第2話 消えた王城

 【龍ちゃん、僕の頭を操作してない?、

無自覚に思考して、身体が勝手な行動してるし、状況や知識も不思議に分る、

その上でいわゆる本能で行動てるみたいなんだけど。

今もこの国の事も解ってるかの様に、隣国に向かって飛んでるし、これって…】

【お主、さっき多くの民と絆を結んだではないか、その結果じゃよ、

皆の知識も、思いも受け止めており、我の力も既に使っておるではないか。

普通の民の場合は共鳴、同調、更には、以心伝心辺り迄だろうが、

お主は命をも含めて「絆の全て」を使えるであろうが、フフフ…

現に立ち位置も変わった、故に今迄心の底で押し殺していた思いが有ろう、

責任を持つ覚悟なら思う様に心のままにやればよい】

【そっか、こちらの世界に来た事によって力が覚醒した、龍ちゃんと言う

力の後ろ盾、絆と言う形で知識や思いが僕に宿った、先の事は置いといて

今は、皆が困っている事の解消や願いを叶えるんだね。

それからね、龍ちゃんが学校の先生みたいで、ちょっと怖かったかな、

それが今は兄貴みたいに感じるんだ、不敬と思うんだけど、ごめん】

【そうか、よいよい嬉しい事ぞ、フムだとすると、この星の守護はお主だな】


ーーー

 現在移動中の共和国と攻め込んでいる南の帝国の間には山脈が有る。

進軍は海岸沿いか、首都間を結ぶ道路を進むの二カ所だが、侵攻目的が

国を落とすのなら首都間道路で一気にの心算だろう、交易路で道も広く

なだらかで最短距離の600㎞、徒歩で2週間は要する、だが聞いた話では

現在続々と国境に集結中らしいのだ。

 贄の塔から集結地迄は山裾移動の為400㎞程、レシプロ機程のスピードなら

と思うが姫の食事と休息、情報収集の為にオールドフォルハンドの町へ降りる。

人口5千、山間で川の傍、荷運びが船の為増水時には宿にもなる。

平野の端、山越えのベースして機能しており取引はにぎ合う。


 バリアを解いて姫を下ろす。

「おつかれさん、何か食べて行こう」

「あんた空飛んできた、で戦争の事も知ってる、それでもここに降りた、

すぐ傍に敵は居ないからだよね、だから教えて欲しいんだ」

遠巻きに様子を見ていた一人が声を掛けてきた、頷くと

「エイツ帝国との国境が山頂なんだが軍隊は見えたかい?」

「道路が山頂の手前の峰の影だし、山頂は流石に遠すぎて見えない、

でも草原と町付近の森林の傍迄は兵の姿は見無かった」

「ありがたい、2~3日は大丈夫だ」会話を聞いていた皆から声が上がる

「2~3日の余裕だってよ」

「共和国は戦うつもり有るのかな」

そんな雑談が交わされている、そんな中話し掛けて来た男が

「食事取りたいなら紹介する」頷くと歩き出し一軒の店に入る

 この世界では町の普通の食堂なのだろう。

泥レンガと木材で出来た家、窓は突き上げ戸、丸椅子に厚板のテーブル、

足元は土間、屋内は薄暗い、調理場とはドア一枚分の開口部で繋がり、

「お客さんかい?」と中年女性が、そこから顔をだす

「旅の人だよ、エール一杯ずつ付けて昼飯な、俺のおごり」小銭を渡して言う

「情報料さ空からの偵察賃だよ、何方から来なさった」

「ステープムーアからだよ」

「もしかして贄の塔か?」

「ああ、姫を見送りに行った」

「そうだよな、二人共着ている物が高級品だし、見慣れない服だしな

関係者だよな、あ、いけねタメ口きいたけど…不敬とか」

「気にしなくて良いよ」会話の合間にエールが運ばれ、続けて魚のムニエル、

スープ、ピクルス、黒パンと続いた。

 エールは大麦麦芽を原料に常温で短期間で発酵させた度数の低いビール

水代わりに飲用する、理由は水質が悪かったり、硬水で舌触りが悪い場合、

アルコールでの水の滅菌とビールの味で飲みやすくなる為だ。

[ムニエルが有るって事はバター、牛乳が有るし、小麦が有っても黒パンか

収穫量が少なくて貴重なのかな] 

