第45話 糸口
56-045
その日の夜、美沙は信紀に宮代会長の意図を説明して、明日から全国の取引先に営業に行くように伝えた。
「お父さんが再び営業課長に戻れるのか?」
「そうよ!工場内の仕事は嫌いだったでしょう?明日から頑張って取引先を引き留めて!」
「だが営業の常務に問い合わせが行くと、直ぐに露見してしまわないかうだろう?」
「口止めは必要だけれど、別の工場で生産出来る事になりましたので十二月中旬までは先方との約束がありますから内密にお願いしますと言って欲しいのよ!」
「即ち今の商品のレシピで他の工場で委託生産を行い納品は当社からさせて頂くと言えば良いのだな」
「そうそう、全く同じ品物を、他社で製造して千歳製菓の品物として販売すると説明をすれば良いのよ!」
「値段も変わらなければ、取引先は新たな取引先から商品を仕入れる手間がなくなる。もし断られても同等の商品を、秋田和菓子を初めとした他のメーカーに頼んでも殆ど断られるので、必ず千歳製菓に仕事が来るから、お父さんの営業は上手く運ぶと思うわ!」
「既に他社に流れた商品も流通が止る事になるのだな!」
「そうよ!秋田和菓子の大泉社長が、関係先に今日連絡してくれたと思うわ」
「秋田和菓子の影響力は大きいから、八割は維持できそうだ!」
「小諸社長の商品も作ってあげてね!大変お世話になったのだからね」
今日から大阪に出張の三木と小南は、新和商事の周辺と梶谷不動産の関係先を調べていた。
夜遅く小南から美沙に電話があった。「新和商事とモーリスに繋がりがありそうよ!でも会社としてでは無く、新地のクラブに新和商事の新垣社長が行きつけの店が在るのだけれど、そのクラブの常連客にモーリスの松永って部長がいるのよ!」
「名前は?」
「北新地のクラブJって、大きな会員制のクラブよ!」
「そのクラブを見張れば大きな魚が引っかかるかも知れませんね!」
「今も三木君が見張っているけれど、中には入れないから誰が来ているかはよく判らないのよ!」
「遊び人の世界ね!常務とか社長なら何か知っているかもね?」
「でも大阪の北新地には行かないでしょう?」
「常務が接待でモーリスの人と行った可能性は充分有ると思うわ」
「社長も何度もモーリスに行っているから、可能性ありだわね」
「常務に体当たりして聞いてみますか!」
「気を付けてよ!美沙を狙っているから襲われるわよ!」
「木村カメラマンもう直ぐ退院でしょう?もう歩けるって電話があったから手伝って貰いましょう」
「もう三ヶ月だもの、本人次第ね。無理させたら駄目よ!」
「はい!明日、木村さんの自宅に行って様子を見て来ます」
いつの間にか夏が過ぎて、秋になっていた。
今月末には特集記事が掲載された本誌が印刷を終え来月初めには店頭に並び、中旬には千歳製菓と玉露堂の頒布会の注文広告が新聞に折り込まれる。そうすると一斉に注文が全国から殺到するだろう。
来年一月から各会員に商品の発送が始まる。越後屋から千歳製菓に紅白薯蕷饅頭が納品され、玉露堂のお茶をセットして発送する事になる。
その様になればこれで、千歳製菓は鶯餅を余裕で製造出来る。
翌日、赤城信紀は自宅から宮代会長の自宅に出勤した。
「今日からこの部屋を使って、全国に営業をして欲しい!大きな取引先には直接訪問して理解して頂く様に全力を尽くしてくれ。頼んだぞ!それにしても君の娘さんは素晴らしい!先日の誘拐事件でも活躍したそうだが、我社の為にここまでしてくれる人は他にはいないだろう。ありがとう!」
「口うるさい娘ですが、正義感は人一倍ですから、親の口から言うのも変ですが頼りになります」
その日から、赤城課長は宮代会長宅を事務所として営業を始めた。小さな取引先を中心に廃止アイテムの撤回と、取引継続を連絡していく。
その後は、順次大きな取引先に出向いて話をする為に出張も行った。
美沙はクラブJの事を調べるために、常務に秋田のお土産を渡したいと言って誘い出すことにした。連絡を受けた常務は態々土産を買ってきてくれたと大喜びで、午後会社の近くの喫茶店で会う約束をした。
待ち合わせの喫茶店に木村カメラマンも一緒だとは知らない。
浮き浮きした気分でやって来た常務だったが、木村カメラマンの顔を見るなり急に不機嫌な表情になった。
「ご紹介します!私達の会社の木村カメラマンです。先日まで交通事故で入院されていまして、来週から復帰し私達のグループで仕事をしますのでご挨拶に参りました。これはお土産のキーホルダーとお財布です」そう言って差し出すと直ぐに機嫌が直って笑顔に変わった。
秋田の話を少ししてから「常務さんはモーリスの担当ですから、接待も多いのでしょう?」と尋ねた。
「いいえ、私が商談するバイヤーは若いので、接待には全く応じません!というより禁止されている様です、課長さんとか部長以上の方には社長が時々接待をしています」
「接待は大阪の北新地とか?」
「社長の知り合いに新地の人がいる様で、紹介されて行ったとは聞きました」
「社長さんは飲みに行かれる事が多いのですか?」
「名古屋にも行きつけのクラブが在るみたいですよ!そこのホステスさんが元新地の人だったのかな・・・何故そのようなことを聞くのですか?社長の特集でもされるのですか?」
「判りましたか?トップの人脈という別の企画がありまして、この企画が取上げられるかはまだ検討中ですね!」
「社長は喜びますよ!その様な記事に出るのが好きですからね」
「常務の性格はお父さん似なのですね」
「僕は父ほど目立ちたがりではありませんよ!」
「一度名古屋ででも夜の世界を見て見たい気がしますわ!」
「えっ、行きたいのですか?僕が案内しましょうか?」
「一人は少し恐いので女性二人でも宜しいですか?」
「何方ですか?」嫌な表情になる。
「小南ですよ!駄目ですか?」
「はい、大歓迎ですよ!小南さんと美沙さんですね!」
「出来ましたら、社長の行きつけのクラブに行きたいです!」
「お任せ下さい!」有頂天になる京極常務だった。
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