第23話

その紹介文を読みながら、娘はあの優しい若者が、なぜ評論とか、こういうものになると、これだけ戦闘的になるんだろう、と不思議でなりませんでした。


首をかしげたくなりました。でも、すぐに、人間って、もともとそんな不思議なものなのだわ、と思い直しました。


さて、肝心(かんじん)の娘の作品の評判はといいますと、散々でした。本は全く売れませんでしたし、評論家は口を極めて罵りました。

書評は、どれもこれも娘の作品を、これでもかとばかりにけなしていました。


「こんなのは文学じゃない!」とか「お嬢さんの道楽だ」とか「これを読めば現代文学というものが、どんなに駄目になったかがわかる」などなど、良く書いてあるものは一つもありませんでした。


ある高名な批評家は冷たくこう書いていました。「もし、こういうものが優れた作品だと言うのなら、私のような凡人でもいくらでも傑作が書けるだろう」


娘は、自分の作品が攻撃されているのを読んでは、胸を痛めました。評論家の言葉が胸に突き刺さりました。実際に胸の肉を深くえぐりとられるような痛みを感じました。


悲しくて悲しくて仕方ありませんでした。そして「やっぱり、私には才能なんか無いんだわ」と思いました。けれど、作家は自分の考えを変えませんでした。


作家は盛んに娘の作品に対する悪口に応戦しましたが、何しろ多勢に無勢です。どうあがいてもどうにもなりませんでした。


娘の作品が全く売れずに盛んに攻撃される一方、さるミステリーの大家の、どうみても二級の作品としか思えないものが、数十万部も売れているのを見て、作家は深く嘆きました。

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