの進化論を援用しなければならないように思う」


「……何が言いたいの?」


「……わかってんだろ?」


 ……端的にいれば、お前みたいなのは生きてちゃいけない。

 自然淘汰されなければならない存在なのだ。幸福らしい幸福なんてものを知る人生ではなく、どこか鬱屈としながらも、それなりの自由と平等が与えられたなかで叶うならばさっさとくたばるべき悪鬼なのだろう。願わくば認知の波紋は最小限で、親族間ですら一過性の悲しみを多忙な現実の波に持ってかれ、行政書類に塵芥の残りカスのような残滓だけが刻まれるぐらいの理想的自死を選んでもらえればこの上ないだろう。

 死ななければならないんだ。

 少なくとも、死んだように生きなければならない。

 生き生きとして生きてちゃならない人種なんだよ。

 ……だからこそ、

 ……だからこそ、、、あぁ。


「……思うよ。切実に思う。……とことん、お前みたいなやつには同情するよ」


「……え?」


「……ちゃんと聞いておいてくれよ。ちゃんと傾聴しておいてほしい。私にしてはちょー珍しいことをしようってんだから。……きっとこの世の他の誰もがお世辞でも言ってくれやしないようなことを、たかが知り合いの私だけが、お前にそれっぽいことを言ってやろうとしてんだから」


 暁は呆けたような様子だったが、私の話を聞くよう促す。

 雪がやみ、雲から微かに漏れる斜陽に気づかせないように。

 滔々と、語るのだ。


「……お前の真っ黒な腹のうちがしれて、共感こそできないけれど、理解ぐらいはしてやれるんだ。なんたって、私は魔女の使い魔だから。しんどいってことぐらいならわかってやれる。暗い衝動とか、制御の効かない無意識の自我が常時背中を押しているんだろうけれど、そんな自分を苛み憎む自分もいる。誰だって自分のことが嫌いになる瞬間ぐらいあるだろうけれど、お前のそれは格別だろう。……それくらいなら、わかってやれんこともないんだ」


 私がはじめて暁の家まで来た日、

 暁が我を忘れて発狂したあの日、

 きっとあの日、私の糾弾で暁は自分の行動・言動を改って振り返ってしまったのだろう。その意図を。すると詳らかになるのは、また誰かを陥れようとする意図。自分が魔女だって告発される可能性があるかもしれないことぐらいわかっていたはずだろうに、それでも他人を陥れたい意図。

 故に、暁は理性の制御が効かなくなった。

 あの発狂の裏側は、罪悪感の現れだった。


「……くるしかったんだろう」


「……」


「……だから、お前は東郷先生に人生相談までした、そうなんだろ?」


 ぴくりと眉が動く。きっと東郷先生が何か喋ったのか、とでも疑っているのだろう。いいや、実のところ当てずっぽうだ。だが、みたところ当たっているようで良かった。

 東郷先生は私との初対面時、人生相談なんてするな、と私に教師らしからぬアドバイスをされた。

 人生相談なんてするもんじゃない。

 あれはされたのだろう。誰かから。

 それも、大人の自分からしても背負いきれない罪の相談を。


「……なんて言ってもらったんだ?……東郷先生は、なんて?」


「……なーんにも。……ただひとこと、そうか、って。わかった、って。大人の人が言葉を失うって、こーゆーことなんだなって思った。入学して数ヶ月もしないぐらいだったかなぁ、懐かしいなぁ。……もしかしたら、困るって知ってたのかも。こんなこと言っても、相談しても、誰も理解なんてしてくれないってわかっていたはずなのに」


「……だから、理解してやるって言ってるんだ」


「……うそだ」


「……いいや、理解してやる。いまさらお前相手に嘘言ってどうすんの」


 小説の紋切り型の一節に『天才と狂気は紙一重』なんてものがある。

 極めて月並みな表現技法だ。誰も天才なんてものをよくもわからず扱おうとするものだから、キャラの設定を継ぎ接ぎする際にそれっぽい語句の一つとして並べたがる、そんなどうしようもなく陳腐で腹立たしいほどに明快な『天才』とやらの表現である。無論、私にも『天才』なんてもの、よくわからない。随分と『狂気』とやらに悩まされた私であるが、それもよくわかっていない。

