第4話
老人が二人とぼとぼと歩いて来ました。二人ともひねくれたよなうようなところがありましたが、左の方にいる老人は、まだ、すっかりはひねくれていませんでした。時々立ち止まって伸びをしては、いくらか気が晴れるといったようすを見せていました。
子供達を見てにっこり笑いさえしました。ところが、もう一人の老人ときたら、全くひねくれきっていました。苦虫(にがむし)を噛(か)み潰(つぶ)したような顔をしては、何が面白いのだ? というように通りすがりの人を睨(にらみ)つけていました。
この世に住む人間も、全世界そのものをも、ありったけの力で呪っているように見えました。この老人はボロボロの服を着て、靴は底が抜けかけていました。別の老人のほうはまだマシな服装をしていました。服のほころびもちゃんと繕(つくろ)ってありましたし、靴も汚れてこそいましたが、まだまだ履(は)けるものでした。
マシな服装をした老人は隣りにいる連れを見ては、苦痛が和(やわ)らぐのを覚えました。それに比べ、落ちるところまで落ちたような老人は、なんにも救いがありませんでした。それで、人間を、世界を、何もかもを憎悪していました。
その老人の目が、庭先から見ている娘の目とパッタリ合いました。心が歪(ゆが)んだ老人の目には、娘が幸福そうに見えました。何ひとつ欠けるところのない暮らしをしているらしいようすを見ると、老人は、いっそう眼をきつくして娘を睨(にら)みつけました。まるで、眼の力で殺そうとでもするように。
娘はとても耐えきれなくて、パッと眼を伏せました。すると老人は、さも勝ちほこったような声で笑いました。けれども娘は、けっして老人を悪く思いませんでした。かえって同情しました。というのは娘にも、気の毒な老人の気持ちが分かるように思えたからです。
娘は自分の足を見ました。それは奇妙なぐあいに曲がっていました。そのために娘は、ちゃんと歩くことが出来なかったのです。
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