悪役貴族に転生した俺は高笑いしニヒルな顔でアルフォイと名乗る

宍戸亮

第1話 俺の名は

「――フー↑ッハッハッハッハッハ!!」


 アルドゥク=フォウ=イングラムが生まれて初めて高笑いしたのは七歳の頃だった。


 屋敷の敷地を徘徊し段でバランスを崩して頭を打った。血相を変えた召使たち数人が俺を医務室へと運ぶ中、虚ろな眼をしていた俺は前世という眉唾を脳に伝達され、正気を取り戻した俺は物事の整理をするため、その日一日安静に過ごすことにした。


 だが、整理する前に付き添いの召使たちの安全を確保した。


 大貴族の子息である俺に怪我をさせては首が撥ねる。それを良しとしないはブチギレるお父様に苦し紛れの提案をした。


「お前らぁ……一生俺のモノにする!! ボロ雑巾になるまで使ってやるからなぁ!! フー↑ッハッハッハッハッハ!!」


 できるだけあくどい顔でそう宣言。震える召使たちとは違い、お父様は教育の賜物だと喜び、俺と同じく高笑い。


 到底七歳児とは思えないこの言動。普通の感性なら異常に捻じ曲がった性格と判断されるが、これは本来の俺の性格だ。


「おい、わかったら返事しろ共ぉ!!」


「「「ももも、申し訳ありません! 謹んでマルドゥク様にお仕えますぅぅううう!!」」」


 本当に子どもの育て方は大事なんだとこの時思った。


 大貴族イングラム家。


 ドルイド大帝国を支える一柱であり、悪の貴族を束ねる悪の貴族だ。簡単に言うと帝国に巣食う悪の親玉。


 その歴史は古く、腐りきった貴族社会を分別・管理するためにイングラム家が誕生した。


 悪の中の悪。懐で制御できる矢面の悪が帝国には必要だったからだ。


 先祖の頑張りもあって、逆らったりつついたりしたら酷い目に合うと確定的になった。


 ありがとう先祖たち。あなた達の教えはしっかりとお父様と俺に受け継がれている。


 二つある月明かりが射す頃。自室のテラスに出た俺は、心に溶け込んでいく俺に自問自答。捻り出した結果、ここが『エンドレスワールド』と言う節操のないコラボギネス記録保持のシミュレーションRPGの世界、もしくはそれに非常に近い世界だと結論付けた。


 前世の俺は日本と言う島国に生まれ、平々凡々な生き方をしていた。だが他と違い、中学生から同じゲームをプレイ。9999時間カンスト以上遊んだのがエンドレスワールドだった。


 平民として生涯を終えてもいいし、魔術学園へ入学し学生ライフを送ってから冒険者になるのもいい。始めた段階からすぐラスボスに挑んでもいいし、商人となって金を稼ぐ、貴族になる、他国と戦争する、放浪する、様々な選択肢が取れる自由なゲームだ。


 それが性に合ったのか、ネットなるモノでエンドレスキングの称号を貰い、死ぬ寸前まで遊んでいたらしい。


 ちなみに死因は知らないが、おおかた不摂生で死んだのだろう。


 知らんけど。


 そして何故エンドレスワールドだと結論付けたのか。それは脳にこびり付いた知識で検索したワード、ドルイド大帝国、イングラム家、そして俺アルドゥク=フォウ=イングラム。


 前述の通り何を隠そう、俺は悪役の貴族だった。


 イングラム家の役目を間違った解釈で理解し、暴虐の限りを尽くした結果、プレイヤー自ら、もしくは選択肢でNPCが俺を殺害。魔物に食べられたり、薬漬けで再起不能。部下に殺されたり、挙句の果てホモ兄貴たちに売られガン堀り♂されてからホモになる。


 まさにおもちゃ。俺含むプレイヤーは当時流行っていた魔法ファンタジーの映画の悪役である同名のアルドゥクに対してやりたい放題だった。あ、違う。ヤリタイ放題だった。


 ちなみにR指定のゲームではないため、直接的なガン堀模写は無い。そういうニュアンスでプレイヤーに伝わっている感じだ。


 まぁ、生を受けたからには好きに勝って生きる。


「ふぁ~」


 流石お子ちゃま。七歳児の俺はベッドで就寝。


 九歳になった頃、イングラム家の証である一家相伝の魔術を思い通りに扱う。


「俺に不可能は無い! フー↑ッハッハッハッハッハ!!」


 十一歳になった頃、まつりごとに悩むお父様にガキ特有のむちゃくちゃ理論で助言(適当)する。


「貴族から力ある商人はもちろん、農民を含む民草に高度な共通知識を分け隔てなく知育すれば! 俺たち貴族は楽ができる!! フー↑ッハッハッハッハッハ!!」


 十三歳になった頃、魔術学園中等部に入学。我が物顔で悪逆の限りを尽くし、先生がたを困らせる。


「生き物は食事が資本! 魔術学園で提供される食事は帝国が負担する事をお父様が要請した!! 掃いて捨てる程いる民草は震えあがるだろう!! 多重な税と! 十二分な報酬に!! フー↑ッハッハッハッハッハ!!」


 十五歳になった頃、中等部をトップ5の成績で修め高等部に視線を向けた。


「貴様らザクとは違うのだよ! ザクとは!! 十二分な睡眠をとってから足搔くんだなぁ!! 高等部でもよろしくな貴様らぁ!! フー↑ッハッハッハッハッハ!!」


 そして十六歳になった頃、学園ラストの三年間を満喫する。


「おい、あまりジロジロ見るな」


「イングラム家か。関わらないでおこう」


 寮からの登校。今日もイングラム家の畏怖が聞こえてくる最高の一日だ。


 ニヤケが隠せない周りのへ反応。そこへ聞き覚えしかない声が聞こえてきた。


「アルドゥクぅ! 今日もカッコイイィわぁ!!」


「朝から元気だなカルヴィナ。今日もめちゃくちゃにしてやるからなぁ」


「キャー♡ アルドゥクにめちゃくちゃされるぅうううう!!」


 腐れ縁の幼馴染の登場だ。


 高等部に入って一ヵ月。


 訪れる自分の教室。


『おはよう! アルフォイ!』


 教室のほぼ全員が俺を呼んだ。


「おう! 今日も精々知識付けていくんだなぁ! 俺のために!! フー↑ッハッハッハッハッハ!!」


 俺はアルドゥク=フォウ=イングラム。


 愛称は、アルフォイだ!!

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悪役貴族に転生した俺は高笑いしニヒルな顔でアルフォイと名乗る 宍戸亮 @Manju0501

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