龍族の末裔

山野狸

第1話 始まり

 何の灯りだろう? 、暗闇の中の頼りない光は…。

僅かに明るい空間、そこだけ闇に飲まれまいと燃え続けるロウソク、

それをジッと見つめ続ける少女、幼さの残る顔、15~6歳位か…、

胸元で両手を組み、唇は微かに動いているが声は聞こえない。

 何故?、何処?、誰?…、疑問しか浮かばない。

意識すると観えてきた、華奢な体躯に白い肌、長いストレート金髪、

幼さの残る顔立ちと発育途中の女性らしさの混在する初々しさ。

 「あ…」漏れた言葉に視線を向ける、目が合った?。

黒とブルーのオットアイが真っ直ぐこちらを見つめてきた、

僕が見ている位置は、彼女の斜め上方で高みからの筈なのだが、

にも拘らずその視線は正確に僕を捉えていた。

[龍…様…待……します]心の声が切れ切れに聞こえ

その呼び掛ける相手の名らしき[龍…]と内容が気掛かりで心に残った。


 「夢か…妙な夢だなー」覚えの無い顔、記憶にない場所…

目が冷め薄れて行くその記憶、また、会えるのかな。


ーーー

 僕の名は木闇(キミヤ)龍司、東京のとある高校に通う三年生だ。

受験は来春なのに進路を未だに決めていない、父母は放任主義で

「自分の好きにして良いよ」と言うし経済的にも問題は無い。

だが祖父に思う処が有る様で、呼び出しがかかり、

取り敢えず夏休みを利用して車の免許を取得、田舎へと向かった。


 久し振りの川の流れる音と小鳥の囀りで目覚めた。

マンション高層暮らしでは防音で外の音は聞こえ辛く、寝不足を

けたたましい目覚まし音で起こされるのが当たり前の生活リズムだ。

だから自然と目覚める心地よさは熟睡したのだろう。

居るべき場所に帰ってきた感で、自然にウキウキする。

 昨夜着いたここは福島県喜多方市の山都町、両親の実家が有り、

僕の家族も暮らす家も有るのだが、そこは現在兄の竜四夫婦が占拠中、

 父の仕事の関係で三年程前に上京、序でに大学は東京にしろと、

当時高校入学を控えていた事も有り、都会暮らしを餌に同伴させられ

三年振りの帰郷となっているのだけれど…そう、家には新婚さん…


 で、僕の宝が有る場所なんだが、川井渡船場跡。

今は橋が有るし、荷の輸送も川船って時代じゃ…無い!

