街の上空に３匹の竜が現れた。

贄の塔の話は街にも伝わっており、絆を持つ者は恐れず城へ向かう、

つられる様に城前の広場は民衆で埋められる。

城の上空に一匹が降りてきて、民衆は姫だと判ると落ち着く、

凛とした声で話し始める「私は贄として…、贄の塔は王子が…」と、

自分の顛末、贄の塔の本来の意味、伯父夫婦事情等を語る。

竜は贄と認識せず、最初の約束で夫婦や良い関係を築く礎と考えられ、

口で運ばれ、殺されるでもなく過ごし、ここに叔父が証人として居る。

贄の塔での出来事も知られており、民衆は話に納得を示す。

続き龍司が話し出す、隣国での事を詳細に、これも開戦前日起こり、

戦わずに済んだ出来事で、情報も入っているし、関心は高い。

近い将来、不安定な隣国の帝国を軸に騒動が起こる事を付け足し、

この国も伯父と姫が加わると不安定になる故、戻らぬ事を公表、

ドラゴンに護られし大陸へ移民を募集すると宣言した。

　反応を待つとやがて、熱狂がきた、「姫様万歳」「姫様万歳」…

「姫を信じ、僕を信じてくれるなら、瞑目し心の声に答えよ」

［我と絆を結べ］［オー］…［近い将来迎える、しばし待て］

1/3 程度の人が光る、熱狂で高ぶり雰囲気に飲まれただけの者、

暴れるのを狙う者、…残りの多くの者には、何も感じなかった。

・・・

　姫の叔父に当たる者は二人、仲も悪く性格も良くない。

伝手の有る王妃と子らの後見を名乗っていて暴発寸前状態、

隣国との戦争回避で、余計悪化する要素が強い。

「勝手に人の物持っていくとか、ホザイテロ」

「身を引くのは褒めてやるが、民に付いてこいだと」

「捕まえろ、反乱罪だ」「謀る奴らを捕まえろ」

時間を置かず城が消えた、隣国の城の様に…

軍、役所と関連施設も、家主の人達を残して忽然と消えた。

トラゴンも時を同じく飛び立ったが、背中に多くの人影がいた。

ーーー

　竜の谷の地と平野の端迄の間は深い森林が数十ｋｍは有る。

平野の端に大きな湖が有り、人手が入らない大森林からの水で潤う、

鬱蒼たる木々で埋め尽くされる間を流れ、湖を満たし平野を流れ海へ、

平野と川の境付近の一画に、数キロ四方が整地され区画整理と道路が

碁盤の目に走り、湖と平野の間の小高い丘にエーツ帝国の元城が建つ。

一部の空き地は丸太や岩石で埋め尽くされている、付近での採取物だ、

働くのはドラゴニュート化したドラゴン達と贄の人族集団の混成部隊、

そう、街を造る準備の為に働き、魔法や力業、変身で臨機応変に熟す。

働く事、創造するが面白いそうで、人の作業よりも遥かに効率が良い。

食事量もドラゴニュートなら、人の２～３倍程度で大丈夫との事だし、

味が有るのが良いそうで、「美味い」を覚えた。

　贄だった竜族に保護された人々は元々自由だった。

と言っても龍の巣の近辺だけが行動範囲だった。

竜の巣付近と言っても、高所で有り落下も、風も龍の羽ばたき、接触、

迷子にもなる、襲って来る小動物だって危険はあるし、動き回れる限界

もあり、竜に飼われた人族、ペットだった。

　自分達の食事を作る以外、する事が無い。

食事用に獲物をくれるし、小竜が居る時は小竜用の肉なら常に有る

竜にしてみれば食べ残しを持ってくるだけだ。

火種は確保してるが、岩の間に蒸気が噴き出す場所が有り、利用して

蒸す事ができる、寒い夜は暖かい岩盤に寝ればいいし、湧き水場が有り

岩盤の熱利用で浴場も有る。

　暇つぶしで動ける範囲を探索し、見つけた物を難題もに渡り増やし

麻や生糸から衣類を作り、簡単な土器を焼く。

簡単な武器は作れるが、持っていても竜達には脅威にならず、

怒る事はない、果物、野菜、香料等で、自分達が美味しいと思う物を