【お主、意外に物知りよな】

[龍司様の言葉のイメージの牛と似た獣は居りますし、ヤギ等も居ります

小麦パンは高価な為、貴族が主に食します]

スープはコーンでトウモロコシ、ポソポソの黒パンを浸して食べる、

現代のトウモロコシに比べ甘味は少ない。

念話での会話で、言葉としてだけでは無く、イメージ迄も伝わる、

現地の彼女の知識で僕の知識とすり合わせる、有難いのだがこれは偶然か…。

等と考えていたのだが、出された白身魚が意外に美味しく食事に意識が向く

「この魚ニジマスの様だけど…」

「名前は異なりますけど川魚ですね」

「この辺りでも支流で採れる魚で、釣って塩焼きが一番って言うんだけど、

ムニエルが旨味が増すから、わたしゃ甘く感じるよ」

「俺もこれが好きで、ここに連れて来たさ」

「野菜は見掛けるけどサラダにはしないのかい」

「生ものは流行病の素らしいとの学者様のお話だよ、だから酢漬けさね」

女将の話を聞いて、中世ヨーロッパの赤痢やコレラの流行時の感染源扱いを

思い出した、全ての物に火を通すか酢等の腐敗を抑える効能有る物に浸ける

そんな話だった筈、菌とか感染、衛生とかの病気の知識、医学の発展自体が

中世の時代レベルなのだろう、衛生観念が薄い世界でこれは注意が必要だ。

 食べ終わりそうになり、この世界の通貨が無一文な事を思い出す、奢りと

言えど何かないかごそごそポーチを弄る、暑とさ対策の残り物である

塩飴と塩昆布が有った。

僅かずつしか無いが初めての食べ物らしく躊躇が有った様だが

「何だこれ、ショッパイが甘い」

「ほんと、甘じょっぱい」楽しげだ。

本音が聞けそうなので情勢を聞いてみる

噂だがと聞かされたのは兄弟の跡目争い、隣国への不対応

この町も逃げ出す者が続出だそうで、目処の立たない者は様子見との事

この二人も様子見で行き先の目処も知り合いもおらず留まっている。


ーーー 

 再び空へ上がる、街道沿いに進むと小1時間程で国境が見える付近へ

人馬の集団が見え始めた。

 グラスカメラON

[肉体の分身化]身体を分身し指示を与える

 分体龍司1[兵の身包み剥いで収納]

 分体龍司2[荷駄の馬車、馬具、積み荷の収納]

 分体龍司3[野営の設備、大型武器の収納]

 分体龍司4[手不足者の補助]

 分体龍司5[同じく]

