4 闘技会の仲間

 ──今日の校長も流石の迫力だったな。名君オースター・ネルソンのもとで学べるなんてホント光栄だぜ。


 ──えー、でもなんか古臭い感じがして私はあんまりすきじゃないかも。ね、そんなことより今日はあの話で持ちきりじゃない?

 

 ──あのゼロユージングのスパーダってやつの話? リンドバーグの生き残りだって言って、飛行船の中で嫌われ者のディライクを投げ飛ばしたとかいう。


 ──そうそう! ディライクがやられたのはいい気味だけどさ、リンドバーグの王子ってローレンス様だけだったでしょ? ゼロユージングだからなんとか気を引いてもらおうと嘘ついてるだけなんじゃないのかなって思って。


「もっと有名になっちまってんじゃねえか、弟よ」


「……いつかはバレることだ。ディライクに目にものを見せたかったことだし、ちょうどいいと思ってな」


 今日の学校は俺の話題で持ちきりだった。あれだけ大勢の学生がいた中で名乗ってしまったのだから仕方ない。とはいえ、廊下を歩くたびに前よりも大勢の人間の視線が集中されるのは精神的に参っちまう。


「……とりあえず授業も終わったし、闘技会に避難するか?」


「……そうだな。闘技会のみんななら、少なくとも受け入れてくれるやつはいるはずだ」


 俺と司は足早に校舎を離れ、西向きに歩いて約十五分、合計で六つある巨大な闘技場の密集地にやってきた。


「お、スパーダと司じゃねえか。いつもより来るの早えな」


 ウォーミングアップ用の広大な芝生の上でストレッチをしていた長身の男子生徒が声をかけてくる。特徴的なのは身につけた緑のバンダナとフード付きのローブだ。


 この人は五十棲利彦いそずみとしひこ。俺が所属する決闘クラブ、正式名称「闘技会」のメンバーの一人だ。まだ三年生だというにも関わらず、相場で五年生からなれるとされている「管理生」の役職についており、すでに学生決闘大会の個人出場権と団体メンバー入りが確定している超がつくほど優秀な生徒だ。


「先輩は魔法の練習すか?」


「おう! 俺から魔法取ったら何もなくなっちまうだろ? 念入りに調整しておかねえと、いつ寝首を掻かれるか分かんねえからな」


  爽やかな笑みで受け答えする先輩。しかし彼の境遇は整備された道のように綺麗なものではなかった。


 ──五十棲先輩は使だった。つまり能力を使ということ。


 この世界において魔法と能力を使える「魔法能力者」の数は連合の統計によると世界人口の八割に上るらしい。故に魔法能力者絶対主義というものがこの世には存在し、魔法しか使えない魔法使い、能力しか使えない能力者は魔法能力者に見下され、世間からの当たりは非常に強い。


 五十棲先輩はそういった腐った常識の波に揉まれてきたらしい。しかし先輩は怠ることのない鍛錬によって魔法の見識を高め、それに見合った実力と結果を出して今となっては「新時代」と呼ばれる生徒たちに名を連ねている。そんな先輩は俺にとって尊敬し、そして目指すべき生徒の一人だった。


「しっかしバラしちまったんだな、スパーダよ? 自分が滅んだリンドバーグの王子だってことを」


「……そういえば先輩は知ってましたもんね。やっぱりラースヒルズオヤジから聞いたんすか?」


「いいや? お前が初めてここで決闘した姿を見た時から分かってたよ。なんせ動きがと似てたからな」


 五十棲先輩は尊敬できる人物だが、同時に謎の多い人物でもある。


 まずはその歳だろう。先輩は俺より十ばかり歳が離れている。年齢による入学制限をこの学校はかけていないため、おかしなことではないが、先輩はなんというか、人生の経験値というものが歳に釣り合わないのだ。あまりにも大人びすぎている。


 そして極め付けはその実力。第一に、魔法使いでは魔法能力者に勝てない。それが常識なのだ。魔法を超える能力を魔法で凌ぐのは紙の盾で銃弾を防ぐようなものだからである。


 しかし先輩は基本、使。先輩が魔法を使うのはトドメをさせると相手に判らせるための、いわば勝利宣言の時のみ。対戦相手はまるで最初から敗北するために戦っているかのように、自然な流れで先輩の手玉に取られ、敗北する。そんな奇跡まほうみたいな事を起こせるのがただの学生なはずがない。


