第48話  潜入

  56-048

月曜の朝、ウィークジャーナルの名古屋支店が騒然となっていた。

「な、何?美沙なの?」同僚の女性が驚いた。

「本気なのね!確かに判らないわ!これは参りました」小南が言った。

「小悪魔的な美しさですね!」三木が惚れ直す。

お昼前に「じゃあ、大阪に行って来ます!先ずは面接パスしなければ駄目ですが、必ず潜入します。メールで連絡をしますので宜しく!」

「住むところは?」

「マンスリーマンションを契約しました!これが住所です!FAXも付けましたので、これが番号です」小南に手渡す。

昨夜、自宅では母の妙子が美沙の髪型を見て声が出ない程に驚いたが、千歳製菓を救う為に大阪に行くのだが、先日の事件で顔が知られているから仕方が無かったと必死で説得していた。


美沙が心配な小南は美沙には内緒で、三木に美沙のボディガードを頼み、さっそく美沙のマンション近くのマンスリーマンションを借りた。

三木は喜んで仕事を引き受け、急いで大阪に向う事になったが、その日の夕方にはすでに美沙はクラブJに乗り込んでいた。

美沙は「インターネットのホステス募集を見て来たのですが?」開店前で掃除と片付けをしていた黒服たちに声をかけた。

「インターネットの募集は、ネットで申し込んで案内が届くのだけど知らなかったの?」

その中のチンピラ風の男が美沙に言った。

「でもねえちゃん可愛いな!幾つ?」

「大学四年で二十一歳です」ミニスカートに薄手のセーター姿、化粧は濃い目の美沙。

「もう直ぐマネージャーが来るから、頼んでみたらいいよ!美人だから採用されるだろうよ?」

しばらくして、マネージャーの黒木が外車を乗り付けてやって来た。

店の入り口で立っている美沙を見つけて「誰だ?」と掃除の男に尋ねた。

面接に来た女だと聞いて「ネットで申し込めと追い返せ!」と言ったが美沙が黒木の方を向いて笑顔で会釈をした顔を見たとき時「待て!連れて来い!」と態度を変えた。


小さな部屋に案内されて「ネットで申し込まずに直接来るとはな?書類選考の後、面接になっているのだよ!」

「すみません見落としました」

履歴書を見ながら「名古屋の出身で、大阪の大学に?」

「はい、一人暮らしでアパートを借りています。桜木絢奈と申します」

「もう就職決まっているの?」

「はい、大阪のKKPに四月から就職します。実は奨学金を少しでも早く返済したいので、五ヶ月間だけですが働きたいのです」

「五ヶ月だけなら難しいな!クラブはホステスと客の関係が強いので、四月以降も週に一日でも働けるのなら採用を決めても良いが」

「本当ですか?土曜日だけでも良いでしょうか?」

「土曜は一番忙しいから、いいよ」

「それでは就職後は、土曜日だけ働きます。それまでは毎日働かせて下さい!」

「それは良いが、一応履歴書の確認をするので、返事は明日になる」

黒木は可愛くて小悪魔的な美しさの美沙を採用するつもりで検討する事にした。

クラブJのママ籠谷沙紀子とチーママ森田洋子は履歴書の写真を見て、この子なら使えると二人とも賛成した。ママの沙紀子は「糀谷専務の好みかも知れないわ」と言った。

翌日、新和商事の調査員が美沙の身元の調査を簡単に電話で行って、桜木絢奈は確認されたので、黒木マネージャーが「調査はOKでした!明日から入店させますか?」とママに聞くと「明日は専務が来られるから、丁度良いかも知れないわ!」そう言って微笑むママ紗紀子。

美沙の携帯に採用の知らせが入った。美沙は直ぐに小南に採用が決まった事を連絡して、店用携帯も用意したと新しい番号を伝えた。

美沙は警戒して、ボイスレコーダー二個、携帯電話二台を用意し、身元が判明する物は全てアパートに置きクラブJに入店した。

開店前に、ママの沙紀子とチーママ洋子が面談と美沙のドレス選びを行い「写真より実物の方が数段可愛いわ」と褒めた。

「名前は絢奈のままで行きましょう、可愛いからぴったりだわ」

だが、与えられたドレスを着た美沙は、大きく胸元と背中が開いているので戸惑いを隠せなかった。


「今日のお客様はとても大事なお客様なのよ!だからお客様の好みのドレスでおもてなしするのよ!気に入られたらチップを貰えるかも知れないわよ!」

そう言われても、開店前にホステス達に紹介された美沙は、お辞儀をするのも胸元が気になった。

「今日の大事なお客様の相手させられるのでしょう?」美沙と年齢が近い入店一ヶ月の綾乃が、早速話し掛けてきた。

「大事なお客様って?」

「あのモーリスのお偉いさん!糀谷専務!爺さんだけど直ぐに触るのよ!だからその様なドレスを着せられたのよ!」

「えっ、モーリスの専務?」

「月に一度程しか来ないけどね。触られない様に気を付けるのよ!と言ってもそのドレスじゃあ駄目だわね!あきらめてチップ貰う方に力を入れた方が良いわ」

美沙は初日から大物の登場に興奮して、トイレでボイスレコーダーのタイマーをセットして、腰の部分に巻付けた。

胸の谷間に入れたら一番録音は簡単だが、触りに来た時に見つかれば全て終ると思った。

多少触られても、重要な話が聞けるのなら我慢しなくては潜入した甲斐が無いと覚悟を決めた。

大切にしていた長い黒髪を短く切って、金髪にしての決死の潜入なのだ。

小南は、緊急電話はここね、直ぐに助けに行くからと三木の携帯番号を教えていた。もしもの時ウィークジャーナルだとばれない様にと三木にも新しい携帯を持たせていたのだった。小南も美沙の覚悟の潜入に危険を感じていた。


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