2 クソッタレな夢の世界
──西暦2000年 8月15日
俺はこのクソッタレな夢の世界へ帰ってきた。
ここは「
その弊害を大きく受けるのは「
しかし七年前、剣使いの脅威を世界に知らしめる大事件が勃発。大国フローラの王であるブレン・リンドバーグが剣使い主犯のクーデターにより暗殺され、国は火の海と化し、人口の三割が死亡する地獄が生み出されたのだ。
その事件は「神殺しの夜」と呼ばれ、その地獄を生み出した者こそ、俺の父である王を殺した「闇の王」剣使いローズベルバード。やつの出現によって世界は争いの絶えない世界へと変わってしまった。
七百年もの間、世界を守り続けていた大英雄テガロスの加護は消え去った。ローズベルバードの暴虐がその証明となり、隣国ディールはその年にフローラへと侵攻。フローラはなんとかその侵攻を防ぐことに成功したが、両国共に多大な死者と損失を出し、国際情勢は最悪な状況へと陥っている。これも全てやつの計算通りだろう。
絶対的存在がただの人間によって打ち倒されれば、その時点で絶対というものは無くなる。そして始まるのは過信に満ち溢れた殺し合いだ。それはどの世界でも同じ。この世界がクソッタレである所以だ。
ローズベルバードは「影」と呼ばれる部下を引き連れ、神殺しの夜を起こした。群れることのなかった剣使いたちが団結した悪の集団。剣使いの強さは凄まじく、一人の剣使いに対して三人でやっと勝負になるかというほどらしい。そんなやつらが集団を組めば国は壊滅する。事実、やつらの手によってフローラは半壊した。今でもその破壊行為による傷跡が街に残っている。
影は世界各地に拠点を持ち、凶悪なテロを何度も行っている。つい先日も中立国デクラメートで大規模な戦闘が起きた。影が引き起こす事件によって剣使いは敬愛の対象から憎しみの対象となり、無実である剣使いさえも見つかってしまえば連合の殲滅局によって捕らえられる。
人々の恐怖によって剣使いは捕らえられ、剣使いの行き着く末は牢で野垂れ死ぬか、奴隷として扱われるかの二極にある。
俺は後者だった。約一年前、俺は
──
俺はその技を拝借して勝ち続けただけだ。俺個人の力なんてものは使ってない。命が惜しいだけの卑怯者だ。
だが理不尽であろうとも結果だけがこの世界で生きるために必要な証明らしい。少なくとも、今の、この世界では。
「支度は済んだか? では行くぞ、エーデルヴァルトへ」
「行くっていってもすでに敷地内だけどな」
俺はその結果によって断層の教育機関である魔法学校に通うことができた。
王立エーデルヴァルト魔法学校。フローラ街部の大半を占める巨大な学校だ。王立といえどこの国の王家はすでに滅亡しているため、援助しているのは王の側近であった聖席十二貴族たちだ。過去と比べればその規模も縮小したそうだが、それでも断層初の魔法学校としての歴史と名声は落ちることがなかった。そんな学校に通えたのは、俺にとっては最悪な結果だ。
◆◆◆
どういうわけかこの世界の乗り物は飛行船が主流らしい。テレビやパソコンもあるのになぜ自動車や列車が生み出されなかったのか疑問ではあるが、今日も俺は登校のためにエーデルヴァルト行きの便に乗る、のだが……。
「マックのやつ、どこ行ったんだよ……アイツの方向音痴は神隠しレベルだな……」
一緒に部屋を出たはずのピーター・カーマックは寮を出てすぐに忽然と姿を消してしまった。なんせアイツは極度の方向音痴だ。入学して半年経った今でさえ、寮の部屋へ辿り着くために誰かに道案内を頼むほどの酷さなのである。
「まあ、流石に学校には行けるだろ。先に行くしかねえな」
俺はマックが校区の外に出ていないことを願いながら飛行船に乗った。
────
「ねえ、見てあれ」
女子グループの目が俺に注目する。なぜなら俺はこの学校の有名人だからだ。
「あ、もしかしてスパーダって子じゃない? あれでしょ、魔法も能力も使えない『ゼロユージング』の子」
