第5話 覇者


『珠蒼変身カード:連珠 コスト8 スタッツ5/5 能力:対戦中珠蒼が破壊、消去を行うたび+1/1されランダム能力を得る。現在:貫通 バリア 2回攻撃 会心 強襲 充電 +6/6』


「……は??????」



 貫通……相手モンスターを攻撃した際に体力を超えた分相手プレイヤーにダメージを与えられる能力だ。

 2回攻撃? そのままの意味で……

 バリアは、一度だけ受けるダメージを無効化してくれる。


「会心でダメージ2倍、強襲で相手の好きなモンスターを攻撃対象にできる……それで貫通だと!?!?」


「なっなんだこいつはっ!!」


 まさに書いてある通りの能力だった。だが、それはゲームが違うと言わんばかりの能力が集まっている。


(普通……こう言った強能力ってのはSSRが持ってる……だがランダムとはいえそれをこんなに……!?)


 何か妙だとは思っていた。7年やり続けた俺が知らないSSRカードなんて。


「……棘龍を攻撃!」


 棘龍レイド・レイクの体力は7。そして今の珠蒼のスタッツは……


「18/13!?」


「いけ! 貫通ダメージだ!」


「ばかな! 棘龍は待機区域にいるのに!!」


 俺は強襲の能力で待機区域にいる棘龍を攻撃。会心によって俺の攻撃力実数値は……脅威の36。相手プレイヤーに29のダメージだ。


「ぐあああ! め、めちゃくちゃだ!」


 更に、珠蒼はバリアによって反撃ダメージを受けていない。依然18/13だ。


「おかしい! 絶対におかしい!! お前……チーターだな!?」


「そう思われるのも仕方ないか……俺も現に驚いている。だけどな、初心者……」


 2回攻撃の能力により、珠蒼がもう一度動き始めた。


「ま、まて! まだ動けるのか!? やめてくれ!! 1ターンでいい、待ってくれ!!」


 ヤンキーは巨大化した珠蒼に見下ろされ、震えながら“待った”を申し出る。


 だが、今更そんなことには構ってやれない。


(このゲームにはな……ぶっ飛んだカードはいくらでもあるんだよ! ここからの逆転かって容易に出来るカードもある!)


 万一にもそんなカードを持っているとは思えない……というかそのカードが出るパックはまだ発売されていないのだが……“待った”なんて乗る義務はない。


「このゲームに手加減なんてもんはな……存在しないんだよ!」


「ふはは、われ、強いんじゃ! みたか! ふはは」


 珠蒼がそう言うと、巨大な手を振りかざす。


「まっ待──」


「珠蒼でギガフェアリーに攻撃!!」


 ギガフェアリーは4/6に次の自ターン開始まで一度だけ攻撃を塞ぐシールド耐久値が1残っている。

 会心はダメージが倍のため、このシールドを駆使することで被害が抑えられるのだ。

 最も、ここまでいきなりでてくるようなスタッツでないものには対処など不能に近いが。


 貫通によってヤンキーにオーバーダメージ28が入る。


 このゲームのプレイヤー体力は30だ。よって……


「──俺の勝ちだ!」


「うわああああああ!!」


 ヤンキーに向かって、珠蒼が腕を薙ぎ払う。

 これがもし現実で実体を持っていれば、ヤンキーは見るも無惨に散っていただろう。


 このゲームが社会現象になるほど流行ったのは、本来ファンタジーVR等で使われた方が良いほどの、他のVRを遥かに凌駕するCG技術によって作り出されるカードの像。


 そして、コストが貯まるにつれて急速なインフレの対決となるところが、人々の心を掴んだのだ。

 インフレにはインフレを。しかし決してカードパックの弾が進んでもカードの基礎的な能力がインフレすることはない。

 それで成り立つこの爽快かつ大迫力なゲームが、社会を我が物にするなど、造作もないことだったのだ。


 凶爪がヤンキーのライフを大きく超えるダメージを与え、俺は勝利した。


〜〜〜〜〜


「済まなかった!!」


「勘弁してください!」


 ヤンキー二人組が謝辞の意を述べる。

 もう一人はこっそりと逃げようとしてたので、「やるんじゃなかったのか?」と声をかけると、土下座する勢いでやめてくれと頼み込んできた。

 バトルに負けるとカードを一枚取られるからな。


(まあ、エースカードに設定した一枚は取れないんだがな……ん?)