作る楽しみを彼らは知っていた。

竜も味覚や感情を知り、体躯が小さく成れ、周囲への好奇心が産まれた

今こそ、分り合えるチャンスがきたのだ。

ーーー

　ドラゴンパレスと名付けられたドラゴン大陸初の街。

広大な平原の端に突如出現し、周りを堀と石壁で囲まれた長方形で有り

四方を門と橋で繋ぎ碁盤の目の道路、中華の都市の仕様の様で、

その街と隣り合わせの高台に城郭が存在する。

　城は先日落としたエーツ帝国の城を再配置した

意外に大きく使いやすい間取りだった。

その城内の兵舎食堂で竜達が満足そうに食べている。

それを見ながら、姫の叔父ロベルトは嬉しそうだ。

「ねえ、貴方こんな日が来るなんて、諦めなくて良かった」

「ナタリー、君がドラゴンだから人への変身の望みが僅かに有った、

歳を経て能力の開花で…と、だが年が過ぎれば僕は君より早く老いる

このジレンマを何時まで耐えれるか…、心が張り裂けそうだった」

「「龍神様に感謝、龍司様に感謝‼」」

窓口で「もう一杯くれ」ドンブリが突き出される

「はいよ、沢山食べてねー、まだあるよ」山盛りについで渡す

ニコニコと互いに微笑む

　昨日、ロベルトとナターシャは兵舎の一画をもらつた。

その夜結ばれて今朝に至るが、イチャイチャと離れられない二人。

人の基準なら「いい年こいて…」そんな二人を竜達は見守っている。

ーーー

　城が消えたエーツ帝国、元の４国に分裂するのは時間の問題、

ボンクラ三代目であるが、長男で後継ぎだから皇帝に成れただけ、

城が無ければ宝物も金も無い、権力を振り回しても誰も動かない、

実力行使の為の兵を抱えるのにも金が要る。

借金を申し込んでも戻って来ないと判る相手に金は貸せない、

身包み剥がそうとする輩と、権力を利用しようとする輩に囲まれ、

道化を続けるのも後僅か、旧国の有力貴族が動き出している。

　アナト王国も南北で分裂の様相だ、

エーツ帝国の派閥と繋がる気配もある。

この派閥は担がれる王妃の出自が悪い、つまり金が無い、

もう滅茶苦茶な空手形が切られる、両陣営共、何でもアリの状態。

ーーー

　不穏な状況の中、朝に成ると２つの城の消えた国の一部の民、

国関係の建物の多くと、悪い評判の商家等も消失していた。

　その夜、絆持ちの住民は不思議な夢を見た、家族全員での面接だ。

龍司様が微笑みながら現在の仕事と、もし成りたい仕事で農家、

商家、製造等の希望と、住んでる家の移転の有無の希望等だ、

どうせ夢だし子供共々、沢山希望して己のスキルと相談をする。

［目覚めたら新しい土地に居る］と言われ[まさか］と笑い合い

一家で喜んで、夢の中で再び眠った。

ーーー

　目覚めた時、何故か嬉しい感情で心が満たされた。

絆持ちの同族で何かが起きている、心がそう叫んでいる。

家の中は変わらないし…「貴方、外に出て」妻が呼ぶ、

外から大歓声「何処だここは？」「ここは私達の家よ」

「広い石の道に排水溝…」「途中で黙って、どうしたの？」

「この街の様子が何故か判るんだ」「あら、そうね私も判るよ」

「友達と話してくる～」子供達も集まり走り回っている

「おい、食い物やお金は大丈夫か？」

「足りないものや困った事は無いか？」確認していく

「家の周り、近所、街中を見て回りたい」

「食材も置いて有るから急いで食事作るわ」

「自由な時間は３日、ちゃんと頭の中に連絡が来てるんだな…」

・・・

　絆でのデータ共有化である。

脳はCPUであり、AIの原型で、記憶と言うメモリーが付属する。

脳の使用量は全体の数％しか使われていないと言われる、

一生掛かっても得られる知識が、その程田の量だという事だ。

