第25話
作家は、一つには娘の気を引き立てるために、もう一つには、娘の生活を少しでも愉快なものにしてあげようと、娘を文学仲間のところへ連れて行くことにしました。
そこはTというお金持ちの青年の家で、大変大きくて、部屋数も多く、庭には色も種類もさまざまな花々が咲き誇っている、美しい家でした。娘は、小さい頃の自分の家を思い出しました。
そうして、少し悲しい気持ちになりました。娘と作家が、お手伝いさんに連れられて行った部屋に入ると、そこには十人ほどの男女がいました。
十人の目が、一斉(いっせい)に娘に注(そそ)がれました。
娘は、赤くなって、心持ち顔を伏せました。その日の娘は、薄い緑のワンピースをしていましたが、それはいかにも可憐な姿でした。野辺に咲く美しい花にも似た風情(ふぜい)でした。
彼らは、その可憐さ清純さに心を打たれました。現代に、これだけ世の中に毒されていない、清らかさを持った人間がいるとは、ほとんど信じられない思いでした。
「いらっしゃい!僕らは、あなたに会えるのを、ずっと楽しみにしていたんですよ」
部屋にいた一人の青年が、そう言いました。朗(ほが)らかな笑みを浮かべた、広く美しい額を持った青年でした。
彼がTでした。立派(りっぱ)な服装をしていて、下品なところは少しもなく、いくらか鼻にかかった甘い声をしていました。
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