第4話 罵詈雑言盗賊長耳族

 門番は牙を見て一通り驚いた後、肩を落とした。



「腐っても勇者パーティーの拳闘士ってことか……」

「腐っても???」

「いや何でもない」

「そうか」



 少し睨んでやった。俺は腐ってなどいない。俺は筋肉も心も澄んでいる。

 健全なる肉体は健全なる精神に宿るのだ。



「ただ、鍛錬しても門番にしかなれなかった俺と違って、服すら着ない変態野郎が勇者パーティーだと思うとな……」



 さっきはなんでもない。そう言って無かったか?

 門番は「ケッ」と機嫌を悪くしたように唾を吐いた。汚いやつだ。



「その様子だとギルドに用があるんだろ? 中央通りに面してるからすぐわかる。向かって左側だ。色々な意味でブラブラさせてねぇでさっさと行け」

「ギルドは左側だな。……あぁそうだった、ちなみに俺はもう勇者パーティーじゃないぞ」

「――は?」



 後ろから聞こえてくる門番の声は、どこか間の抜けたようだった。



 門番の言った通り、ギルドはすぐに見つかった。

 ここは、世界単位で見てもトップクラスの規模を誇るギルドだ。2階には酒場もある。


 扉を壊さないように、ゆっくりと牙をギルドに入れる。

 と、突然奥から受付嬢が飛び出してきた。



「ななな……なんですかそれ?」

「ブラックボアの牙」

「あぁ、そうなんですねぇ〜……じゃなくて服!!! なんで服着てないんですか変態ですか!」



 いきなり人のファッションに対して、ケチ付けるだなんて礼儀がなってない。



「――なんだお前、文句あんのか? 表出ろ? お?」

「あなたが出てください! 服を着てからまた来てください! じゃないと買取なんてできません!」



 きてきてうるさいヤツだ……。服をひん剥いて分からせてもいいが……。ま、ここで買取ってくれないなら仕方がない。手間だが、また別の街のギルドまで行くか。

 

 ――と思ったが、なにか股間に違和感があった。



「ん?」



 目線を下にすると、そこには煙……いわゆる煙幕があった。



「………………は?」



 俺のアイデンティティ。

 俺の象徴。

 俺の威厳。

 俺のポリシー。

 俺の――全て。



「隠したやつは誰だ……」



 この世には決して許されない行為がある。

 俺の股間を隠す行為は、ソレだ!



「私よ。この全裸変態脳筋馬鹿。あなたってば知性だけでなく、目も無いの? 可哀想に……なら今ここで死になさい。私に恥部を見せたのだから当然ね。死ぬだけで済むのだから、私の優しさに感謝しなさい」



 俺に罵詈雑言を浴びせてきたのは、金髪の長耳族エルフだった。緑のローブで身体をまとい、背中には弓を、腰には短剣がぶら下がっている。



「今すぐこの煙幕を消せ」

「嫌。公然わいせつって知ってる? 知るわけないか」



 少し顔がいいからって調子に乗りやがって。

 勇者パーティーほどじゃないが。



「質問を変えよう。どうすればこの煙は消える?」

「そうね……あなたが死ぬか、私が死ねば消えるんじゃない? あと私の目の前からいなくなるかだけど」

「ほう……そうか」



 俺は走った。ギルドの中を全力で。

 この俺の速度に煙幕がついてこれるわけが無い。



「無駄よ。それあなたの股間を中心に発生してるから。そんな事も想定できないだなんて、やっぱり脳筋馬鹿野郎なのね……死ねばいいのに」



 女の言う通り、煙幕が剥がれることは無かった。

 ……許すことなど到底できない。

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