 ただ、『天才』と『狂気』、その明確な違いがあるとすれば、それはエネルギーのベクトルに収束するのだろう。


「……いいよな。皆々様に顔向けできるような情熱を持っている方々は。とは言っても、そんな方々でさえそこはかとなく人様の顔色と伺っている節があるのだから、社会の機微ってのは莫大にして膨大だ。評価は時に金銭であり、時に名声であり、時に愉悦となる。その大小で苦悶しているうちはいいんだ。一方で、古今東西、お前のような社会のクズは、その情熱の熱量に関わらずベクトルが間違っていただけって理由で叩かれ続け蔑まれ続ける。タチが悪いことに、その加害の主体は社会に収まらず、お前自身も責め苦を強いるんだ。

 ……嫌なこった。どれほど人類が敬愛する“自由”やら“平等”が息をしていないかがわかる」


 誰もが正しさを言及できるほど真理を知らないのに。

 誰もが悪しきを弾劾できるほど潔癖でもないのに。

 ただ恐ろしく掴みどころのない“人間的な性”が、それは勘とでも言っていいものなのだろうか、不明瞭でありながら絶対的な権力を持つ倫理ってやつがベクトル違いの情熱を叩き潰すのだ。


「……されど、ここまで現代社会に悪態を吐いてなお、お前がクズだってことには変わりはないんだ」


「……知ってるよ。そんなことくらい」


 白い吐息がゆらめく。寒さとは別の震えを、両手で体を抱きしめ隠す素振りをする暁。

 ……ベクトルなんて贅肉のない言葉で人の生を語るなんて烏滸がましいのかもしれない。

 ……私はふと、ある“母親”が取り憑かれた言葉を思い出す。


「……暁。きっと、この世界を牛耳っているのは、金でもなければ暴力でもない。“愛”なんだろう」


「……ふざけているの?」


「……いいや。大真面目だよ。結局、すべては愛が束ねているんだって思う。生きてりゃイヤでも愛を欲してしまう。だから響はお前に従ったんだろ。下心だったんだろうが、響はお前に愛を求めたんだ。……それに、だからお前の両親はお前の悪行をあの倉庫内だけにとどめたんだろ。愛娘の足に生涯の障害を負ってしまったことへの負い目もあったんだろうけれど、到底許すこともできそうにない大罪を目の前に親の愛ってやつが目をくらませたんだろう」


 響いているのかいないのか、いまいちわからない。いや、きっと響いてない。

 ただ、かじかむ指を真っ赤にしながら、俯き、何かを考え込んでいる。

 それでいい。静謐さが耳朶を打っていれば、それでいい。


「……提案がある」


「……何?」


 訝しげな目を送る暁。そりゃ、こんな自慰的な文脈の説教をしていたのだから、そういう風な視線を送りたがるのも頷ける。

 だが、もう、そういうのはナシだ。

 彼女の一番欲しがる言葉をやろう。

 ……気恥ずかしそうな演出を忘れずに。


「……友達になろうか」


「……意味わかんない」


「……言ったろ。理解してやるって」


「……だから、意味がわからない!」


 困惑する暁をよそ目に、会話を続ける。

 会話というにはあまりに一方的な、そんな会話を続ける。


「……うるせぇなぁ。逆になんて言ったら納得するんだよ。慈悲とでも言ってやればいいのかい?」


「意味がわからないんだって!……え、だって、話聞いてた?……私、許されないこといっぱいしたのに」


「……はぁ。魂胆が透けてんだよ。どうせ私にお前の過去の話をしたのだって、私の困った反応を見たいだけだったりしたんだろう?ウジウジしながら慰めの言葉でもかけて欲しかったのか?意識的にか無意識的にかは知らないけど、そういった魂胆のお前はやっぱり最高に性格が破滅的だよ。……でも、私は大人じゃない。だから背負ってやる責任もない。なんだったら私は猫だよ。猫なんて、無責任の象徴みたいなもんだろ?」


