第5話 天使さんは揚げ物に誘われて……。

 その後。カップ麺の容器と箸を洗い終え、出かける準備を済ませたのだけど……。


「えっと、さすがにその格好で外を歩くのは……」

「え、ダメかな?」

「ダメというか、何というか……」


 今の天使さんは、傍から見れば天使の格好をしたコスプレイヤーか、ちょっと“変わった人”にしか見えない。


「間違いなく目立ちますよ?」

「そうかな? ……それなら!」

「? なにかいい案でも――」

 突然、天使さんの体を眩い光が包み込む、着ている装束の形を変えていく。

「――これならどうかなー?」

「…………っ!!」


 ――かあ…さん……。


「変かな?」


 そう言ってその場で一回転すると、白のワンピースの袖がフワッと宙を舞った。


「い、いえ……その服なら、大丈夫だと思います……」

「ホント? よかったーっ。あ、服と言えば」


 天使さんが徐に指さしたのは、壁にハンガーでかけられている学校の制服。


梨久りくくんは、学生さん?」

「……一応、そうですけど。それがなにか?」

「? 一応って、どういう――」

「そんなことより、早く行きませんか? ……こっちは空腹で限界なんですから」


 苛立ちを隠し切れない態度で言うと、スマホと財布を入れたショルダーバッグを肩にかけ、玄関で靴を履き始めた。


「あっ、梨久りくくん……」


 背中越しに聞こえてくる寂しげな声に、胸が痛んだ。






 それからアパートを出発し、歩いて十分のところにあるスーパーへとやってきた。


「なにを買うか決めてるの?」

「晩飯はずっと同じものなんで、その材料を買います」

「へぇー。ちなみになに作るの?」

「野菜炒めです」


 朝食は寝ているからなし、昼食は大抵カップ麵かパン、となると夕食は…………野菜炒め一択で決まりだろう。


 入口のカート置場から取ったカートにカゴを乗せ、買い物開始! ……と思った矢先、


「おおぉー……っ。から揚げ……アジフライ……フランクフルト……っ。どれも美味しそう~っ♪」


 天使さんが目を輝かせながら揚げ物コーナーに吸い寄せられていた。


「て、天使さん……?」

「あっ、ダメです……っ。体が勝手に……っ」


 視界に広がる揚げ物の数々に魅了され、その手がトングを掴む。


 ぐぅううう~……。


 こんなにもハッキリと音が鳴っているのだから、周りにいる他の客にも聞こえているはずだ。


 ……正直、ちょっぴり恥ずかしい。


「これだけ種類があると目移りしちゃうね!」

「そ、そうですね……」


 取る気満々と言ったところか。


 ――天使さんの食欲は、一体どうなっているんだ……。


 と思いつつも、ついトングを手に取ってしまう俺。


 ――揚げ物コーナーって、どうしてこんなにワクワクするんだろ……。


 予算が決まっているにも関わらず、つい買ってしまう。


「これと……これと……あ、これも一つ……」

「あの、できれば二つまででお願いします……」




 結果、一日の出費額としては過去最高の数値を叩き出したのだが、なんとか買うことができたのだった。

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