第2話 SSR


「ログアウトしたら7年前……だと!?」


 カレンダーを見る。

 2097年。


「7年前だ……ってことは!」


 俺は自室のゲームを立ち上げる。タイトル画面には『リゾガル』の一文字。


「発売日が明日のリゾガルのデータはまだ作られてない!!」


俺は次の日、ダッシュで学校から帰ると届いたカプセルに入ってスイッチを押す。


「おいおい……帰って速攻俺の作ったゲームか? そりゃ嬉しいな」


 父さんは今日ゲームの発売日ということで休暇を取れたらしい。一緒にゲームをやることがあるほどの父だ。一緒に誘ってくるかと思ったが今日は疲れた。だそうだ。


「当然だろ! 父さんの最高傑作なんだから!!」


「お、おう? 確信はえーな……前までまともなゲーム作ってなかったみたいな……」


 俺は父さんを無視して、ログインのボタンを押す。


「ゲームログイン!!」


 その瞬間、現実の俺は意識を失った。


〜〜〜〜〜


「いらっしゃい! ルーキー様!」


 俺が目を覚ますと、ルーキー案内役の妖精が俺を出迎えてくれた。


 鬱蒼と生える森。大瀑布の如きスケールの違う滝。そしてこの澄んだ空気。


(戻ってきたんだ……初心者として、このリゾガルに!)


「チュートリアルを受けますか? デモプレイをやられた方はスキップを押してください」


「スキップ」


 チュートリアルでもらえるカードなんてただのノーマルカードだ。そんなチュートリアルに何時間も取られてたまるか。


「では、あちらの道を使ってルーキーの街へどうぞ。ご武運をお祈りしています。」


 妖精はそういうと、宙に溶けるように消えてしまった。


 ……街につけば最初に10パックがもらえる。


(俺の運……今度こそは引いてくれよ……SSR!)


 そして俺はルーキーの街へ向かうことにした。


〜〜〜〜〜


「……え?」


俺は思わず自分でも信じられないくらい間抜けな声を出した。

 思わず周りを見渡す。さすがというべきか、発売初日からかなりの人がゲームにいる。だが、幸いにも俺に気づいた人はいないようだ。


(……カードが、落ちてる!?)


 本来カードが落ちるというのはあり得ない。バトル中のみ実体化させるのが普通だからだ。

 たまにパートナーだからといって出してなくすあほがいたが……


(ラッキー……ってこの場所見覚えがあるような……)


 カードが落ちていた場所は、例のあの男と遭遇した森の目の前だった……。


「……このカード!?!?」


 俺は、思わずビビって座り込んでしまった。

 このカードは……


珠蒼じゅそうSSR」


「SSRキャラだと!?!?」


 そのカードには、SSRと書いてある。


(SSRなんて盗んだってしれたら凍結確定だぞ……!)


 俺はSSRキャラを手に持った感覚を思い出しながらその場を離れようとする。


(何考えてんだよ……!)


 だが、俺は気付けばそのカードを持ってボックスに入れそうになってた。


(いくらSSRが出なかったからって盗みを働いて初日で凍結食らってみろよ!)


 俺は自分と葛藤する。もし周りに人がいたら怪しんでこっちに来られていただろう。


「おい。聞いておるのか?」


「うわっ! 違うんだよ! これは今拾っちまったところで……ってん?」


「われじゃ。」


 俺は自分の手を恐る恐る見る。


「SSRのキャラは意思疎通がとれる。知らんのか?」


「いや……お前……なんで……」


 俺が手に持つカード……珠蒼は俺に語りかけた。SSRのキャラともなると持ち主と会話ができるのだ。


 だが、意思疎通がとれるのは持ち主とだけだ。

 それはつまり……


『珠蒼:持ち主 蒼井 隼』


「われ、お前のカードじゃぞ?」


「ファッ」


「? ……おい、目を覚ませ……おい! 何しとんじゃ!」


「うーん……」


 なぜ持ち主が俺になっているのか。俺はまだカードパックすら開けてないどころかスターターパックももらってない。


なのにSSRカードを持っているという異常な状況に俺は気絶しそうになる。


(過去に戻った時点で意味不明だよな……もしかして……神様がチャンスをくれたのか?)


 考えれば考えるだけ意味不明になっていくので、俺は考えるのをやめてルーキーの街に向かう。


「まあ、カード1枚2枚じゃデッキは作れん。パックとスターターデッキもらいに行かないとな。」


「その通りじゃなぁ。われ、カード8枚あるぞ」


 そういうと、珠蒼のカードが本人のキャラカード含む9枚に増えた。

 キャラカードを引くとそのキャラの専用カードが8枚手に入るのだ。


 デッキはそれら含む30枚で作る。


 キャラが少なすぎると何もできずにやられるからこれは実質意味ないようなもんだ。


「大体9枚でもデッキ作れねぇから」


「ぐぬぬ……」


 何がぐぬぬなんだ?? 自分のカードだけでデッキでも組みたいんか??


「よっしついた……うわっもう既にすげー人」


 考え事をしながら歩いていると、すぐにルーキーの街、ルーキータウンに着いた。


 俺は早速ギルドに行ってプレイヤー登録をしに行く。


「こんにちは。初めての方ですか?」


「……はい。パックとスターターデッキをもらいにきました」


「あら? パックがもらえるのってなんで知ってるのかしら」


「え……」


 え? そりゃそうだろ。説明はなかったが普通もらえると思わね? まずかったかな……


「いや、パックもらえるのかなって……」


「あら。ふふふ……もらえるわよ、はいどうぞ。」


「あ、ありがとうございます。」


 受付嬢というのはやはり美人というイメージがあり、ロマンがどうとか、どうでもいいことで美人に設定されている。いくらゲームのNPCとはいえ緊張する。


 当然NPCなので気づきもしないがファンクラブなんてやってる馬鹿がいたほどだ。


 俺は10パックと一緒に“スケルトンデッキ”を選択。

 そのままギルドを後にした。


(さて……SSR出るかな……?)


 俺がワクワクしながらパックを開けようとした時……


「こいつスケルトンデッキなんて選んでやがるぜ!」


「というかこいつ初心者じゃね? スターターのカードは奪えんぞ」


「最初のパックがあるだろ! おい! お前、俺とバトルしろ!」


 こいつら正気か?


 このゲームはどこぞのポケ○ンのように、このゲームは勝負を挑まれたら断れない。普通初心者からカツアゲするような外道はいないと思ってたが……


「……分かった。パック開けるから、それだけ待ってくれるか?」


「はっ、さっさとしろ! グハハハ」


「おいお前ずるいぞ! 俺も後で勝負させろ!」


「うわぁ……あいつら初心者狩りしてる」


「最低だな……」


(さて……SSRは……なしか)


 俺はそいつらは無視してパックを開ける。SRは何枚か出たがSSRは出なかった。まあ、SRが序盤から揃うのは強いからいいだろう。


(問題は……)


 このカツアゲ野郎二人組がどんだけ強いかだな。

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