なんにも無しで蕎麦畑だけ~。

 阿賀川と只見川の合流地点でT字型の左岸角付近。

そこに僕の「木闇キャンプ場」があり、お宝とはこの事だ。

駐車場兼オートキャンプ専用二十数区画と、かなり広いテント用の

フリースペース、僕個人用区画と管理棟兼軽食喫茶、売店併設と

共有スペースの運営をしている、そこへ帰る。

 支配人は従姉の蘭姉に店長も兼ねてやってもらい、バイトの高子

(通称ハイジ)とで回している、彼女は小柄で愛らしいので

蘭姉がスイスの民族衣装を着せた事から、似合うと評判になり

本人もコスプレーヤー素質が有った様でノリノリとか。

 繁忙期は従姉妹達が応援に来る、バイト代も良いのだが

蘭姉の人柄に惹かれてか応援希望者は多いのだとか、そんな事情で

女性だけで不用心な為、祖父運営の警備会社に依頼、カメラ監視や

夜間警備も頼むのだが、そこの警備員がコーヒーブレークで立ち寄り

息抜きで場内を見回る事も、仕事中にと思われるが社長が蘭姉と僕の

祖母、孫可愛さで黙認されている。

 その警備会社は同じ町内の高郷町下川井のにあり、目と鼻の先で

母方羽津家の本家筋にあたる。

世間で苗字のゴロから”闇一族”と呼ばれるが「徒党」は組んでない、

しかし、一族に議員、経営者、公務員が含まれれば影響力も有る。

そんな地域の為一目置かれる一族関連の店、安全とも言える。


 お盆の帰省ラッシュを避ける為、早めの昨日11日に東京を出た。

免許取りたての高速運転は僅か数時間でくたくた、意外に気疲れで

昨夜はキャンプ場に落ち着くなり、コテージで早めに寝入った。

 家を出る時は真にルンルン気分だったのに。

理由は車を貸すから実家迄荷物を運べと親父が宣ったからで、

親父も一応経営者、それなりの高級車を所有している、僕の愛車は

当然チャリンコ、だから高級車で帰れるなど、真にドライブ気分!

