3 うるせえんだよ
──ローベン・ハーバー。俺はこいつと一緒に断層へとやって来た。しかし運命のイタズラか、俺が目覚めた場所にローベンはいなかった。ローベンは俺に先駆けてこの学校へと入学し、再開した時にはすでに一年時の成績を最優秀で収め、二年生になっていたのだ。
「……今日も相変わらず人気者だな、ローベン。向こうじゃ根暗クンだったってのに見違えたもんだぜ」
ローベンは自己評価が低く、自分は特別整った容姿を持つわけでもなく、特別人を惹きつける魅力を持つわけでもないと、向こうにいた頃はそう嘆いていた。
だが再開した時にはそんな過去のローベンはいなかった。天賦の魔法の才と優れた固有能力を得たローベンはメキメキと実力をつけ、今ではエーデルヴァルト期待の新星として名を挙げている。毎年断層で開催される学生決闘大会の団体メンバー入りも噂されるほどだ。
「何こいつ? ローベン君に向かって偉そうな口叩くとか大したもんだな、え?」
「お前、もしかして劣等生のスパーダか? お前なんかにローベン君と話す権利はねえよ」
取り巻きの男子生徒たちが俺にガンを飛ばしてくる。俺は単純に嬉しかった。あのローベンがこうやって人気者になり、楽しそうにしていることが。
……別に劣等感なんて抱く必要は無いんだ。俺もこいつもなるがままになっただけ。俺があの時、剣使いの力を使って人を守ったことで奴隷になったように、こいつはこいつのすべきことをしてエーデルヴァルトの学生になった。ただそれだけだろ……。
「そんな言い方やめろよ、スパーダと僕は昔からの友人だ。悪いけど積もる話があるから先に行っててくれ」
「ちぇー、つれねえの。分かったよ」
取り巻きの男子たちは言われるがままに去っていく。ローベンは少し苦笑しながら俺の隣へと座った。
「へえ、アンタがローベン・ハーバー。英雄グリフィスの息子か。向こうの世界じゃウチのスパーダがお世話になったみたいで」
「君は高崎司君だね。ラースヒルズ副校長から話は聞いている。スパーダと仲良くしてくれてありがとう」
司とローベンは世辞の言い合いをしている。二人とも警戒心が強いのか、一歩引いた物言いと共に、互いの腹の内を見透かそうとするような目で睨み合っていた。
「……あのな、目の前に本人がいるってんのに、上からもの言われると少しむかっとするんだよ。仲良く話そうぜ? 積もる話もあるんだろ?」
俺は二人を諌めつつ、話題を振った。するとローベンは嬉しそうに頷いて司そっちのけで話し始めた。
「うん! あのね! 『
「!! マジか! 今年の決闘大会に出るってことだな!?」
「うん!! しかも個人予選も通過して、二年代表で出られるんだ!!」
「やったなローベン!!」
「うん!!」
俺とローベンは抱き合う。そうか、エーデルヴァルト団体メンバーに入って、個人の代表の座も掴み取ったのか。これは友人として喜ばしいことこの上ない。
「スパーダは最近どうなの? 上手くいってる?」
「え」
祝報の後でそんなこと聞く? 俺はこの空気感を壊さないようになんとか良い話をしようと頭の中を回転させたが……無理だった。素直に話すことしか俺にはできない。
「……えーと、魔法はまだ一切使えないし、能力だって発現してない。使えるのは軽い魔力操作くらいで……」
「……そっか、いつかきっとすごい力が出るよ。それに君には
「おい、ウチの弟をいじめんのはやめてくれ。みんなの前ではへりくだって愛想良くしてるけど、家じゃ泣いてんぞこいつ」
「は!? 泣いてねーし!?」
これは事実だぞ、俺は泣いてない! ……泣いてないはずだよな?
