第10話 魔女とお酒⑤
「いらっしゃい・・・・・・ん? 珍しいわね、もう飲んでいるんだ」
暖簾を潜り、私の顔を見たこの魔女の居酒屋の店主、大魔女アウラ・G・デニラが眉をひそめて私を見てきた。
格好は相変わらず魔女のコスプレをしているみたいだが、何度か会うことで風格があるように見えてくるから不思議だ。
確かに酒が回っている自覚はあるので、私は苦笑いを浮かべて店内を見渡す。
「あ、ああ。席空いているかい?」
「勿論。丁度、暇をしていたのよ。お好きな席に座りなよ」
アウラは厨房を忙しなく動いて、調理を開始する。どうやら何か仕込みをしていたらしい。
「今日のおすすめは白身魚ね。この魚は刺身もいいけど、焼きもおすすめね。はい、まずはお通し」
お玉で鍋からお椀に掬ったのはお味噌汁だ。
受け取り、お椀の中身を覗き込むとそこには大量の海苔が浮かんでいた。
「海苔か」
「そうよ。お酒を楽しんできたなら、お味噌汁は重要ね。お味噌汁は水分と塩分の両方を摂取できるし。特にその海苔は特別製だしね」
「・・・・・・」
私は彼女の【特別製】という言葉を飲み込み、お椀に口をつける。
鼻を突き抜ける海苔の風味と濃厚な味。味噌自体の塩分は薄くしているのだろう、その分海苔の味を深く感じられる。
ジワッと染みる。特に酒を飲んできたから余計に美味いと感じる。
視線を感じて顔を上げればカウンター越しにアウラはニマニマと笑っていた。
「・・・・・・んん。今日は作って欲しい料理があるんだ」
軽く咳払いをして、私は本題に持っていく。
「あら? リクエスト?」
「ああ。ここに特別な酒があるって聞いたんだ。それでーーーー」
「サクラね。何を吹き込まれてきたのかしら?」
「っ」
溜息が聞こえ、アウラは厨房の裏に歩いて行く。棚から探していて、出したのは一升瓶。
「老樹アレキサンドラの蒸留酒。数百年に一度に市場に出回るかどうかの幻のお酒。味は勿論だけど、それよりもこのお酒を飲んだ際の効力のほうが有名かしら?」
探るような視線に私はごくりと喉を鳴らす。
そう。私が木村さんからの依頼はこの希少なお酒を私が飲み、そのお酒の効力を封印することだったのだ。
魔女っ子居酒屋24時 蒼機 純 @nazonohito1215
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