だけれど、天の恵みなどでは無かった。

 今回のお盆は両親も帰省する、その際、電車と温泉宿泊で旅すをる

真に気ままな旅を夫婦の記念日で二人きりでしたいから、車を回す

そう、配車サービスの片道代行でした。


 川の潺と小鳥の囀りで自然に目覚めた、

まだ早い時間に自分でも驚くが、熟睡のお陰かバッチリだ。

東京なら目覚ましのベルで強制的に起きるのだが、ここは故郷だし

身体が覚えているのだろう。

 三年足らずに帰ってきたキャンプ場。

季節の移ろい感は有っても、山並みと阿賀川に木々と田畑の織り成す

山間の田舎の風情は変らない、その内にここ「僕の宝が!」が有る。


 独りゆっくり過ごし、場内を見回り時間を潰す。

「モージング行くか」今朝の食事の為に喫茶室へと向かう

 喫茶は早い時間帯には地元の年寄で賑わい話を咲かせる。

近年、コロナで帰省も自粛で、この二年はお盆も地元客でにぎわい、

このキャンプ場もグループよりソロキャン、ファミリーが増えた。

「おはよ~蘭姉、モージング頂戴!」

「おはよ~、あらッ独り?、凛と涼子は泊まった筈じゃ?」

「昨晩送ってった、泊めても良かったけど、僕が独りで寝たくて

我がまま言って帰ってもらった、今日来るはず」

「免許取りたてで頑張ったわね」

「親父の車だし、気い張って事故らん様にと思ったら意外にバテた」

「あんたでも気い使うんかクク」

「え~ッ、ところで入りは如何よ?」

「ほぼ満杯、意外にベットロッジ人気よ」

「寝具カバーのクリーニングコストを考えて、寝具をやめて、

藁マットのベットで自前の寝袋使用なら無料でどうぞが、受けてるわ」

運ばれてきた食事を食べつつ情報の共有

「あー、それ判る気がする、床って不潔感有るから」

「夏は特に虫多いしね」

「駅からの歩きは如何?」

「歩き結構居るわね、あんたがアップしてる場所も聞かれる事多いし」

「泊まりたい希望の場所は、できれば叶えてあげて欲しいかな、

最低寝れれば僕はOKだから」


 「そのコテージだけど、手伝いの従姉妹達にも大人気よ

カメラ監視に警備会社委託だから外泊しても親は安心、従姉妹達も

怒られず、バイト代も貰えて、手伝いや小言も聞かないで済むって、

シフト外でも自由に振る舞えるって集まるの」

「ところで蘭姉さ、ここ押し付けといて大丈夫?」

「私のシフトの相手に兄嫁入れたから、辰也、辰兄の嫁さんの春香

あんた知らないか、今度会わせる」

「あいよ、蘭姉推薦ならそれでいい」

「やっぱりあんたさあの父親の血を引いてる、度胸良すぎよフフ、

ここの仕事、私に丸投げで東京へ行くなんて、ハチャメチャだよ」


 スイス、アルペン地方の民族衣装の娘登場

「コーヒーどうぞ」

「この娘ハイジ、本名御崎高子、そっち龍司」

「初めまして~」

「初めまして、紹介が雑過ぎない」

「この子童顔チビだけど、あんたより年上、オマケが駐在さんの娘」

「あ~、若い男来たからコーヒー運んだのにばらすな~、おかげで

男、寄り付かないんだよ、プリプリ」

ウインクしながら戻って行く、10代に見える可愛い娘だ


 「俺、中学生でソロキャンやり出して、ユーチューブで配信して、

悪さしてないとこ親に見せる為だったけど、爺ちゃんも生前贈与で

この土地やるから好きなキャンプ場やれとか、東京で事業起すとか

親父が急に言い出すとか、勝手すぎる話で回りのせいも有るんだよ、

本当にごめんよ、ありがとう蘭姉様」

「しっかり私に感謝しなさい、ここまで流行らせてあげたし

オーナーより従姉妹達の私らの方が、思い入れも強いかもよ」

「ご馳走様、散歩してくる、退散!退散!」


ーーー

 グラスカメラON(※ユーチューブ配信動画撮影用メガネ型カメラ)

         (※『?』内の言葉は配信用

『おはようございます、今日は8月12日で今から散歩初めます、GO!。

ここを歩くのは三年ぶり位ですが、佇まいは以前と変りません。

 快晴で今日も暑く成りそうです、昼夜の寒暖差が大きく熱帯夜は少なく

早朝は涼しいのですが、この時間はもう…。

 川沿いに続くこの道の右は畑、春蕎麦を収穫した後で、耕して空気入れや

乾燥、肥料を入れたり、秋蕎麦の種蒔き後とかで、畝が立ってます。

 左は田んぼで稲穂が実りを付けていますが、穂が垂れる迄には今少しの

太陽と水と時間が必要かと…、しかし、流石米所びっしり植えられています。

谷間の僅かな平地は区画整理され尽し、整地された田と水路は一枚一枚に水が

行き渡る様に、僅かの高低差を持たせ下に流れる様上手く工夫されています。

 車が通る道路は坂や崖沿い、山際をすり抜ける様に田畑の邪魔に成らぬ様

グネグネと遠回りに長く伸び、耕作地の周りは高い木々の風雪除けで覆われ、

見晴らしは悪く山と木々だけで、阿賀川の川面も緑の途切れた一角のみが現れ、

それが低地である、この辺りの景色なのですが…、

 見晴らしの良い場所から望む只見川橋梁と山々、遠く飯豊山連峰(裏磐梯)

阿賀川流域、ここは日本の原風景で故郷とする者は最高の幸せだと思います』


 キャンプ場に繋がる川沿い農道と市道がと繋がる二カ所、下川井集落の南北に

カメラ監視を設置している、出入り監視、確認の為だ。

 そんな様子見ながら歩いていると、坂上でタイヤの軋む音が響く。

「ギシャ」明らかに急ハンドルを切った音だ、嫌な予感が…。

思う間もなく更に軋み音が…、右ガーブで緩やかな下り坂だから、

スピード出せる場所じゃ無いと思って目線を上に向けたら…え?、

ムササビの様に、車が木陰から飛んで出てきた。

通常なら木の根元に食い込むか、坂の壁下に落ちるか、だが、

その予想を裏切り接触で方向が変わり真正面に向かってくる。

相当のスピード出してる「ヤベー、ペチャンコじゃん~」

キモイイメージが浮かんで、思わず声と怒りが沸いた!


 無性に癪に障り、何故か[「バリア」]と叫び両手を突き出していた。

魔法使いでも超能力者でも無いのに…、時間だけが間延びしていく

どうせ死ぬのだと思ったら落ち着いていた、視線の先の車の中の光景、

自分と同じ歳位の男女ペア二組がこちらを見て叫んでいる。

何?…聞き取れない…、逃げればよいのに聞き耳立てるし~

「ドーン」接触したと感じた瞬間に爆発と衝撃が起きた。

痛みは?、何で向うが見えてるの?

破壊された物が…何故か向こう側にだけ飛び散り崩れ落ちていく、

違う!、僕が跳ね飛ばしてるんだ…、只々、呆然と見ていた。

後部座席の娘の顔に見覚えが…やがて靄に包まれ、闇に落ちた。


 グラスカメラOFF (カメラの作動も闇に落ちた)


ーーー

 目が暗さに慣れてくる。

部屋正面のかなり上方に窓が一つ、明り取りにも成らない程度の口が、

薄暗く光量が足りない、無意識に[灯り]と心で唱える。

と…、周りが明るくなり、拳大の火球が頭上に浮く、「なにこれ」

浮いた明りを見つつ口アングリ、もしかして…光量をイメージする、

光量が変化するではないか、これは「ライト」だと確信した。

 先程の車が自分に覆い被さらず、跳ね返る様に違和感を感じていた

それが腑に落ちた瞬間でもあり、理不尽さに憤怒し同時に覚醒したと。

現在異世界転移させられており、この娘に呼ばれたのだろう、多分…。


 正面の床に人が伏していた、今朝方見た娘だと直感した。

夢で見降ろしていた位置を見上げ探すと、5m程のドラゴンの像が立ち、

何かを挟んで、反対にグリフォン…、光量を増し観察し整理すると…

円筒のサイロの様な石積みの塔の内部の様で、中心祭壇、左右が石像、

奥に階段の上り口で時計回りに壁伝いに螺旋状に登り、唯一の窓に続き

開口部の前に僅かなスペースが有る様だ。


 更に視線をさ迷わせる、ドラゴンの顔で動きが止まり何かを感じる。

違和感、違う何故か懐かしいのだ「あの顔…、目を剥いてひょうきんに

テフォルメして…」お道化た仕草で、長い髭をピョコピョコしなながら

喋る相手…【え~と、龍ちゃんただいま!】

    (※【?】龍司と龍ちゃんの念話で使用)

