14 裏世界

 レビン・クレイストンは息を潜めていた。柱の裏に隠れ、巡回する警備部隊の目を掻い潜りながら地下を目指す。


 ここはエーデルヴァルトの裏世界。とある言葉を唱えることで初めて開かれる、其処にあって其処にない世界。


 レビンは消息不明のフレッジ・ローハイドを探し出すためにこの世界へ飛び込んだ。同期の中で最も長く彼と付き合いのあるレビンは、フレッジがかつて話した話に疑念を持っていた。


 そしてあの日、彼は自分の口でバラしたのだ。自分がスパーダとローベンの決闘を見た。誓いを潜り抜け、その隠された内容を裏から流したと。


 その告白が決定打であった。何故ならそれはあり得ないからだ。フレッジは姿を隠すどころか、観客席にすら


 レビンの能力「自問自答スルー・マイセルフ」は自身を今一度看破し、他者からかけられた魔法や能力による弊害を浄化することができる。


 彼はそれを観戦の途中で自身にかけていた。もし仮にフレッジの能力が他者の認識を書き換える能力であり、その発動条件がフレッジとの接触であるならば、あの場にいた全員がフレッジの能力を受けていることになる。


 しかし能力を発動し、他者からの魔法、能力の影響が消えているはずのレビンの目に、姿を隠すフレッジは存在しなかった。だから彼は異常がないと判断し、あの秘匿決闘に何の疑問も抱かなかった。


 しかし事実として情報は漏れた。その謎をレビンは解こうと様々な考察を張り巡らせ、ついにその真実を見抜いた。


「……。バラしたのは俺だ」


 自分でも何を言っているのかよく分からない。そう思いながらもそれしか辻褄が合わないのだ。


 フレッジの能力は強力だ。その能力をかけられた誰もが、認識を書き換えられ、フレッジの手のひらに転がされている自覚すらない。その時点であの場にいた全員はフレッジを認識することができず、同じ土俵に立つことすらできない。


 だがレビンは違う。レビンのみが自身を看破し、フレッジの存在する土俵に立った。しかしあの観客席という土俵に、フレッジはいない。それは一体何を意味するのか。


 つまり──=。同じ視界、記憶を共有し、その場にいないのにそこにいた。レビンが途中で能力を使い、そのリンクは断ち切られたが、フレッジにとってそれだけで情報は十分であった。


「馬鹿なりによく考えたもんだよ。フレッジ。お前と俺の同盟条件は、互いの不可侵だったはずなのにな」


 巡回が立ち去り、レビンは忍び足で薄暗い石造りの空間の奥へと進む。巡回に見つかるのは厄介だ。なんせ数が多い。しかも彼らは情報を共有してこの裏世界を包囲している。一度でも見つかれば逃げられない。

 

 進む。進む。静かに進む。そして辿り着く扉の前。この先にいるのかもしれない。いくつか扉はある。しらみつぶしに探すしかないか。


 周りを見渡し、誰もいないことを確認して扉に手をかける。


「──そこまでだ」


  背筋が凍りつく。鉄の声が体へ打ち付けられる。後ろだ。後ろにいる。見つかった、あの女に。


「……へ、俺と同じタイミングで入ったってのに、もうNo.2か。流石だな」


「貴様は僅か二日で消えたがな。三日坊主にさえ届かないとは一体どういうことなのか」


「そいつは俺が貫く正義とは真反対に存在する正義だったからだよ。全く、保守的な正義ほどつまらないものはないね」


  後ろを振り返り、目の前の女を見る。黒い戦闘服に身を包んだ姿は、学校で見慣れた優雅で華やかな着こなしではなく、氷のように冷たく、機械のように精密な任務を遂行するためだけの執行者のもの。


「さあ、どうする? 俺を捕まえるかい? どうせならフレッジと同じところに入れてくれよ。聞きたいことがあるんだ」


「その必要はない。貴様は私の手で葬ってやる。それがかつての同僚への配慮というモノだ」


 反応させるまでもなく、その蹴りは容赦なくレビンの体を捉えた。不意打ち。思いやりも何もない。一瞬で勝負はついた。その一撃は裏世界を通り越し、現実へと彼を引き戻す。


「……へ、こりゃ、だめだな」


  レビンは理解した。隠された真実を守るものはこの学校そのものであるということに。

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