第49話  策謀

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九時になってママが「もう直ぐいらっしゃるわ!今夜は私と洋子さん、千津さんと絢奈さんの四人ですが、途中洋子さんは抜けますので、千津さん頑張ってね!新人の絢奈さんのカバーをお願いね」と指示を出した。呼ばれた千津も美沙と同じ様な大きく胸元と背中が開いたドレスを着ていた。洋子が「千津さんはお気に入りだから大丈夫よ!千津さんを手本にすれば良いのよ!」とアドバイスをした。

その直後、杖を付いた眼光鋭い白髪の老人が入って来た。後ろには貫禄の有る男が一人ついている。

「いらっしゃいませ!専務さん!部長さんもご一緒でしたか?」そう言って出迎える沙紀子と洋子。

糀谷専務が沙紀子ママに耳打ちをすると、ママが黒服を呼んで奧の個室に案内する様に指示をした。

「後、お一人お見えになるわ!少し遅れて来られる様です!」と黒木マネージヤーを呼んで伝えた。

「あの新人入れない方が良いですよね!」

「来られたら出すようにすれば良いでしょう!専務がきっと気に入ると思うから最初はご機嫌を取りましょう」


美沙は今まで着けた事の無いドレスに戸惑いながら、呼ばれるのを待っていた。

人は服装とかメイクで多少性格も変わるのだろうか?お化粧を濃くして髪を染めていると大胆になれる気がしている。

今、目の前にモーリスの専務がいる、入店初日から出会った幸運に心臓が高鳴る美沙。

もう一人も部長だと聞こえたので、相当上席の人なのだと考えていた。

その時、洋子が「千津さんと絢奈さん!付いて来て!」と言って二人を先導した。

「あの専務はお触りが好きなので触ってくると思うけれど、多少我慢すればチップを頂けますから我慢してね!特に今夜は個室ですから大胆になるかも知れないから覚悟して接待して下さい!千津さんは心得ているから大丈夫ですが、絢奈さんは適当に拒否しながらで充分通用するわ、でも最後は折れるのよ!」

「は、はい」とは言った美沙は、電車の中で痴漢に胸を触られた記憶が蘇った。

その時は相手の腕を掴んで大声で「この人痴漢です!」と叫んだが、我慢出来るかな?

「いらっしゃいませ!」個室の扉が開いて中に入ると、結構大きな部屋で十名程が座れる豪華な造りになっていた。

中央の大きなソファーに座っている白髪の老人が、沙紀子ママからおしぼりを貰って顔を拭いていた。

「ご紹介しますわ!専務さん!今日入った新人の絢奈さんです!大学の四年生で三月までは殆ど毎日の出勤で、四月から就職されると土曜日のみの出勤になります!」

「可愛いでしょう?」ママが専務に言うと絢奈が「この仕事初めてで何も判りませんが、宜しくお願いします」と深々とお辞儀をした。

専務は絢奈の胸の谷間が目に入って「おお!初々しい美人だな!横へ座れ!」そう言って自分の右側に座らせた。

千津は左に必然のように座って、絢奈の横に松永部長が座ると絢奈は二人の男に挟まれた。

先程は反対側に座って居た筈の松永部長。

美沙はこれの方がボイスレコーダーには声が充分に入ると内心喜んだが、この座り方は専務が自分を気に入ったという合図だったと思った。

「松永!今夜はこの部屋にして良かったな!」嬉しそうに笑顔になる専務。

この老人が糀谷専務で、隣が松永管理部長か?もう一人誰が来るのだろう?モーリスの人間では無い様な気がする。

「さあ、何が飲みたい?」専務が女性達に尋ねる。

「私はビール」洋子が真っ先に答える。

「私は白ワイン!貴女方は?」ママが尋ねる。

「千津はいつもの酒だな!」専務が言うと頷く千津。

「絢奈さんは強いの?」

「いいえ、弱くてそれ程飲めません」

「じゃあ、千津と同じカルーアミルクを作ってやれ!お子様向けだ!」専務が笑いながら黒服に言う。

モーリスの二人には高級なウイスキーが既に運ばれていて、ママが水割りを作り始めた。

「カルーアミルクって?」全くお酒に疎い美沙が気になって尋ねた。

「コーヒー牛乳の様な物よ!甘くて美味しいわ」千津が教える。


牛乳で割ったカクテル、「カルーアミルク」は有名なので、皆さんご存じだと思います。

カルーアミルクはコーヒー牛乳のように甘くて柔らかく飲みやすいカクテルです。

口当たりが良いので、お酒の弱い方でもぐいぐいといけてしまいますが、アルコール度数は決して低くはないので注意する飲み物だ。


早く酔わせて遊ぼうと考える専務は、皆の飲み物が届くと「乾杯!」と自ら発声してグラスを合わせた。

「どうだ!美味しいだろう?」一口飲むのを見て尋ねる専務。年齢は八十歳だが、元気溌剌なモーリスの闇の部分の最高責任者だ。新和商事との唯一のコンタクトはこのクラブJを使って行われる。通常は松永部長だけなのだが、二ヶ月に一度程度は専務もお楽しみを兼ねてやって来るのだ。

いつも個室は殆ど使わないが、今夜は特別に使うと言ったのは、何か重要な案件が有るのだと、沙紀子ママは既に察していた。

「飲みやすいだろう?アルコールも少ししか入っていないから、多少飲んでも大丈夫だ!」そう言って勧めると、千津が一気に飲み干して「専務さんお替り頂いても良しいでしょうか?」と空のグラスを上に上げた。

「千津はこのカクテル好きだったな!どんどん飲みなさい」

「はい!ありがとうございます」次のカクテルが届くと、すぐに飲み始める。

「絢奈さんも負けずに飲みなさい!」不気味な笑みを見せて専務が言う。

千津のカクテルとは見た目は同じだが、酔いが回る薬が混入されていた。



 

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