第2話
向こうでは少女達が華やかに笑っています。赤やオレンジや黄色い服を着た少女達は、春風のようにさわやかで、太陽のように元気でした。手を取り合ったり、高い美しい声でしゃべったりしています。
妙(たえ)なる楽(がく)の音(ね)にも似た美しい声をして、優しい姿をした少女達は、地上に舞い降りた天使のように見えました。彼女達は今にもまた天へと舞いあがっていきそうでした。
黒髪は風になびき、唇は声なき歌をうたい、その腕は軽やかに宙を舞いました。生きている詩といってもいいほどでした。
詩の女神達の前を、あまりふさわしくない一人の男が歩いていきます。若くはありません。ちょうど少女達のお父様くらいの年齢です。その眼はドロンと濁(にご)っていて、まるで生き生きしたところがありません。
肩はがっくりと下がり、いかにもだるそうに歩いていて、口の中では何やらぶつぶつとつぶやいています。別にどこに行くという当てもなさそうです。ただぶらぶらと歩いていて、何をする気も無さそうで、やる気といったものが全く感じられませんでした。
男は、娘が窓から見ている間じゅう、そうしただらしのないようすをしていました。顔つきといって特に目立ったところはありません。どこにでもいる人で、服装もちゃんとしています。
ホームレスとか、そういう人ではなさそうです。でも、どうしてあんなふうにしているのでしょう?
まるで生きながら死んでいるように見えました。希望も何もなく、それだからといって死にもせず、男は歩き続けて行っているようでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます