第28話

身の上話などをする時には、アネモネさんと二人っきりの時もありましたが、たいてい誰か他の人もそこにいました。

特に若き作家は、いつもアネモネさんと一緒に娘の話を聞き、やはりアネモネさんと同じように、励(はげ)ますように娘を見つめたり、娘の話に涙ぐんだりしていました。


作家が目に涙を浮かべながら、優しく、「君は本当に随分(ずいぶん)と苦しんで来たんだね」と、言ってくれた時には、娘は、自分の嘗(な)めてきた苦しみが、スッと取り除かれて、心が軽くなり、報(むく)われたような気持ちになりました。


アネモネさんも娘の話に胸を痛め、優しく娘の手を取りながら、目を赤くしてこう言いました。

「私の文豪さん、これからもあなたの人生には、色々な障害や苦しいことがあると思うわ。でも、けっして挫(くじ)けてはいけなくってよ。


それは、あなたのように才能に恵まれた人間には付き物なんですからね。才能のある者の人生は、苦しいことが次々と起こるようになっているの。


生きている限り、それと闘わなくってはいけないんだわ。もちろん、これは誰の人生においても言える事ですけど…。人生って、誰にとっても苦しいものだし、闘いですものね。


それに人生って、けっして、平等なものでは無いわ。命でさえも平等ではないでしょう?生きたいのに生きられない、かわいそうな人達がたくさんいるわ。優しくて善良な人が、ひどく苦しまなければならなかったりすることもあるし。


でも、やっぱり才能のある人間の人生は、特別に苦しいものだと思うの。だからこそ、深みのある作品が生まれて来るのだけれど…。

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