螺旋

「……え……?」

クロアは驚いた。

殴られることを覚悟していたのに、今、誰かに助けられたという事実に。

え、てか誰?

思考が止まる。

うん。カッコいい!

王子様キャラのような余裕な笑みを浮かべたら周りにいる女子全員が気絶しそうなほど。

「だめですよ。かわいい女子に手を出しては。」

うん、でも殴りたい。

クロアにとってイケメンとはただカッコつけてるだけにしか見えないのだ。

今この瞬間にも涼し気な笑みを浮かべてる顔を歪めてやりたい。

しかしこいつ、着飾りが上手いな。

他の貴族たちよりも圧倒的に着こなしがいい。

シワが、乱れが、比喩でもなくホントに見当たらない。

髪のセットも非常にいい。

何こいつ?王子様気取りか?

殴られた男はクロアをいま抱いている美少年を見て、目を丸くし、手を小刻みに震えさせ始めた。

「お、王子。ち、ちがいます!こ、これは、その・・・・・・。」

王子だった…⋯。

「言い訳はいい。女子に手を出しては大公の面目というお飾りが汚れますよ?」

訂正。口の悪い王子だった。



「私はルブリス・ノア。今日からここの担任を務める。」

担任の先生はいかにも博識という者だった。

多少シワがある黒いスーツにメガネの老人。

「さて、皆も互いに初めて見る顔だろうから、自己紹介をしようか。じゃあまずは隣の席の人と互いに自己紹介をしようか。・・・・・・では、はじめ。」

合図とともに生徒が一斉に隣にいる人と向かい合い、互いに名乗り始めた。

が。

なんでお前が隣にいるんだよ。

クロアの隣りにいるのはまさかの先ほど助けてくれた王子だった。

イケメンが隣にいる。一番嫌いな。

一方、王子の方は気にせず、にこやかに、芝居じみた仕草で礼をし、名乗った。

「はじめまして。ヴィラン・アレステッド・クロルウェルフ。」

「く、クロア・ヨセフです。」

「ふむ。いい名前だね。クロアはどういう男がタイプかな?」

「は、はあ!?いきなりなんだよ!てか何でそれ聞くんだよ!?」

つい、前世の口調に戻り、同時に大声を出してしまい、多くのクラスメイトから注目を集めてしまう。

だが、本人はそれどころではなく。

「なぜ。ん〜、そうだな。」

王子は小首をかしげ、かと思えばいきなりクロアの顎に手をかけた。

いわゆる顎クイを。

「初めて私を殴って拒んだ君に、興味がわいたからだよ。」

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