第44話  会長の気迫

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「確かに凄い数字ですね!この数字を毎月生産すれば、他の仕事は出来ませんね!我社も臨時出勤を従業員たちにお願いしなければ乗り切れませんね」

「今おっしゃった品目を全てお願いしても、御社にご迷惑にはなりませんか?」

「大丈夫ですよ!パートさんも久々に仕事が多いと喜ぶでしょう?」

「そう言って頂いて嬉しいです!宜しくお願いします」

宮代会長も肩の荷が降りたようで大きな溜息をついた。

「会長、商売の話はこれ位にして、赤城さんと三人で美味しい物を食べに行きましょう。後ほどホテルにお迎えにまいりますので」と大泉社長は急がせるように言った。

美沙と宮代会長は挨拶をして、タクシーで予約している近くのホテルへ向かった。

もう外はいつの間にか暗く、東北の冬の様相で冷たい風が吹いている。


宿泊先のホテルに入った美沙はさっそく小南に電話を掛けた。

小南から常務親子の様子を聞いて、大笑いをしてしまった美沙。

「こちらは大成功ですよ!宮代会長が直接頼みに行ったのが良かったようです!今からご馳走を頂きに行って、明日帰ります」

「私達は愛知県警の三宅刑事さんから例の新和商事が部分的にモーリスと繋がっている様だ!との情報をもらったので取材に行くわ」

「気を付けて下さいよ!暴力団系ですよね?」

「桐谷がこの新和商事の男なら、モーリスの犯行の決め手になるのだけれどね!」

「情報がつかめるよう祈ります。くれぐれも気をつけてください。では、また名古屋で」

小南との話を終えてすぐに、大泉社長が迎えに来たので、宮代会長と一緒にタクシーに同乗して食事に向かった。

その後、料理屋でお酒が入ると昔話に花が咲いて宮代社長は二次会に向ったが、美沙はホテルに戻ると酔いも手伝ってすぐに眠ってしまった。


翌日、吉武部長と大泉社長が空港まで車で送ってくれた。空港に到着すると大泉社長は宮代会長と堅い握手をして戻って行った。

「改めて、ありがとう!赤城君の努力で話がスムーズに進んだ。遠路遥々来た甲斐があったよ!」

「これからですよ!会長は今日神崎工場長と酒田専務に話されるのですよね?!」

「今晩、自宅に二人を呼んでいる!君も来て貰えたら助かるが?」

「神崎工場長は私を知っていますから、まだ内密の方が良いと思います」

「そうだな!赤城君の名前を出すと、お父さんに迷惑が・・・」

「美沙さん。君のお父さんにもう一度営業に戻ってもらい、削減した取引先を回って、取引を復活していただくようにお願いしてもらいたいと思っているよ」

「父には会長が今おっしゃった話をしておきます」

二人は製造を協力してくれる会社を確保は出来、一応の成果を感じていたが、これから本格的にモーリスとの戦いが始まるので安心するのは未だ未だ先だと気を引き締めた。


夜八時過ぎ酒田専務と神崎工場長は宮代会長の自宅を訪れた。二人はそれぞれに誰にも言わずに来いと言われていたので自宅で対面して驚いた。

「専務!」

「工場長!」

「我々二人か?」

「その様ですね!」辺りを見回しながら言った。

「夜分に来て貰って悪かったな!」と会長が現れた。

「我々だけですか?」

「そうだ!二人に重要な話がある。今から話す事は絶対に内密にして欲しい」

「これは、主人のお土産ですよ!」佳枝夫人が二人にいぶりがっこの包を手渡した。


秋田の漬物と言えば、この「いぶりがっこ」燻り、つまり大根の燻製の漬物です。

秋田の冬は厳しく、大根を漬物にしようとしても、天日干ししている過程で凍みてしまいます。そこで、囲炉裏の上に吊るして大根の燻製にする「いぶりがっこ」が生まれました。


「秋田に行かれたのですか?」土産の包を見ながら話す酒田専務。

「そうだ!秋田和菓子さんに行って来た!」

「えっ、今頃秋田和菓子さんに、昔一度私とお伺いましたね!もう二十年程前になりますかね」

神崎工場長が懐かしそうに言ったが「会長!何故今頃?」と質問した。

すると宮代会長は来年の頒布会のリストを座敷机の上に置いた。

「これは?」酒田専務が手に取って見るが、何の事か理解出来ない。

まだリストが社内には公開されていないので判らないのだ。

一月   紅白饅頭      越後屋

二月   鶯餅        無し

三月   三色団子      秋田和菓子

四月   桜餅        秋田和菓子

五月   柏餅        多い

六月   水無月       無し

七月   水羊羹       多い

八月   水饅頭       秋田和菓子

九月   栗饅頭       無し

十月   栗羊羹       無し

十一月  みたらし団子    秋田和菓子

十二月  柚子餅       越後屋

「何処かの頒布会のリストですね!我社と同じ様な事をするのですね!」

「専務!そのリストは来年の我社のモーリスで採用されるリストだ!」

「えっ!その様なリストはまだ知りません。来月初めに発表されると聞いています。何故会長が?」

「それに、越後屋さんと秋田和菓子の名前が書いていますが?どうなっているのですか?」

「書いている会社で製造して貰う。その為に秋田和菓子に行ってお願いしてきた」

「当社の頒布会の品物を他社に作らせるのですか?当社はどうなるのですか?」

「鶯餅、水無月、栗饅頭、栗羊羹の四品だけを製造する!他は秋田和菓子さんと越後屋さん、そして、その他の製造工場にお願いするのだ」

「何故です!工場の拡張工事も始まりアイテムの整理も、取引先の整理も進めているから、生産は大丈夫です!」

「それが罠なのだ!これを読んでみなさい!」

モーリスに潰された会社のリストと、京漬の紹介、玉露堂の紹介を見せる宮代会長。

用紙を見る二人の顔から血の気が引いて行くのが判る。

「こ、これは会長!我社は罠に填まったのですか?」

「その様だな!だから京漬さんの方法で切り抜ける為に秋田に行って来た。だが、モーリスに悟られたら、邪魔をされ無理難題を押しつけて来るだろう、明日から元営業課長の赤城君に極秘に取引先を訪問させて取引を続けて頂く様に営業をさせる!京極社長には内密にな!赤城君には既に私から話をしたので、明日からは工場には入らない!」

「この様な重要な事を赤城主任に話しても大丈夫ですか?」

「明日から赤城課長だ!だがそれは私達だけの話だが、頒布会の注文が十二月から始まるので、その時期まで極秘で行う。わかったな!」宮代会長の気迫に驚く二人。


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