なら、脳に他人の知識や経験等を共有し、使用量を上げる事が

出来たら如何なるかである。

知識を例えで言へばWikiのNET検索データ共有がそれに近いだろう。

SNSやインスタグラムには、ほぼ縛りが無く、正確なデータには

程遠い、曖昧、憶測、風評等の混じる物は判断材料に成らない、

絆がその縛りに当たる、他人を思いやる気持ちの強度が基準だ。

・・・

　「父さん、あの人達すごいね～、力持ちだし、身体も大きい」

「そうだな、あの人達はドラゴンなんだよ」

「空を飛ぶドラゴン？」半信半疑で聞く子供に

「ほら、あそこ変身しただろ」

「見て見てあんなデカい木が抜けた」指さす子供

「ドラゴンって怖いんだよね？」「そうだな、そう思ってた」

「あそこの人達、ちっとも怖くないけど？」首コテンの可愛いい仕草

「父さんもだ、ホントに怖くないんだぞハハハ」顔引き攣ってますよ

・・・

　「お母さん、このお城エーツ帝国のに似てるよ？」

「きっと同じかな」「どうして？同じなの？」

「チーのお家も、朝起きたらここだったから、運ばれたのよ」

「ふーん、おっきい広場有るし、子供多いけど虐めっ子いない、

少し意地悪い子はいるけど、威張る大人や怖い人見ないから嬉しい」

「初めて見る遊び場に知らない物色々、知らない子もいっぱい」

ーーー

　「貴方もこの街に？」絆持ちの親近感を感じ振り向くと商売仲間が

「姫の贄の儀式で、居ても立っても居れず見に行き、その際にです」

「確か隣国のエーツ帝国の商人の方なのに？」

「はい、アナト王国ではなくです」

両国共王城は消えたとの噂は事実と実感する

「姫は、あれ程聡明でやり手なのに、お気の毒と思っておりました」

「御用商人では姫の望みが叶わなかった、見立てが下品なんです」

「センスですか～、確かに色、形は大事ですな」

「弱小商人はチャンスは逃がせませんよ、言葉だけでも縁が欲しい、

見えぬ誠意や努力が理解して戴け、大事にされると」

「解ります、横柄に「うむ」より、会釈で「ご苦労様」ですねハハハ」

・・・

　「この辺りが製造や加工場予定地、アナト軍の倉庫に武器舎、高炉

見覚えのある工場も多い、いやはや、ここ迄やってくれますかクク」

「エーツの工場も有りますよ、取り引きで見覚えが有る、倉庫や資材

置き場の材料も良い品質ですね、量も有る」

「詰所や空き家は事務所や倉庫用ですかね？」

「適当に使えらしいです、龍司様は太っ腹ですよ」

「早急に職人、商人の組合立ち上げでしょうね」

「○○、ｘｘこの方等、あたりかな」

数人の名前の発言を聞いて頷き「新人の教育、不足商品の生産か～」

　「今迄ならこんな緩くやったら、溜め込んだり、横流し考えますね」

「今日の食い扶持さえ無きゃ、私でもやるかも」

「ごもっとも、先渡しでコレだけの量渡されると…裏切れません」

「しかし、戦争に駆り出されない、ドラゴンに守られる環境、それで

食住と職まで心配してもらえる、悪さを考える必要有りますか？フフ」

　「今後、輸送も変わりますよ、転移で大規模な輸送ができるなら

他の大陸との商売も必要になり、わしらの出番ですよ、薄利多売をする」

「庶民に安く売って皆が富めるですか、あ～、そうでしたね王侯貴族の

石潰しはいませんでしたね、高く売る相手は他国ですね、ふむ作戦は…」

顔を見合わせ、大笑いを二人で始める「我らの考える範囲をこえますな」

「いかにも、いかにも、心にゆとり有るって言うんですか、先が見える」

「そうですね、この数日考える事が増えました、どうやって食べるか、

食べさせるか、戦争の不安、理不尽の不安が無くなると、世界が変る」

「姫様と、あの方々に感謝です、皆の為は自分の為ですな」