18 管理生
キルナがつけてくれた指輪から強い魔力を感じる。これは彼女の魔力だ。苦手だと言っていた溶接も、俺の技量とは比べ物にならないほど上手い。左指につけてくれたのは俺がよく加工をミスした際に右指を怪我するからか。口は素直じゃないくせに、本当に行動は献身そのものだ。
「……あいつのためにも絶対に負けねえぞ」
もう迷いはない。俺は俺の役目を果たす。そうだ、みんな役目を果たすのに全力を出している。俺がそれを止める資格はない。次はこの杖を剣に変えてやる。マナ、お前の隠し事も全部暴いてやる。そして見つけ出す。待っていろ……フレッジ。
「管理棟は本来なら管理生しか入れないんだけど、今回は特別だよ。副校長の許可を取ってあるからね」
「! ラースヒルズが動いてるんですか?」
「うん。前々から執行委員会の存在は匂わされていたからね、副校長も警戒してたみたい。ずっと尻尾を掴めなかったけど、今日ついに掴むことができた。けど……あちらもすでに準備を済ませていた。頃合いだったんだよ、きっと」
俺たちは飛行船に乗り、エーデルヴァルト校区中央にやって来た。ここにあるのは厳重なセキュリティが施されている管理棟と、その地下にある懲罰房。つまりディライクは管理生に監視されながら懲罰房に入れられていたことになる。
管理棟の外観は大きな塔だ。高さ三十メートルはあるか。そして門の前には守衛の管理生がいて、さらに管理棟を覆うように張り巡らされた防御結界によって陥落不可能の要塞となっている。ここではエーデルヴァルト校区の至るところに設置された遠隔感知式の魔道具によって中央管理室へ校区内の様子を二十四時間体制で映し出し、そして監視している。
管理生は専用のローブを学校より支給され、付与されている魔法によって無線で管理生同士の通話が可能となっている。
彼らももちろん学生なので普通に通学し授業を受けるが、交代制で管理棟での監視業務に就き、さらに校区内でのトラブルが起きた時は最も現場に近い管理生に連絡が入り、出動するのが彼らの仕事。故に彼らは授業中であっても気を抜くことはできない。その激務に耐えうる実力と精神性を伴うことが管理生の条件である。
守衛の管理生たちが深々とルーナ先輩に頭を下げる。尊敬がその見事な辞儀に見て取れる。
ルーナ先輩は管理生として非常に優れた功績をあげていると聞く。
教師から聞いた話だが、先輩は管理棟からの司令がなくとも暇さえあれば巡回し、トラブルのもとになるものは些細なことでもすぐ解決に取り掛かり、困っていそうな生徒にはすぐに声をかける。嫌な顔ひとつせずに与えられた使命以上のことをする。誰からも尊敬される人望と、聖席十二貴族の当主という最上の地位も併せ持つ。完璧な人間とは先輩のような人物のことをいうのだろう。
塔の中に入ると、奥に続く通路の中心を開けるように、一列に並んだ管理生たちが敬礼した。一斉にフードを脱ぎ、構える様子はさながら軍隊のようだった。
「お勤めご苦労様、みんな。執行委員会の動きはどうなってる?」
「ハッ! 今は息を潜めている模様です。恐らく裏世界に逃げ込んだかと」
ルーナ先輩の隣にいた管理生が報告する。するとルーナ先輩は苦笑いしながら軽くため息をついた。
「厄介だねえ……全く。鍵がないんじゃどうしようもないしな〜。ね、レビン君」
「え!?」
突然声をかけられてレビンはすっとんきょうな声を上げた。おい、大丈夫かレビン。声かけられただけで顔真っ赤じゃねえか。
「そうっすね……鍵ないと……あ」
レビンは声をかけられた意味を理解したようだった。レビンは自分の胸に手を置き、拳を作る。
「鍵……そうか。鍵は俺だ。俺だけが裏世界に行く
「──そう。鍵は君だ。レビン・クレイストン君」
通路に反響した男性の低い声。その声の主に向かって管理生たちは一斉に膝をつく。
黒い外套姿。中には白いシャツを着こなし、首にかけられた
「……親父」
「久しぶりだね、スパーダ。元気にしてたかい?」
──エーデルヴァルト副校長ラースヒルズ・ネクト。七年前のディール侵攻を止めた英雄にして、原初の魔法能力者ルーガの子孫。そして俺を地獄から見つけ出した恩人。
