出会い
リアラーズ学園。
数多くの貴族が必ずと言っていいほど通う学び舎で、平民どもが気軽に通えるところではない。
だが、クロアが反応したのは、そこではない。
その学園には、生徒が自由に使える工房がある。
生徒だけで、自由に研究できる、ありとあらゆる道具がそろっている部屋が。
(銃が……作れる……!)
彼女はそこに食いつきかけている……のだが……
「やはり名門校には変人であるあなたでも通いたいようですね。」
祖母は名門だから食いついていると思い込んでるようだ。
まあ、彼女は気にしてないのだが……。
「王子、そろそろ時間です。」
「ん?もうそんな時間か。」
読んでいた本をぱたりと閉じ、ヴィランは上着を羽織りだす。
見るからに高級感あふれる漆黒の、軍服に似たものを。
「そういえば、兄上は昨日から帰ってきていないようだが……」
ヴィラン・アレステッド・クルウェルフ。
帝国の、第4皇子。
権力争いでは第2皇子の派閥に組み入っているものの、権力を嫌うといった、変わり者だ。
帝国王特有で雪原を力強く駆け回る狼に似た暗い銀目に母親譲りの藍髪の混じった黒髪、形がよく整った、こちらもアイドルや若手俳優が飛び出したような美形の持ち主だ。
「どうやら領地について難航してるようです。鉱山が大量にあるだけでなく、農地としても適してるようですから。」
貴族や財閥がこぞって欲しがりますからね。
帝国は貴族と財閥が政治的影響力を持つ。
そのため、財閥だから、貴族だから、と言って足蹴にするわけにもいかない。
「そろそろ行かないと遅刻しますよ?」
「ああ、すまない。」
「ここかぁ。」
今日から通うことになった学園は、大きいとしか言えなかった。
前世のころに通っていた学校とほぼ同じ見た目だったからだ。
違うところがあるとすれば、レンガで作られていること、体育館はなく、丸いドーム状の建物が三つあること、前世のころに通ってた学校より大きいこと、ぐらいだった。
まあ、クロアにとってはどうでもいいことなのだが……。
早く作りたいといわんばかりに校門を駆け抜け―――
足を止めた。
そこに少女が困ったように木を見上げているのを見たからだ。
確か、あれは栄光の木……だったっけ?
他国の侵略にあったときに、反撃の起点となった場所に生えてた木……らしいが。
まあそんなことはどうでもいい。
「どうかしましたか?」
ひとまず声をかける。
びくりと、肩を揺らし、その少女が恐る恐るこちらを振り向く。
クロアより背丈が一回り小柄、桃色のくりくりとした目に、ミディアムにした桃色の髪、一見すると小動物に似たかわいらしい姿をしている。
今はびくびくしているが……。
「え、えっと……その……入学生証を、木に引っ掛けてしまって……」
「あー、なるほ……ん?」
どうやら木の上に入学者のみに付与される入学証をひっかけてしまったらしい。
何をどうしたらそうなるのかわからないが……。
「とりあえず受付の人に頼んで取ってもらう?」
「うう……。でも一人で行くのが怖いです……。」
仕方ない。
「じゃあ、一緒に行こう?」
「え⁉いいんですか⁉」
途端に目を輝かせる少女。
さっきまでのびくびくはどこ行ったんだよと内心思いながらも、クロアは、
「いいよ。ほら、行こう。」
声をかけた。
すると、少女がクロアの腕にいきなりしがみついた。
「うん‼」
「ちょおい‼」
「えーと、受付受付……にしても広いなあ。」
迷った。
寄りにもよって。
広い。人が多い。何よりもうるさいしむさくるしい。
参った。
こんなことならいっしょに行こうとか言うんじゃなかった。
クロアはそう後悔しながらも、懸命に受付を探した。
(にしても本当に人多いなあ。騒がしくなってきてるし……?)
クロアたちが通ると、なぜか視線を向けてくる生徒。
「おい、誰だよあの子たち。」
「かわいくね?」
「え、あんなかわいい子たちもこの学園にいるのか?」
え……?
試しに内容を聞くと、これだった。
どうやらクロアたちのことを言っているようだ。
聞こえたのだろう。
少女がより強く、腕にしがみついてきた。
「だ、大丈夫だよ……。」
人の慰め方とか知ることのなかったクロアは、それでもどうにかしようと言葉を発した。
うまく伝わったのか、少女が小さくうなずく気配がした。
早く探し出さないと、そう思い、足を速めようとした時、見慣れない男子生徒がこちらに歩み寄ってきた。
制服の胸元につけられた黄金に輝く鷲の頭から大公であることがわかる。
貴族や兵士は階級を重要視するため、それぞれ特定の紋章を必ず制服の胸元につけるからだ。
顔立ちはよく整っていて、美男子かと聞かれればほとんどの人は美男子だと答えるだろう。
透き通るような肌に、水のような水色の瞳に金髪。
「失礼、お嬢さん方。何をお探しですか?」
気取ったような振る舞いにクロアは内心、引いた。
なるほど、これがナンパとかいうやつか。
「いや、何も探してないよ。」
「では私とお茶でもどうですか?」
「うん、初対面だよね?」
「あなた方と仲を深めたいのです、という理由でもダメですか?」
「はあ……。」
何を言っても食い下がってくる。
そのしつこさにイラつきながらも、どうにか穏便に済ませようとする。
「これから用事があるからそれは無理ですよ。」
「どのようなご用事ですか?」
「えっと……。それは……」
しつこい。
「では、私もご一緒してもよろしいですか?」
「いいえ。お断りです。」
「⁉」
隣で我慢してたのか、黙っていた少女が突然、口を開いた。
「そもそも、初めて会う方に対して土足で踏み込もうとするのは不愉快です。」
「交友を深めたいから、ではだめか?」
「交友を深めたいのであれば、まずは名乗るというのが筋ではないでしょうか。大公の端くれ。」
もう暴言まで吐いたよ……。
瞬間だった。隣の少女が吹き飛んだ。
殴られたのだ。
「は⁉ちょっ!」
慌てて駆け寄ろうとする、が、腕をつかまれる。
「お茶でもどうですか。お嬢様。」
その男はなおもにこやかに聞く。
否。早く受け入れろと、目で訴えてきている。
さながら獲物を見つけた肉食獣のよう。
ついに堪忍袋の緒が切れ、クロアは背中に隠し持っていたそれを取り出し、殴りつける。
木材と金属でできた、火縄銃に似た、でも砲口はラッパのように広がっている。
ブランダーバス。
世界初のショットガンであり、ある時は海賊が、ある時は騎兵が、広く使用されてきた銃。
硬い金属で横殴りにされ、男は思わず腕を放し、吹き飛ぶ。
野次馬の中から悲鳴が上がる。
でも、それに構わずクロアは少女に駆け寄る。
「大丈夫⁉」
「うう……はい……」
少女は右ほおを抑えつつも、どうにか立ち上がる。
「貴様あ‼」
男が憤怒の形相で立ち、ずかずかと歩み寄ってくる。
そして、クロアを殴ろうとこぶしを振り上げる。
クロアは反射的に目を閉じ、備える。
「それはだめですよ。」
直後、誰かが目の前に立ち、こぶしを受ける気配がしてきた。
恐る恐る目を開けると、そこには手のひらでこぶしを受け止める美男子の姿があった。
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