【おう、おかえりじゃい】

【10年振りだね~】

【我だと昼寝にも成らん、居眠り程度じゃてフフフ…】

「ソレソレ!ソレだよ!!」頷きながら独り言ちる

【変わらないね】

【いや、変るぞ!、ここは異世界じゃろ、お主は世界を渡った。

直に能力が覚醒するだろうが、その前に我からお主へ返す力が有る、

覚えて居らぬか?、本能で浮いて移動し、手を使わず物を引き寄せる…

そんな普通ではない力を持っておった。

 巡り会うた時お主は幼過ぎで、良し悪しも解らぬ年齢じゃった。

既に物心ついた頃から力が覚醒していた様で念力、魔法等と称する力を

使っておって、知能の発達と同様に少しずつ進化しておった。

【ぼんやり記憶は有るよ、成長してから何も出来なかったから、たぶん

夢の一部だったと思い込んでた…、親も何も言わずだし…】

【お主の家系には伝わる伝承があり、祖父竜三殿は一族関連の諸事情に

関しては造詣が深い、お主の誕生共関わっておるのだろう】

【爺ちゃんか~、可愛がってくれるけど色々厳しいからな~】

【学校とやらに入る前、その力で予期せぬ事故を自他供に起こさぬ様に

更に特別で力強き者と成らず、皆と同じ普通の人として成長してもらう

意図で力を封じる様に頼まれたのじゃ。

封印の結果は成功したが、この事故から身を守る為に転移を発動させて

不完全ながら封印が綻びた様だ、身を守る為とはいえ「渡る」とはのう

では【封印開放】じゃ】身体が淡く発光する。

【我からも力を与えよう、肉体的にも準備が出来た様じゃて【権限委譲】】

【エ~ッ、いきなり力増やされても使い方解らないし、権限て何だよ】

【この星での我の力を委任するのだよ、我の本体は地球に有る、向うの

世界が本来の守護すべき地とでも言うのかの、まあ、思う様にヤレ】

【やれやれ、親と同じか、どうなる事やら】


 会話に割り込む様に「グ~、キュ~」塔内に音が響く。

静かな状況で十分存在を示すシグナルだ、娘のお腹の虫だろう、

娘に近づき抱き起し[ヒール][クリーン]を唱える。

 気がつくと龍司に顔を向け、目を見開き涙を溢れさせた

「御待ちしておりました龍司様!」

「大丈夫ですか?、気分が悪いとか?」

「いえ…」もじもじしている

 ウエストポーチを弄る、スポーツドリンクとカロリーメイトを

取り出し渡すが、不思議そうに眺めるだけで口にしない。

文字は読めない言葉の様で英語が通じない世界だろう、

僕自身が喋る言葉は意志に関係なく翻訳され、相手の言語で

向うの言葉を喋っており、逆も同じで不思議な感覚の中に居る。

 彼女の様子でふと気付いた、食べ方が解らないのだと。

フタの開け方、箱の開封を教えた後、おずおずしながら口にした、

お腹が膨れ落ち着いた様で、塔内には水場も無く空腹だった様だ。

習慣で外出する時の癖で持ち歩いていて役に立ってよかった。


 居住まいを正すと「この国の王女で「アーシア」と申します」

改めて挨拶された、日本式のお辞儀ではなく会釈、この状態では

カーテシーはできないか、それとも目上の立場の優示かなのか…

王女と名乗るだけに所作は堂に入ったものだが。

「木闇龍司と言います、発音がし難いので、失礼でなければ

龍(リュー)とお呼びください、それで姫様は何故ここに?」

「ドラゴンの巫女で生餌なのです」

「…」

「貴方は今朝方、ドラゴン様のあの目で私を見ておられました」

祭壇横の竜像の顔を指さし断言する。

「その際にお名前も、この世界の方で無い事も知りました。

貴方様はドラゴン様の化身様なのですよね、ならば再度

今朝程のお願いを、慈悲を持って叶えてくださいませ。

私の命と引き換えに、この国を、民をお救い下さい」

己の言葉で感情が高ぶっている様なので、深呼吸をさせる

「僕はこの世界に来たばかりで、事情が分からないんだ、

先ずは経緯を知りたい、君と国の関係もね」


 「国の名はドラゴンに守られし平和な国との意味で

共和国ドラゴン・オブ・ピース と言います。」

抑揚の無い口調で、淡々と話し出した。

 話によると王の逝去、その期を狙い隣国の宣戦布告。

迎え撃つにも後継ぎ騒動勃発で、叔父たち二人が第二、

第三王妃と結託し後見を名乗り、其々の子を立て王座を狙い

今や内乱寸前で内憂外患の態。

 長女の自分は亡くなった第一王妃の一人娘であるが、

ドラゴンから国を守ってもらう為、王の代替わり時に兄弟の

長子が15に成った誕生日に、生餌として捧げられる。

それが今日…で、わたくしなのですと。

 一昨日塔に押し込められ、以来思い余って祈っていた、

石像から何かを感じて見上げたら、目が合って心が通って…。

その様な話を聞いていると…


 「ギェ~~~」魔物の叫び声が塔内に響く!

彼女の顔色が変わる、恐れていた餌の時間らしい。

 腰が抜けた様になった彼女を抱き上げ階段を上る。

僕の初めてのお姫様抱っこが、お姫様とは…等と

腑抜けていたら、足元が見えず目線を下方に「怖い!」

手すりの無い螺旋階段だった…壁向いて足の感覚で…

 獣臭が強く成り、窓に目を向けると、巨大な目が!

枠一杯の迫力に「ウオ~ッ」声が漏れた、足取りが重い


 グラスカメラON

 窓前のスペースに辿り着く、竜が首を上方へ挙げ見下ろす、

こいつ塔よりでかいのか、前方も同体で視界が塞がれている。

首の左右から覗ける範囲は広場の様で、このデカ物でも座れる

この塔の為なのだろう、広場の先は木々が覆い森が広がる。

建物は無いが人の気配はする、見届ける者達か…。


 [ほう、今回は二匹か]

 (※[?]通常の念話)

「人は「2匹(ぴき)」ではなく「2人(ふたり)だよ」」

[ふむ、怯えて泣きわめくと聞いてきたが、これは意外だ]

「僕は例外かもしれない」

[ああ感じるぞ、その秘めし力は同胞に近しい者だな]