本体意外に指示を与え複数で処理をさせる

上空数m程高さまで上がり透明バリアを張り、姫と自分の身を守りながら

見せ付けつつ移動開始!、先ず地面を揺する、震度5程度で数度繰り返すと

進軍の足は止まり、逃げだす者も出始めるが大半は様子見で留まる。

更に龍ちゃんの実体化を身近に見せる、突然の出現と咆哮に大混乱に。

マッパの自分に気付いても隠す物も無く、ドラゴン出現でも剣等の戦う武具

身を護る防具の無く、死の恐怖に怯え、集合地点で四方八方へと夢中で走り

逃げ回る、前を押しのけ、倒れる者を踏みつけ混迷は広がって行く、

国境へ向かう者と逃げる者で、街道は怒号と悲鳴の渦巻く状況へ


龍司一行の移動に合わせ渦も移動、麓へ更に出発点へと向かいカメラも追う

 一見すれば「裸祭り」だ、もみ合いで手にするのは我が命だ負けられまい

更に一時間程進むと隊列は疎らに、その後は荷駄も疎らになった。

城の町が遠くに見える位置迄近づいた頃、最後の一団らしき部隊と遭遇する

部隊の指揮官は国境に居たが何をする間も無かった、成らば監視か王族か、

その両方かもで、場違いの豪華装束を身に纏い、とても切り合いは出来まい。


 カメラは10m程の上空を進む、前方中央の馬上の指揮官の武装が消える。

酒焼けの顔と白い肌が露出、ブヨブヨの緩んだ中年の肉体が馬上で揺れる、

龍ちゃんの姿に驚く馬が棒立ち、鞍、鐙、手綱の馬具が消えて踏ん張れず

ずり落ちる、異変に気づき驚く部下、己を見て更に慌くが、さすが親衛隊

主であろう人の周りを囲む、筋肉質の鍛えられたマッチョ集団だ。

「守れ!、王子護衛だ命を惜しむな!」

「死守せよ、何としても死守だ!」

「素手で如何しろと」

怒鳴り声と、困惑の会話が広がる。

 混乱が落ち着いた前方の部隊の一部が帰り始めたのか、道の奥から

人影が続々と近づいてくるのが、ここの部隊からも確認出来た様だ。

「あいつらも裸じゃ?」

「ああ、そう見える」

「戦争に成らん、素手じゃやられる」

守りの包囲の中心付近は見えずとも話は聞こえる、マッチョ組も会話で

新たな怯えが加わるが、突然主で有ろう者が怒鳴り出す

「開けろ!、通せ!、俺は城へ戻るんだ」

人垣が割れて独り走り出す、その姿を見ていた者が続く、やがて一斉に

「逃げろろ~」駆け出した。


 逃げる集団を追い越し上空を進む

【龍ちゃん、何だよこの力!滅茶苦茶だ、無敵だよ!、こんな力を

ホントに僕が行使していいのか?…】

【お主が望んだ、だから力は発揮された。

我と姫の民に依るものだ「共に有る」その事を忘れなければ良い】

 ガムシャラに事を進めてきたが、気が付けば二人のお腹が鳴る

兵士の食料荷駄の中のジャーキーと携行パンを齧った、が…

「堅くて、不味い!」

「ショッパイだけで酷い味ですわ」

「兵はこんな食事で戦いに行くんだね」余りのまずさに食事を諦める。

「守るという使命でも、これは辛いですわね」

「だからこそ褒美が必要なんだよ、手柄の褒賞、そして略奪」

話しつつ進み、森付近で果物を見つけ、姫と分け合って食べていると、

遥か前方に夕焼けに染まる尖塔がまじかに見えた。

「思ったより、ずっと遠かった」と実感する。

 グラスカメラOFF


ーーー

 王城近く、奥まった位置の宿屋を取る

「泊り二名一晩お願い」

「泊まり2名、食事は別料金だよ」

「付けてくれる」

「あいよ、銀貨12枚ね」剥ぎ取り物の銀貨を渡す

「確かに、部屋は2階2の1」

「晩飯は何時から18時から20時迄」

 会話を遮る様に近所の住民だろう…、が飛び込んで来る

「親父さん外見て見ろよ、広場に軍の集団がマッパだ」

開け放たれたドアから外の喧騒を伴って2~3人の親父登場

「あの髭面は見覚えが有る将軍様だ!」

「威張ってる奴が裸って、ザマー無いわ」

「隠さず見せてみろ、ギャハハ」

民衆は広場の者を嘲笑し嘲ている、流石に小声だが耳を澄ませば聞こえる

服を扱う店は裸男の奪い合い、持ち物も無いから金は無いのだが…

助けようとしている者もいるが…

「怪しまれるから、荷物置いたら見に行こう」

姫に耳打ちし、荷物替わりに携行食の袋と衣類をバッグに詰め込んで置く、

手ぶらでは旅人ではないと怪しまれるからだ。

超小型カメラをセットして外出する。


ーーー

 広場には異様な集団が居る。

マッパが依然多いが、布を巻き付けたり様々な方法で一物を隠す、

サイズの合わない服を着た者でもましな方に見える様相だ。

