第29話
芸術家にとって苦悩は、必要なものなのよ。苦しみは芸術家を育て、才能を伸ばすの。私の文豪さん。
残酷なことを言うようだけど、あなたはあなたの苦しみを生きて、大きく成長し、白鳥になりなさい。人間としても、作家としても…ね」
そこでアネモネさんは、励ますように娘の肩に手を置き、じっと真剣な顔で娘の目を覗(のぞ)きこみました。それから美しくほほ笑み、「けっして、負けてはいけなくってよ」と、付け足しました。
白鳥! 本当に自分は、そんなにたいしたものになれるのだろうか? と娘は思いました。少しは期待していたのに、実際には本は全く売れませんでした。
それで、もともと自分に自信の無い娘は、すっかり気持ちが落ち込んで、ますます自信を無くしていました。
こうしてアネモネさんや作家に励まされると、何とか期待に応(こた)えて良いものを書きたい、と心から思うのでしたが、毎日机に向かっても、いい文章も考えも何にも浮かばないのです。
ただ気持ちが空回りするばかりでした。、少しも良いものが書けないように思いました。
娘の作品は、評論家によって葬り去られたような状態でした。
もしかしたら、評論家達の娘に対する仕打ちには、日頃闘争的なものを書いている作家へのしっぺ返しの意味があったのかもしれません。
とにかく、娘の作品を徹底的にけなしていました。かなりひどいことが書いてありました。娘は、それらを読んで、心傷ついてはしくしく泣きました。
そして、次に、もし作品を出しても、批評家からはまた悪口を書かれるに違いない、一般人はそっぽを向いて、見向きもしないに違いない、と思いました。
そうなるとしか思えませんでした。娘は、作家と知り合いになれたことは、幸福で夢のように感じていました。本当にどんなに幸福であったことでしょうか!
けれど、本が全く売れず、よい評判も得られないのでは誰に励まされても、何か書く上での自信には、なかなか結びつきませんでした。
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