「近しき者と思っても貰えるなら、話し合いがしたい」

[汝の力を示せ]

「塔の周りに姫の見送り人が多数居る、被害を出したくない」

【龍ちゃん頼めるか】

陽射しが黒雲に覆われ雷鳴が鳴る、何んだこの演出。

【我を呼んだか】雲間が途切れ現れたのは日本画の龍

1㎞はある長い胴体と長い髭、今日はマジモードの様で

【この星の竜は、我等地球の太古の竜達に似ておる

あの者達には知性の欠片も無かったが、こちらのは進化が…

ほう、人並み、いやそれ以上か】

[実態が無い具現化した竜、形は異なるが神をも呼べる者か]

【力見世など簡単ではないか、溺れさせよ殺さぬ様に】

【成る程、水球】竜の頭が入る程の水球が頭上に出現!

[なんだ、水で戦う等、馬鹿にしておるのか]

後ろ足で立ち、首の撓りで叩き落とす心算の様だ。

「ズボッ」【集合、ゴムバリア】

水玉は弾けず、頭だけが突っ込む状態、ヘルメット装着だ。

予想外の結果に驚いて、慌てて頭を振り回すが外れない、

地面に何度も叩きつけても破れない、水入りゴムボール仕様

こちらの世界にゴム膜のイメージは無く、強度は僕の能力次第

爪、尻尾でも埒が明かず、水を飲み干し膜を噛み切…れなかった。

頭からビニール袋を被って密閉されれば…

[苦しい、負けだ、息をしないと…]

服従ポーズなのか腹を見せた。


 [バリア解除]「ゼーゼー」と竜が荒い息をしている、

その水膨れの腹の天辺へ、軽い重力を纏い塔から飛び降りる

「グヘ」大口を開けて盛大に水が吹き上がる「潮吹き~」

更に顔の横に飛び降りて姫を下ろし、竜頭を撫でながら問う

 「この生餌の儀式と言うのかな?、これで約束道理この国を

守って貰えるんだよね?、ただすぐに隣国が攻めてくるけど」

怨みが増しそうな雰囲気だが、水も吐けて楽に成った様だ。

[この国を守る?、何だその話?、儂らはただ契りを守っておる、

先代のドラゴン姫と幾代も前のこ国の王子との約束を、だ]

会話が噛み合わない、話を聞く必要が有りそうだ。

降伏のポーズを解除させると、服従要請があり受け入れる。

[ドランは龍司にティムされました]

 グラスカメラOFF


 幼い頃の記憶、封印していた記憶が蘇る。

「思い出した、小さい頃小鳥や犬、猫を配下にしてた」

【龍ちゃん、この竜は眷属?】

【お主が眷属にしたばかりでは無いか】

[僕の眷属か~、じゃ君の名は「ドラン」でよろしくね]

[ほう、ティムされたら、神とも捻話できるのか]

[ドランあの程度で、僕を主と決めて良かったのか?]疑問を尋ねる。

[儂を服従させた者等居らん、油断していたとは言え、爪が立たぬ、

破れぬ膜等考えもつかぬ、躊躇せねば儂を吹き飛ばす程の力を持って

攻撃も出来たのだろうに、思慮、慈悲も有る、守護神も恐ろしい。

同族の神、しかも異世界の同族様の神とは、これは救いかもと思い…

 実は現在、この世界を守り、導く神は居りません。

儂らは現在力、知恵の頂点に居りますが、長命故に子は少なく、

熟考は出来ても発想に乏しい、力が無い故に人は道具を使う

現に討たれる仲間も出て居る、今後は増々人が栄える事は必定

成らば共に栄える道を求めるが上策かと…、なれど方策が…

そこえ光明を貴方に見ました、どうか我らをお導きを…]

[ドランの言い分は理解した、協力関係を築く為にも姫の件の解決

から始めよう、その為にドランの仲間と契りの件の話をしたい]

【龍ちゃんそれで良いよね、不足の助言頼むね】

【思い出してくれたと思えば、お願いか、フフフ】

[アーシア話は聞こえたかい?]