「さ、奥の会議室に行こう。そこで作戦会議だ」
◆◆◆
案内された会議室には広大な校区が映し出された液晶モニターの巨大なテーブルがあった。俺たちはそのテーブルを囲むように座る。
「さて、改めて挨拶しておこうか。僕はラースヒルズ……って名前は知ってるよね。ここの副校長だもんね。だけど管理生の監督役をしているっていうのは知らない子が多いんじゃないかな?」
それは俺も初耳だった。というかこの親父は自分の仕事のことについては全く話さなかった。それに同じ家に住んでいたのは数週間ほど。すぐに俺はこの学校に入学し、寮生活が始まったため、ラースヒルズという男がどんな人物なのか、養父だというのにあまり知らなかった。
「さて、本題に入ろう。君たちも知っての通り、今この学校の裏で“何か”が起こされようとしている。とても悪い、何かがね。そしてそれを秘匿し、我々と敵対関係となったのが執行委員会だ。ルーナ。先程彼らと対峙したね? 何か気になることがあっただろう」
「うん。隊員たちが『粛正武装』を持っていた。魔法連合の『殲滅局』しか持ち得ないはずの武器なのに、なんで彼らが持ってるんだろうって」
──粛正武装。さっき俺が見た限りだと、あれは隣界におけるアサルトライフルやスナイパーライフルに近しい形状の銃だった。だが異質だったのは銃身から伸びた青い魔力状の手のようなもの。それが使用者の魔力炉と結合し、銃弾が放たれたように見えた。一体どういう原理なのだろう。
「ああ。粛正武装は本来殲滅局の専用武器だ。彼らが得ることなど普通はあり得ない。それこそ彼らが盗み出さない限りね」
ラースヒルズが顎に手を当てながら低い声で言った。
「そこで私は独自のルートで彼らを徹底して調べ上げた。すると、ある一人の人物が捜査線上に浮かび上がった。──彼の名前はデウトール・クーガー。かつて存在した専門魔法科:生物学に在籍しながら管理生を務め、殲滅局の入局が内定していた生徒だ」
「デウトール・クーガーだと!?」
突然レビンがテーブルを叩いて立ち上がった。握り拳を作り、息を荒げ、目はかっぴらいている。
「どうしたんだよ、レビン?」
「そいつは俺の家族を殺した影の野郎だッ!! そしてルーナ様と縁談を結び、エルヴィロードを汚した卑しい上流貴族ッ!! 許せねえ……ッ! そいつは今どこにいるんだッ!!」
「落ち着けッ! レビンッ!」
レビンはラースヒルズに掴み掛かろうとテーブルに体を乗り出す。俺は咄嗟に後ろからレビンを押さえつけて止めようとするが、魔力強化を施さないと抑えられないほどの予想以上の力に苦戦する。
「……落ち着いて、レビン君。私は大丈夫だから」
ルーナ先輩はレビンの頭に手を置いて微笑んだ。どこかその微笑みには悲哀が入り混じっているように俺は感じた。
レビンは我を忘れていたことに気がついたのか、頭を抱え、意気消沈したようにへたっと椅子に崩れ落ちた。
「副校長……続けてください。今は過去の遺恨に囚われてる場合じゃありませんから」
いつもの明るさは消え、ルーナ先輩は真剣な声でラースヒルズに伝えた。ラースヒルズも深く頷いて、話を再開する。
「彼の正体はレビン君の話したとおりだ。影であった彼は入局前に殲滅局の手で捕えられた。しかし……彼は何者かの手引きによって脱獄し、そして現在は執行委員会
「……!? ちょっと待て、執行委員会は影の手が回った武装組織だってことか!? エーデルヴァルトが影を招き入れて暗躍してるってことだろ!?」
俺は驚きのあまり声を荒げてしまった。だが無理はないだろう。つまり俺がいるこの学校は、すでに闇の王の勢力に飲まれている。見えないところから奴らは俺たちを見ているんだ。
「ああ。この魔法学校は影を招いた。君たちは今のエーデルヴァルトを信じてはならない。君たちが行く先々、学ぶこと。その全てに影の息が吹きかかっているかもしれない。ならば我々がすべきことはただ一つ。──打倒する。執行委員会を。彼らを率いる現校長オースター・ネルソンを」
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