第27話
作家の友人の一人に、みんなに「アネモネさん」と呼ばれている女の人がいました。同じ女性が見ても、ハッとするほど美しい人でした。
上品で、繊細(せんさい)で、優しく聡明(そうめい)な人でした。
長い黒髪は、きらきらと美しく宝石のように輝き、弓なりのほっそりとした眉の下では、大きな目が明るく澄んで、優しくほほ笑んでいました。
ドレスから覗(のぞ)いた肩は輝くばかりに白く、その肌は絹のようになめらかでした。
アネモネさんは、娘を大変気に入ったようすで、娘のことを、ちょっとふざけて「私の文豪さん」とか、「私の詩人さん」とか呼びました。
娘は、そう呼ばれることに何かこそばゆい感じもしましたが、悪い気はしませんでした。それどころか、幸せな感じに包まれました。
この仲間の集(つど)いに何回か顔を出すうちに、娘はアネモネさんと、すっかり仲良くなったのでした。
アネモネさんは、けっして、お喋(しゃべ)りというのではありませんでしたが、話の面白い、一緒にいて実に楽しい人でした。
娘は、美しくて優しいアネモネさんに、ほとんど恋するのにも似た気持ちを抱(いだ)きました。
それで、いつしか娘はアネモネさんに自分の身の上話を、随分(ずいぶん)詳(くわ)しく話していたのでした。
アネモネさんは、優しく娘の手を取り、熱心に話を聞いてくれました。
時に励(はげ)ますように握(にぎ)った手に力を入れ、時にその美しい目に涙を浮かべながら、アネモネさんは娘の話を聞いてくれたのでした。
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