第6話 レックス


「ふう……今日もやってきたぜ、リゾガル!」


「何じゃ何じゃ……騒がしいやっちゃの〜」


 俺は初期の頃にやるべきことを学校で考えてきた。


 ちょっと前大学を卒業ところだ。高校はともかく……中学の勉強はまあ大体分かるしな。


 俺の授業ノートには、リゾガルノートと書いてある。


(まだ2日目……大会はおろかイベントも何もやってない。)


 俺からすればいつもの光景だが、この世界ではリゾガルは出来てまだ2日目だ。だが、もうすでにユーザーは50万を突破しているそう。


 100万人もすぐ来るだろう。


(初期に狙うべきは……)


 俺はリゾガル記念すべき第一弾のパックを思い出す。


「──レックスーAssaultー」


 レックスーAssaultー……最初期の速攻デッキアグロ王だ。


『レックスーAssaultー コスト4 スタッツ4/5 能力:召喚時味方モンスター一体の攻撃回数をリセットする。攻撃時:攻撃力1アップ。攻撃後待機区域に戻る。貫通』


 このあほみたいなてんこ盛りでコスト4という性能……それがSSR。


 弱点としてはなんと言っても攻撃後に自分のセンターを空けてしまう所だ。

 まあカバー出来ることが多いのだが、初期パックだけではゴーレムしかカバー要員はいない。


 実にレックスはチートだと大騒ぎだった。別にアグロじゃなくても、攻撃回数をリセットして2回攻撃出来るだけでも使い道は多い。


 それに、こいつの真価はレックスを2匹揃えた時に発揮される。

 同じカードは2枚まで入れれるのだが、もし2枚が手札にあったなら……


「1匹目で連続攻撃後2匹目で1匹目を再起動してパワーマシマシ連打攻撃が起こるんだよな……」


 ある事情より途中から使われなくなっていったのだが、4年ほどアグロの王として君臨した強カードであることは間違いない。


 そして何より……


「最初の1週間に課金した人は特典で貰えるんだよな」


 発売からの1週間で10パック以上課金した人は、レックスが貰えるキャンペーンをやっていたのだ。


「ただ、そうすると問題があって……」


「む、またか! 皆そう言うのじゃ! “高い”とな!! そんなに高いもんかえ??」


 そう、リゾガル唯一の欠点とも言うべき……課金効率の悪さが壁となるのだ。


 リゾガルでは、パックを課金するのが通常のように思えるが、実はそれは最も非効率的なことで、1パックを現金に換算するとなんと1500円もするのだ。


「15000円……出たばかりのゲームに課金する額じゃない。それに今の俺は中学生だ。母さん父さんが反対するに決まってる。」


 そう、15000円など遥かに越える価値があるのだが、流石に出たばかりのゲームだから……と課金しなかった人が殆どだった。


(だが、なんとしてもレックスは欲しいよな……)


 俺は余りのSSRの出なさを経験し、SSRに関しては何がなんでも手に入れたいのだ。

 自分でも無理はいけないと思っているが、やはり今度こそは、絶対にほしい。


「……なんとか説得するしかないな」


「ほう……課金するのか! 思い切ったのぉ!」


 うちの親は成人するまでお小遣いだとしても課金はさせない! と頑なに認めなかった親だからな……骨が折れそうだ。


(レックスが減ったのと同時に起こった……それがない今こそがチャンスなんだよな……)


 新しい弾のパックを待っていたら、数年後にはが来てしまう。


 それが来るまでに登場するSSRは……


「可能な限り全部戴く!!」


「強欲なのはよいことじゃ〜」


 俺は絶対にレックスを手に入れる、と気合を入れた。


〜〜〜〜〜


「……何言ってるの!? あのゲームは買ったばかりでしょ!? もう課金するってこと!? それも15000円も!!」


「そうだよ……絶対に15000円以上の価値を生むんだから!」


「なんでそんなことがわかるのよ! ゲームなんかにそんなお金を使ってはいけません! うちはまだ貧乏なんだから……」


 かかったな。それを言わせたかったんだ。


「まだ?? そうか、父さんのゲームが遂に売れ出して少しずつお金も入ってきてるのか!」


「!? なんでそれを……」


「しかも父さんは今やってたこのゲーム『リゾガル』の開発に深く関わったおかげで出世したんでしょ? それだけ最高傑作だとわかってるじゃないか!


「それは関係ありません! そもそもそんなことどこで……」


「どこでなんて知っても意味ないよ? 母さんが言ったんじゃないか、貧乏だって。それだけの価値があるゲームだって分かってるんでしょ?」


 俺は畳み掛けに行く。


「それに……」


「?」


「他の人と同じことしても、他の人と同じにしかなれないよ?」


「ッ……!」


 これは、母さんが一番嫌いな言葉だ。


 実際4年後、凡人と罵った上司を口が聞けなくなるまで殴ったという事件があるほど。


「自分のお年玉で買うんだし、いいでしょ?」


「……分かった、わ」


(よしっ! なんとか、いけたか……)


 お年玉を含めても俺の残金は30000円ほどだ。


 これは早急になんとかしないとな……


(ただ、この代償は高く付くぞ……)


 母さんの機嫌がすこぶる悪いからな。課金を認めてしまい、中学生に理屈で負けた上、最も言われたくない言葉を耳にしたのだ。


 明確に同じだとはいってな言ってないが、認めないのは凡人だと言われて乗せられたようなもんだからな。


(リゾガルのためだ……しばらくいい子にしてなきゃな)


 高感度絶頂期だったからなんとかなったが……問題をもう起こさないようにしないとな。


 俺はレックスを手に入れられると、ワクワクした気持ちで『リゾガル』を立ち上げた。


〜〜〜〜〜


「よし……来た!! SSR、レックスーAssaultー!!」


「何じゃ! SSRと言えばわれおるぞ!」


 俺は10パックを買い、レックスを手に入れる。


(夢にまでみてたSSRが2枚も……!)


 一枚は拾い物で一枚は確定なのだが……それでも俺は今手元にSSRがあると言うことに喜びを隠せない。


(……まあ、こいつを手に入れたのは他の理由があるんだけどな……)


 楽しみだ。俺はレックスをデッキに入れると、ルーキータウンへと歩みを進めるのだった。


「……あいつが、SSR使いか?」


「そ、そうです。めちゃくちゃなやつでした。聞いたこともないカードで……」


 そんな俺を、影から見つめる者が、いた。

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