「なんでエーデルヴァルトに通ってるのかしら? 何も勉強できることないから一般魔法科のくせに落ちこぼれの専門魔法科のカリキュラムを組んでもらってるらしいじゃない」
「マジ? 近づくと無能が移っちゃうんじゃない? 無視しよ」
「うん。そうね。今日は魔法の実技テストだし」
こんな具合に俺は周りの人間から嫌われているという意味で有名だ。魔法の世界と言ったが、この世界には魔法を上回る『能力』という力が存在する。
大抵の人間が魔法と能力を使えるにもかかわらず、俺はそのどちらも使えない。正直言ってゴミクズだ。学校では隠しているが、俺はそのゴミクズに加えて剣使いという犯罪の力まで兼ね備えた最低の人間だ。
こんな人間に手を差し伸べてくれるもの好きはそういない。それに関してはこの世界も向こうと同じだ。結局のところ都合のいい世界なんて存在しないんだ。
「……言い返さなくていいのかよ。お前、女にも舐められてんだぜ?」
苛立ち混じりの声で小馬鹿にするように言ってきたこいつは、俺に手を差し伸べてくれた数少ない物好きの一人だ。
「いいんだよ、勝手に言わせておけば。それにゼロユージングなのは事実だろ? あいつらと同じで、俺だってなんでこの学校にいるんだろうって思ってるよ」
「……そりゃこうするしかなかったからな。オヤジがお前を見つけてきて、この学校に引き入れなければ、お前は今でも殺し合いの日々をしてただろうよ」
「……ラースヒルズには助けられた。おかげでお前みたいな兄弟だって得られたわけだし」
「俺は裕人と葵さえいれば十分だったよ。あいつらはお人好しだからお前のことも気に入ってるみたいだけど、俺に言わせてみりゃ出来の悪い弟を一人持っただけだ。正直言ってお前の御守りはごめんだよ」
一年前、俺のもとに現れたラースヒルズ・ネクトという男の手によって俺は奴隷から解放された。飼われていた闘技場での戦績を評価され、俺はこの学校へ入学することになった。
さらにラースヒルズは身寄りのない俺を養子に取った。だがラースヒルズにはすでに三人の養子がいた。
それが
みんないいやつだ。司はこんな感じでツンケンしてるけど、俺たちを引っ張ってくれる兄貴肌だし、裕人は温厚で誰にでも優しい。葵は落ち込んでるところを見たことがないくらい元気いっぱいな女の子だ。本当の家族と暮らした記憶がない俺にとって、同じ年頃の兄弟がいるのは嬉しかった。
俺にはこの世界にいた頃の記憶がない。この世界に来てから毎晩のようにあの夜の夢を見て、その中で出てくる家族の姿は分かっているが、彼らがどんな人柄だったのかといったことは全く分からない。俺が知っている断層の出来事は全てこっちに来てからの一年の間に知った。
俺は隣界で六年の時を過ごした過去を持つ。地中海に位置するイタリアの人工島バースで大工の義父、花屋を営む義母に幼い俺は育てられた。
当時の名はノア・ウィザード・アカルディ。ミドルネームのウィザードは父方の祖母の旧姓らしい。森で拾われた俺にうってつけだと、こんなファンタジー色の強い名前をつけられてしまった。
いい思い出はあまりない。親父とお袋はいい人で、そんな人に拾い子の俺が育ててもらえただけでも幸せだったのかもしれないが、向こうでは常に見えていた神家の紋章と首にある大きな咬傷によって、学校ではいじめの対象になってしまった。
俺は愚かにもいじめっ子に手を上げた。いじめられたその仕返しだとか言い訳するつもりはない。いじめっ子のリーダーに全治1ヶ月の大怪我を負わせてしまった俺は学校に居場所を無くし、自主退学した。
それから俺は家業である花屋の手伝いをしながら暇を持て余す日々を過ごしていた。しかしある日、俺にたった一人の友達ができたことで、俺の
「あ、おはよう、ノア──いや、スパーダ」
──ローベン・ハーバー。俺と一緒にこの世界へとやって来た俺と同じあの夜の生き残り。そしてエーデルヴァルトの最優秀二年生。
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