第3話

「わあっ!」と大きな声が子供達の間であがりました。桜の樹から落ちる花びらを、我先にと取り合っているのです。淡(あわ)い、紅色(べにいろ)の、可憐に、はかなく美しく咲いた桜の花が、枝を賑(にぎ)わしていました。でも、盛りはもう過ぎようとしています。桜の花びらは、風がそっと彼女達に口づけをするたびに、静かに枝を離れ、ゆらゆらと舞い落ちていくのでした。


子供達はそこから落ちて来る、うっすらと染まった乙女の頬(ほお)のようなその花びらを、簡単に取れると思っています。誰もがそう思います。そして、夢中になってそれを取ろうとしますが、なかなかうまくいきません。


絶対に取れそうに思えたのに取り落としたり、あるいは、全く触れることも出来なかったり。右の方にいくと思ったのに左にいったり、その逆であったり。なかなかうまくいかないのです。


いえ、なかなかどころではなく、ほとんどの子供達は、美しい桜の花びらをつかむことが出来ませんでした。手に取ることが出来たのは、一人か二人でした。


彼らにしてもだいぶ苦労したすえに、やっと手に入れたのです。彼らの間では、花びらを手に入れるために、激しい殴り合いまでありました。みんな服を破いたり、転んだり、殴り合ったりして怪我(けが)をしていました。


泣いている子もいましたが、たいていの子は泣きませんでした。泣いたって、しょうがないと思ったのです。泣いたって、いったいどうなると言うのでしょう?

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