 俺がヤンキーのデッキを物色していると、エースカードが設定されてないことに気がついた。


(そうか……初心者だから知らないのか?)


 そもそも今日はリゾガルのリリース日だ。知らない方が普通だろう。発売からまだ十数時間なのだから。


(発売初っ端から自分より初心者を狙ってバトル仕掛けてたのか……結構なクズだな)


「じゃあ……もう悪さできないように覚醒ピピスはもらってくぞ」


「なっ……待ってくれ! それにあんたフェアリーデッキじゃなくてスケルトンデッキだろ!?」


「お前らがまた初日っからPKしまくらないようにだよ」


「うっ……」


 俺は覚醒ピピスを貰うと、さっさとその場を去った。



「……どうしたもんかな」


 初日とあらば、まだ色々システム的にもカード的にも足りていない。


 俺はログアウトするか? と何をするか考える。


 その時だった。


「お、お兄ちゃん! 僕と勝負だ!」


「ん?」


 俺の目の前に、10歳くらいの男の子が現れ、勝負を仕掛けてきたのだった。


(まあ……システム上断れないんだけど……)


 どうも追いかけてきてまで戦いたい、という戦闘狂のようには見えない。

 だが、現にこの子は俺を追いかけてきて勝負を挑みにきた。息が上がってる。


「いいけど、どうして俺を追いかけてきたんだ?」


「その覚醒ピピス、元々僕のだったの! 取られちゃったんだけど、お兄ちゃんに渡ったから、ぼっ僕は取り返そうとしてるだけだ!」


「……」


 なるほど……やはりヤンキーたちは奪ったカードだったのか。


 取り返す、ねえ……


 このゲームで対戦して負けたものに、取り返すもクソもない。

 覚醒ピピスは初期の頃、フェアリーデッキの人気に伴って、フェアリーデッキのエースとして人気を誇っていた。ネットとかでの売買がもうあるかは分からないが、高くで売れるだろう。


 ヤンキーに負けた子が、そのヤンキーを倒した俺に向かって来るとは……


「よし分かった。……じゃあ俺に勝って奪ってみな?」


「の、臨むところだ!」


〜〜〜〜〜


「や、やった!」


「くっ……やられたか……欲しいカードは覚醒ピピス、かな?」


「う、うん! あ、ありがとう!」


「いやいや、勝ったのは君だ。勝ったんだから当然だよ。」


「で、でも……ありがとう!」


 そう言うと少年は覚醒ピピスを手に持って去っていった。


「……よいのか? われ使えば勝てたはずじゃぞ」


「いいんだよ。元々奪ったカードだ、奪われたって文句は言えないだろ?」


 俺はそう言って帰り道に着く。


「お主……わざと負けたじゃろ? そんなことする理由はないのじゃなかったんじゃけ?」


「いや……とりあえず意味不明な喋り方やめようか? 日本語喋ってくれんとわからねぇ」


「なぬ! われ日本語喋っとる!」


 ログアウトは緊急時以外、決まった所でしか出来ない。俺はその道の途中、鎧の男に会った場所で足を止めた。


「ぬ……?」


「それに……」


 俺は手に持つ珠蒼に向かって挑戦的な笑みを見せた。


「俺ならお前がいなくったって余裕で勝ってたよ」


「ぬぬぬ……われ強いんじゃぞ! 舐めるでないぞ!」


 昔なら……いや、未来なのか? わからないけど……以前の俺なら、こうしてカードと喋ることなんてなかっただろう。

 喋れる……意思疎通出来るカードはSSRのみだ。


 そして、僅かに持っていたSSRにキャラカードは当然無かった。持っていたのは戦技カードなどキャラがいなければ意味ないものばかり。

 だから俺は、SSRは実質使えなかった。


 そんな俺が、やり直したデータで、SSRキャラカードを持っている……


(あの騎士……王? が関係してそうな気がしてならねぇよなぁ)


 十中八九関係ないとは思うが、最後にあの青年と会ったことが何かこの奇跡を引き起こしたんじゃないかと考えてしまう。


「む……??」


 珠蒼を拾ったのも、ここなのだ。何かがあるとしか思えない。


(だけど……)


 俺にとっちゃもう関係ない。


 今こうして再びリゾガルをプレイし直している……


 それ以上のことはないからだ。


「考えたってどうせ無駄だしな!」


「……」


 俺は心に決めた。


 今度こそは達成できなかった悲願……大会優勝を成し遂げると。



 手に入れたSSR珠蒼と、この知識、経験を以て──

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