「兄貴──ローレンスはどんな人だったんですか?」


「……一言で言うと、『怖いやつ』だったよ」


  俺も先輩もそれ以上、兄貴の話題に触れることはなかった。それは先輩にとっての最大のタブーであるからだ。


◆◆◆


 俺は司と共に闘技会の詰所に入った。詰所といってもこじんまりとした建物ではなく、二階建てで奥行き三十メートルはあり、会館のような広さの詰所だ。


「!! おい、スパーダ! お前、リンドバーグだったのか!?」


 詰所に入るなり、クラスメイトのレビン・クレイストンが俺の肩に手を置き、大袈裟に揺さぶって尋ねてくる。ボードゲームやら談笑やらをしていた他のメンバーたちも俺の姿を見ると、一斉に群れをなして俺のもとに押しかけてきた。


「あー、そうだ。隠してて悪かった。でも王族だってバレちまったら色々面倒だろ? まあ現に面倒なことになっちまってるけど」


「本当なのか……てことは、まさか!! お前!! 小さい頃にルーナ様から忠誠を誓われたってことか!? くぅぅぅ……!! 羨ましいッ!!」


 ルーナというのは三年生で同じく五十棲先輩と同じ管理生を務めるルーナ・グライス・エルヴィロードという女生徒のことだ。彼女は現在フローラを治めている聖席十二貴族の生まれであり、アイドル的存在として国民に愛されている。レビンはそんな彼女に対して異常なまでの愛を持っており、何度も何度も彼女に告白しては玉砕しているのだとか。


「喜べ、小さい頃の記憶は一切無い。俺にとってはルーナ先輩と会ったのはこの学校が最初だ。お前は昔から先輩のことを知ってるだろ?」


「そうだとしても、事実としてお前がルーナ様と親密な関係を結んだというならば俺は許さん!!」


 相変わらずうるさいやつだ。俺とルーナ先輩の関係なんて学校の一生徒同士程度のものだっていうのに。


 俺は後ろで騒ぎ立てているレビンのことは無視してロッカーに向かう。そして制服である赤ラインの入ったローブを脱いでロッカーに入れ、決闘用のユニフォームを取り出し、ベンチに腰掛けて着替える。


 しかしまだユニフォームは服の形をしていない。紅い色を放つルビーのような宝玉が埋め込まれたタグの状態が元である。そしてこいつを胸に打ち込み、魔力炉と結合させることによって、体全身に張り巡らされる神経のように宝玉は展開する。


 ユニフォームというには重厚な身なりだ。呼称するならば「強化外骨格パワードスーツ」というべきだろう。


 この宝玉は反魔石と呼ばれる断層の地下──深淵アビスと呼ばれる迷宮と化した地下空洞で採掘される鉱石らしい。魔力との反応率が非常に高く、使用者の魔力と反応して事前にプログラミングされた形にへと変化することから、携帯可能な武装として現代では使用されることが多い。


 俺たち闘技会の生徒たちは皆、この反魔石のタグを所持しており、これにはユニフォームとして使用する以外の用途として誓いギアスを立てる使い道がある。誓いは魔法的拘束による最大の縛りであり、誓いを立てたらそれをやり直すことはできない。絶対にその誓いは守られることとなる。


「誰か、俺の相手を頼む」


 この場にいるメンバーへと声をかける。しかしその多くは苦笑を混ぜながら、メンバーたちと目を合わせ合って誰が行くかどうかを相談していた。


 何故苦笑されるのか、そんなものは俺がからに決まっている。皆さまもご存知の通り、俺は魔法も能力も使えない「使えない者ゼロユージング」だ。武器が何もなければまず決闘の勝負を決めることさえできない。決闘で勝つためには相手を必要がある。


 ユニフォームに搭載された決闘システムである「死亡遊戯ゲーム・オブ・デス」は、闘技場内で決闘の誓いを立てた相手と正しく命の取り合いをすることを可能とする。仮想空間と化した闘技場内では、相手をことだって可能だ。決闘者は現実でのしがらみや常識を度外視して、全力で己の力を誇示することができる──だからこそ俺の実力が最弱であるということは皆に知れ渡っている。弱い相手と戦う物好きなど──


「よっしゃあ! 俺が相手してやるぜスパーダ! ルーナ先輩の仇は俺が討つッ!!」


 仇も何もそこまで大きな縁さえも無いが、俺を勝手に好きな人の仇であると誤認してくるレビン馬鹿か──


「──待って、僕と戦わせてくれ」


 俺の本当の力を知っているローベン友達くらいだろう。

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