先程と同様な物言いが聞える、ここでも擁護の言葉すら聞かない

近隣からの兵は兵舎、親族縁者に戻り頼る手も有るが、遠方の動員兵は

留まるしか無く、首都での略奪も出来ず、部隊の指揮官も想定外で

手の打ちようが無い有様。


 グラスカメラON

 城門から身形の良い一団が現れた

「お前達はここで何をしておる」

「御前である」主の声に慌てた側用人が声を上げる。

通常ここは「御前である」で始まるのだが、王も余裕が無い事態、

それ程の事が起き、絶賛激怒の有り様だ。

「そこの素っ裸が叔父上か?、何だその姿…負けたのか?」

「あ、や、それは…戦はしておりません、する前にこの有様ですじゃ」

「あれ程の軍を率いておって、戦っておらんと…」

「犯人を捕まえて八つ裂きにして、もう一度出かけます!」

「その様でか…、別の者を差し向けるわ、愚か者が…」

大人しく見守っていた群衆も時間経過と共に騒がしさが増す。

帰還する兵の数も増し、マッパの異様さも加わり何か起こりそうだ。

「戦にも成らずに負けといて、まだ戦うてか!」

「俺らの家族や食い扶持をこれ以上奪うな!」

支配者の更なる出兵の雰囲気に民がキレた、暴動が起こると見えた刹那

[殺されず武装解除で送り返された状況も、理解も出来ぬのか]

頭に声が響き、巨大な実態化を見て腰を抜かす程の威圧が來る

[これがこの国の王族だ]腰を抜かした軍隊、聴衆は

「こりゃ駄目だわ、この国終わるハハハ」

「ドラゴンに守られてる噂は事実だとはヒャッハー」

「竜とまだ戦うだってフフフ」

威圧も無く本音が駄々洩れし始める


 「ん?」「ギャー」「助けてー」王一行が叫び出す

王の発言と同時に、上空の竜ちゃんの傍に姫と並び浮かぶ。

裸に向かれ、落馬する王を受け止め様と構える者、逃げようとする者、

新たな集団のその様に、兵達も自分を見る様だ。

[王を助けたいと思う人は拍手~]

[王様の要らない人、拍手~]遠慮がちに始まり、次第に大きくなる

そして、「ウオ~~~」と地響きの様な歓声!

「やめろ!」「やめろ!」「やめろ!」大合唱と足踏み

[王は要らないと聞きました、では最後のショータイムになります、

帝国の象徴であるここの城を消してみましょう]

[では目を瞑って、ほらー、見てる奴の目、くり抜くよ]

[はいはい、目を瞑ってね、今開けると目が焼けるよ]

[3,2,1、[収納(城郭)]はい目を開けて「パチパチ×2」]

「・・・」民衆も口アングリ

城郭、軍事施設、教会も消え、中の者は強制的に排除され、跡地に残った

[私達も消えるけど、またショーが見たかったら王を殺さない事、

多分生きてる方がここで果てるより苦しむから、3,2,1,ポン]

空には何も無くなった。

 民衆と王族、徴兵は互いに距離を取り心の葛藤、

民衆は今までの仕返しがしたい、王族は命令したい、搾り取りたい

だが…、だが…、睨み合いの最中、一部の兵や城の小者が逃げ始める、

途端に皆が堰を切った様に動き出し、民衆も家に篭り戸を閉ざす…

 グラスカメラOFF


 街の門へ兵や馬子が大勢戻り始め、更地になった王城を見て…

帰る当ての有る者は去ってゆく、民家の戸を叩く者も…

助けも無く、略奪も出来ず、帰る場所も無く、王族に目を向けて、

騒ぐ王族を見て、結局無視し、放置して去ってゆく…、の繰り返し

日が暮れる頃、荒地に王族の一団を見た。


ーーー

 宿で遅い食事をしている、食堂は広場の話で盛り上がる

「王様達を助け様とする人いないし…」

「見た見た、消えるとこ見た」

「嘘つけ、消えた跡を見たんだろが」

「3,2,1、目を開けて、違いね~ワハハ」

私らの正体はバレていない様だ

先の心配より今の幸せ、家や街、家族に戦火が及ばぬ今回は幸いなのだ。

 部屋に戻る、カメラの記録に物色も無く、安全な様だ。

食堂は賑やかだった、王の失脚でお祭り状態、愚王だったのだろう。

食事も早々に自室に戻ると、向かい合ってベットに腰掛け話し掛けた

「君の親兄弟や国の状況を、できる限りありのまま教えて欲しい」

ひとしきり話し込んだら、姫が疲れた様なので[クリーン(風呂上り)]

[リフレッシュ]

「気持ちよく暖かい」

もじもじしてベッドに上がらない「どうした?」

「一人が怖いんです…」前夜の事を思いだし「おいで」[スリープ]

自分にも掛けて姫と共に熟睡、夢の中へ…

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