[はい、神の声迄聞こえました]

[流石ドラゴンの巫女だね、僕の記憶や念話が少しでも分るなら

君は今日から僕の秘書官だ、ドラン食べちゃダメだから]

[龍司様御冗談をハハ、一族での話し合いの後、贄の件も含めて、

今後の事をお話したく、また長老との挨拶、会談も願います]

[捻話で連絡頂戴]

[はい、では、後日お迎えに参ります]』


ーーー

 ドラゴンが飛び去った海の彼方を見ながら

「ドラゴンは暫く居なくなるから、出ても大丈夫」

大声で隠れている者に話し掛ける。

ワラワラとあちこちの木陰、岩陰から顔が覗き、恐る恐る集って来る。

一人が抱き着き泣き出しながら安否を確認し出すと、瞬く間に人の渦

「姫様は食べられてないよ」「生きてるよ」「ウワ~~」

「オオ~~」「姫様~」「姫~」「バンザイ!」…、これ程人が居たとは、

姫の周りに臣下や慕う者が集まり輪となり、外周りに民衆の輪ができる。

彼女は、これ程に慕われていたのだな


 お祭りの様に姫の無事を喜ぶ臣下らしき者や群衆の騒ぎが続く。

騒ぎを目線で追いながら【龍ちゃん改めてただいま】と、心に呼び掛ける

【ああ、待っておった】話す様な脳内での会話、懐かしい感覚だ。

相手は日本神話の神である「クラミツハ」様、通称龍神である。

 ひと段落の機会に思い出した事を整理する。

幼い頃知り合った経緯は後日の事として、当時から小学校入学迄は

会話は頻繁で意思疎通は父母よりも多かっただろう。

しかし幼子の事であり念話のみではうまく話せず口に出す事も多く

独り言を喋り、誰かと話している様は家族以外には理解されなかった。

いや、むしろその様子は気味悪がられた。

 学校に通う歳に達した頃、それらを察した祖父の願いで、龍ちゃんが

念話を封印して今に至り、それが解けたのが転移によるのだ。

情報の交換や今後の展望等助言を受け【好きな様にヤレ】と言われ、

両親と同じ放任主義かい…なら…と独り志向する


 騒ぎが少し落ち着いた頃に、全員の目に留まる様に、空中に浮く[浮遊]

「皆、聞いて欲しい、先程のドラゴンはここに居る皆の匂い、気配に気付き、

襲う事もできたのだ、にも拘らず襲う事も食べ様としなかった。」

周りを見回す、気付かれていた事実に震えだす者もいる

「それは、人と竜が交わした「何かの約束?」を守る為であろう。

もし、姫があの窓から竜の口に入らねば、ここに居る者の全ての命は

失われて居たかも知れぬ」そう言われ改めて認識の甘さに全員悪寒が走る。

「ドラゴンにも心は有る様だ、僕は彼らを仲間にするだろう、姫も含めてだ

そして、近い将来に新しい土地に渡る、この僕の言葉を素直に聞けて、

姫と共に往きたいと願う者はここで契りを与える、瞑目し己の心に従え

この契りは時の満ちるのを知らせる為のものだ、今は素直に応えればよい」

[往きたいか?、共に在りたいか?、心で欲せ、心で答えよ]

群衆のあちこちで淡い光に包まれる者が続く「オ~」「暖かい」

[僕との絆は、皆との絆、繋がった絆は自ずと判る]

キョロキョロしたり、光った者を見つめる者、不安そうな者…

「今は素直に応えればよいの後、何も聞こえぬ者には絆は無い、

興味本意、監視役、更には見た事が信じられない者達よ、聞くが良い

見た事を有りのままに伝えよ、僕達に害を成す者は相応の罰が待つ

最後に、絆を結びし姫の民に告げる、近い内に迎えに来る、それまで

家で準備をして待て」


その言葉を最後に抱えた姫と共に空に浮き上がる、

小さく成り、やがて視界から消えた。

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