リゾガル〜最強カードゲーマー〜

星影 迅

第1話 プロローグ


「はあ……」


 今日の大会も負けた。

 俺、蒼井隼アオイシュンはため息をつきながらいつもの帰り道を一人で歩いていく。


「SSRキャラカードの一枚でもあればな……」


 俺は運が悪かった。


 今や世界で最も注目されているゲームであるこのVRカードゲーム、『リゾガル』のランキングは人の印象に大きく影響……そう、入社試験ですらランキングを聞かれる世の中なのだ。

 そしてこのゲーム最高レアリティのSSRカードのパック排出率は驚異の3%。


 それなりにやっていれば一般のSSRくらいは手に入るもんだ。


 だが俺はリリース当時からこのゲームに熱中し、開けたパックは1万では聞かないだろう程だ。

 だが、俺が出したSSRはたったの3枚。


 そしてキャラカードは……0。


 SSRの中でも排出率がとても低いレアカード。それがSSRのキャラカードだ。


 このゲームには戦技カードや魔法カードと呼ばれるものがある。そしてそれらを使うキャラクターがキャラカードというカードなのだ。


 入手確率は、0が五個つくほどの低さだ。


「くそ……カードゲームは実力って言ってもSSR0枚で戦うには無理があるだろ!」


 キャラがいなければカードは使えない。

 例として、先ほど負けた試合も……


〜〜〜〜〜


「このままなら……相手はなす術がないはず。俺の次のターンで勝ちかな」


 こちらの盤面には強力な竜もいたし俺の体力もまだ10あった。

 だが……


「……はっ! これでもくらえ! 召喚、クロノス!!」


 相手はカードを引くと、ニヤリと笑うとそのカードを召喚した。


「能力発動!」


 そのSSRカードは1撃で竜を殺すと、能力を発動した。


「次のお前のターンを飛ばすっ!」


「はあ!?」


〜〜〜〜〜


「カードの暴力そして相手のトップ運じゃねえかよ!」


 あのカードはぶっ壊れで知られていて、使用しているあのプレイヤーも有名人だった。


「このまま終わりかな……」


 俺は昔実力で小型大会を準優勝したことを思い出す。

 あれ以降、それ以上の成績は残していない。


(あれでも当時はSSR無しで準優勝! ってニュースにもなったのにな)


 俺はそのままログアウトボタンを押そうとする。


 だが、その瞬間目の端で一人の男を捕らえた。


「ん? どうした」


 その男はこちらに気づくと、気付かぬうちに距離を詰めてきた。


「あ……いえ、王冠に鎧……王なのか兵士なのかなって……失礼でした。」


「いや別に? ところでお前……前ニュース載ってたやつか?」


「あ……はい、覚えてくれていたんですか」


「まあな。」


 なんとなくわからない人だ。それがその男への率直な感想だった。年齢は自分と同じくらいか、若い。確実に20代だ。


「じゃあお前……バトルするか」


「え?」


 このゲームでのバトルは断れない。

 だが元より、変な格好しているような人だし少し気になって、俺は断る気なんて微塵もなくなっていた。


「いいぜ……バトル!」


〜〜〜〜〜


最終攻撃フィニッシュ


「うっ……負けた」


 結果は男の圧勝だった。


(もう無理なのかもな……)


「対戦ありがとうございました」


「あ? なんで俺から仕掛けたのにお前が礼をいう?」


 対戦終了後、俺が礼を言うと男は本気で意味がわからないと言ったような様子でそう聞いてきた。


「……俺はカードゲーマーなんで」


 俺は少し迷ったが、ちょっとカッコつけることにした。


 俺がそういうと、男は少し考えてこう言った。


「お前……SSR抜き縛りか?」


「っ……」


「なるほど。まだ出てないのか。7年やってるのにいまだに」


「なんであんたがそれをっ!?」


 まさか心が読める……なんてファンタジーVRじゃないんだぞ、ここは。

 だが、男の返事はさらに上の答えだった。


「そうだな、ちょっと記憶を見ただけだ気にすんな。」


「はあ!?」


 明らかにやばい人だ。

 俺はなりふり構わずログアウトを押す。


「……やり直してぇな、そりゃ」


「──!!!」


 このゲームは現実の本人をパスワードにしてログインしている。

 だからサブアカウントなどは作れないのだ。


「そりゃできるなら……やり直してぇよ!」


 俺はログアウトする寸前、男がフッと笑ったように見えた。


「……今日は災難だな。」


 バトルに負けたら勝った方にエース以外のカードから一枚あげなくちゃいけないのだが……


「そういやあの人なんも要らないって言ってたな」


 SSRとか欲しいカードはもう揃えている人だろうか。なんにせよそれはラッキーだった。


「さて……飯食うか」


 俺の家は俺と両親の3人で構成されている。少し前までかなりの貧乏生活だったが、他でもない父さんが『リゾガル』を作り上げたことで大出世し、今では満足に食べれない日は無くなった。


「母さーん、今日のご飯何〜」


「あら。ゲームは終わったの? もう置いてるから食べといてね」


(……ん?)


 俺は母さんの声がやけに若々しかったことに違和感を覚えた。そしてもう一つ。


 視点が低くなっている。


(くっそ……ログイン時間が長すぎたか……背骨が曲がってやがる)


『リゾガル』はカードゲームで初のVRフルダイブだ。長くやりすぎて餓死するあほもいるらしい。


「ちょっと気をつけないとな……?」


 俺は食卓に置いてある煮干しを見て首をかしげる。


「母さーんこれだけ??」


「足りなかった? うちは貧乏なのよ、ごめんね……母さんのあげるから」


「!?」


 俺は強烈な既視感に襲われ、急いで席を立つ。


「あっ隼! どこいくの?」


「洗面!」


 俺は洗面所に行って鏡を覗き込み──固まった。


 そこにいたのは、どう見ても中坊の自分だったからだ。


「ログアウトしたら7年前……だと!?」

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