「……ごめん、スパーダ。悪気があったわけじゃ無いんだ」
「そうやって言われるのがなんだかんだで一番傷つくんだよなぁ……」
でもやっぱりローベンは変わっちゃいない。昔から素直で不器用なやつだった。喜怒哀楽が激しいし、人のことを思って言った言葉がうまく伝わらないのだってこいつの不器用な善性を表している。
その後は司も混ぜ、三人で談笑をしながら空路を進む。そして良い具合に話が盛り上がってきた時、俺の気分を大幅に落とすやつが目の前に現れた。
「おや? ローベン君じゃないか。横にいるのは──プッ、ハハ! まさかのスパーダ君!? ゼロユージングの!! スパーダ君ッ!!」
「……ディライク・アンバーソン……」
同じクラスのディライクという男子生徒。大声で俺を晒し上げ、周りの視線は俺の方へと集中する。とはいえ……いつものことだ。こいつはことあるごとに俺のことを馬鹿にし、邪魔をしてくる。俺は毎度毎度上手いことその場を凌いでいるが、流石にこう何度も突っかかれると頭が痛くなってきてしまう。
「ねえ、なんで君が優等生のローベン君と一緒に会話しているのかなぁ? レベルが違いすぎて話せる内容が人と猿ほどの差があるだろうし、あ、もしかして言語レベルにも差があるのかなぁ? この僕が話しかけてあげてるのに、毎回無視してくるのは人の言葉が話せないからなんだね? ごめんよ、配慮できなくてさぁ……くく」
やっぱり何を言っているのかよく分からない。それは俺以外も同じようで、俺のことを馬鹿にしていた女子たちでさえも気色悪いものを見るような目でディライクを見ていた。
「……おい、低俗野郎。テメェの汚ねえ口を開かれると周りが迷惑するんだよ。これ以上俺の弟に手ェ出すってんなら二度とその口を開けねえようにしてやろうか?」
司が睨みつけながらディライクの肩に力強く手を置く。しかしその手はさらに強引な力でディライクによって振り解かれる。驚いたように目を開かせた司に対し、ディライクは息を荒げ、司以上に目を見開いて怒りを露わにした。
「汚いのはお前の手のほうだ。庶民のくせに俺に触れやがって……身の程を知れッ!」
ディライクは腰に差した杖を抜き、司の首元に突きつけた。ざわつく学生達、管理生も不在、この緊迫した事態を収めてくれる第三者は誰もいない。
「……腐っても貴族ってんなら、杖を抜くことの意味くらい分かるよな? テメェは今、この場で、この俺に対して命の取り合いを申し込んだってことだぜ?」
首に突きつけられた杖に臆することなく、司は一歩前に出てディライクの顔を覗き込む。殺意を込め、見開かれた目を見て逆にディライクは押されているようだった。
「や、やめなよ。ほら、こんな場所で決闘なんてみんな迷惑するし……」
ローベンが二人の間に割って入る。強張った表情だがしっかりと二人の顔を見ている。
「……っ。黙れ、ローベン。元はと言えば君のその態度が気に食わないからこうなっているんだぞ。実力はあるくせに腰抜け、つるむ連中はどいつもこいつも有象無象のゴミどもだ。特に解せないのはこんな魔法も能力も使えない存在する価値さえないやつと話していることだ。なぜ君はこんなやつと一緒にいるんだ?」
ディライクは舌を打ち鳴らし、ローベンに対して嫌なものを見るような目を向け、吐き捨てるように言った。
「そ、それは、スパーダが友達だからだよ。他に理由がいるっていうのか?」
そのローベンの返答を聞いて、ディライクはキレた。ディライクはローベンの胸ぐらを掴んで強引に持ち上げ、通路に向かって力強く叩きつけた。そして地に伏して唸るローベンの顔の横へと踵を落とし、怒りの連打を浴びせる。
「友達だとお!? ふざけるんじゃねえ!! なんで優れた者が価値のないゴミの面倒を見るってんだッ!!」
ローベンの顔面スレスレでディライクは床を怒りのままに踏みつける。彼の怒りは止まることを知らない。
「いいかお前ら!! 強者は弱者の世話をする必要は無いッ!! なぜか!? それはこの困窮する世の中で、強き者の育成の妨げとなるからだッ!! お前達もあの夜を経験しているだろう!? あの夜に何を学んだッ!? 俺は思い知った……! 強くなければ生き残れないということと、弱き者を守るために身を投げ出し、自身の価値を捨てて死んだ愚かな強者が存在するということを!」
杖を生徒たち一人一人に向けてディライクは演説を進める。だが……俺はそんなもの聞く気なんて一切無い。
「ぐっ!?」
ディライクのガラ空きの背後から、役立たずのカカシになっている足へ俺の足をかけ、バランスを崩した隙に杖を奪い取る。そしてそのまま地へと組み伏せて制圧。お前が言う弱者ってのはお前自身のことだ。
「ピーピーうるせえんだよ。強者ぁ? 弱者ぁ? 今ここにいる人間はどいつもこいつも愚者だよ。俺たちはあの夜をむざむざと生き残っちまった。みんな死んじまえばディール侵攻も起きなかった。フローラが滅んじまえば、団結した四大国が闇の王を潰してハッピーエンドだったろうよ。邪魔してんのは
「ぐっ……! お前は一体なんなんだ……っ!?」
「──言ってなかったか? 俺はスパーダ・リンドバーグ。あの夜を死にきれなかった愚かな王子だよ」
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