 だから、やりたいようにやるんだ、と暁にアピールする。

 うまく言えているだろうか。いいや、きっと言えてない。

 だけども、暁は長年苦しみ続けていた。自分の世俗とは間違いなく混じり合わない情熱の方向性に、愛の行方に、ただただ困惑する間もなく惨劇をもってして罪悪感を受け入れてきた。そんな彼女は、彼女自身を、世界で一番憎んでいたはずだ。

 愛されない、愛せない孤独は、狂気に拍車をかける。

 愛から孤独なのだから、あぁ、バケモノができるのは条理なのだ。


「……お前はクズだよ。でも、私は無責任な立場だ。だから、好きにする。理解してやりたいやつを理解しようってんだから、それなら友達になってやるのが何よりも手っ取り早い。きっと、そうなんだよ」


「あ、で、でも」と言葉に詰まる暁。


「……でも、じゃねぇよ」


 誰だって普通に憧れるんだ。普通ってのは、案外、ムズかしいもんなんだ。 

 取り繕った仲ではない。そんな満足できない形ではない、理解し合える友達関係。

 きっとこの先、本当に友達になれたとすれば。早晩、確実に痛い目にあわされる。

 それがわかっている暁だからこそ、“友達”になる提案の意図がわからないのだろう。

 だから、念押ししてやる。

 暁の、理想になってやる。


「もう一回だけ言うぞ?」

「友達に、なってみないか?」


 答えは、数刻置いて告げられた。


「……ごめん、今は無理」


 フラれた。

 

「……私、罪を償う」


 俯いていた暁と目が合う。涙を流す視線が、私の視線と交差する。

 視線が重なる。視界も聴覚も、嗅覚さえも、私に向けられる。さながら、愛の告白のように。


「……私、警察に行く。出頭する。未成年だから、どうなるのかわかんないけど。……でも、罰は受ける。……関わった全員に謝罪に行く。麻薬のこと、しっかりみんなに伝えて、……伝えて、……許してもらえないかもしれないけど、一生をかけて謝り続ける」


 だから、と。暁は、私に語りかける。


「……提案があるんだ。もし、テレスがよかったら、だけど」


 何かは聞かなかった。聞く前に、暁は自発的に話そうとしていた。


「……私、クズだから。迷惑かけるかも知んない。っていうか、たぶん、絶対に迷惑かけると思う。前科がつくだろうし、それで反省してもう二度と同じことをしないかって聞かれても、正直わかんないって答えると思う。性根が曲がって固まっちゃったから、止めてもらっても、それでも気づかないかもしれない。……それでさ、……それでね、……それでも、よかったら、なんだけど」


 震える手。涙が浮かぶ眼。蒸気する頬。

 スカートを握り、覚悟を決めたような声音で、私に告げるのだ。



 

「……私と、友達になっ――――――」


 


 ――――――そこまでだった。それが、最後だった。

 まるでビデオのテープがプチっと切られたかのように、暁の声は、姿は、匂いは、途端に消えた。


 ――――――ガンッ。


 ――――――衝突音。


 ――――――黒い軽自動車だった。

 軽自動車と河川の縁のフェンスに挟まれ圧縮され飲み込まれ。破瓜の如く引きちぎられるフェンスから飛び散る車椅子の破片。もげた車椅子ごと、飛散した血をばら撒きながら、宙にその身を投げ飛ばされる。ゴンっと、固い麩菓子が粉々になる音だけを置き去りにして、水飛沫とともに河川に大きな波紋を浮かべた。

 端的に言おう。


 ――――――暁は、たった今、軽自動車に撥ね飛ばされ河川に沈んだ。

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