第43話   自慢の塊

 56-043

「晃!どうなっているのよ!」三人が出て行くと急に不機嫌になる怒り始める貴代子。

「僕も美沙さんが来るのを楽しみにしていたのに、急な取材で秋田に飛んだらしい」

「秋田?お父さんが今日から秋田に行くと言っていたけれど、偶然かしら?」

「会長も秋田に行ったの?一人で?」

「友達と一泊二日の旅行だと、お母さんがポロっと言ったのよ!」

「まあ、会長と美沙さんの接点は何も無いから、偶然だろうが世の中狭い気がするよ!でも今日お母さんに見て貰って、気に入って貰えたらって言うか、絶対気に入ると思うけれど結婚を前提にお付き合いをしようと思っていたのに残念だ!」

「名古屋の何処の子かも知らないのでしょう?我社にも赤城って昔からの社員が一人居るわ」

「ああ!あの営業課長で仕事が出来ずに、工場の主任まで格下げされたおっさんだろう?本当に営業出来なかった様だよ!モーリスでも時々話題になったよ!小さな取引先を守る為に嘘の報告までしたって、親父が怒っていたよ!同じ名前でも月とすっぽんだな!」

工場の写真撮影の間、言いたい放題の母子だ。


しばらくして三人が戻って来ると、コーヒーが用意されて、いよいよインタビューが始まった。

予め質問事項を渡されていたので、京極社長はそれに答えるだけなのだが、内容の大半は自分の自慢話で小南には聞くに堪えなかった。

中でもこれからモーリスと二人三脚で売上げを十倍にしたいと話した時には、思わず笑いそうになった。

本当にモーリスの実態を知らないノー天気親子は、インタビューが終っても「隣の保育園の取り壊しが来月始まるので、工場が大きく拡張されるとか」と上機嫌で話をした。

移転した保育園の横には別の土地に冷凍の保管倉庫の建設も今月末には始まるので、少々の注文増には対応出来るとも話してきた。

小南はノー天気親子の自慢話にうんざりしていて直ぐにでも帰りたい気分だったが、昼食の準備が近くの料理店で準備されていたので、インタビューを終って向う事になった。


懐石料理の店では貴代子が小南に「今日来られる予定だった赤城さんって、社内ではどの様な評判ですか?」

「五月の連休明けから取材を一緒にしていますが、今年入社の新人とは思えない活躍です」

「先日の誘拐事件でも活躍されていましたね」

「彼女はあの事件で新人として初の社長賞、そして来週は大阪府警から感謝状も頂けるそうですよ!」

「そうなのですか?あの誘拐事件は、モーリスに逆恨みした我社の近所にあった寺崎食品の親子の犯行だったのですよね!」

「確かこの近くですね」

「その跡地に我が社の冷凍倉庫を建設予定です!」と横から京極社長が自慢げに言った。

その後も、京極社長は自慢話に終始して何度も今後モーリスと一緒に自分の会社も大きく発展すると話していた。

貴代子は話の隙を見ては美沙の事を小南から聞き取ろうと必死で、常務の方と言えば美沙が来なかったのが余程ショックなのか、社長の話も聞かずに黙々と食べるだけだった。


その頃、美沙と宮代会長は秋田空港に到着した。宮代会長は飛行機を降りると開口一番「流石に東北だ!もう肌寒い!」と言った。

秋田和菓子に到着したのは三時過ぎで、宮代会長は出迎えてくれた吉武総務部長と大泉社長に会うなり深々とお辞儀をして「この度は厄介なお願いにこの爺がやって来ました!」と言った。

「お久しぶりでございます!会長!お元気そうで、赤城さんから話は全て聞いていますので、ご安心下さい!」

「本当にお恥ずかしい話で申し訳ございません」

「事の経緯を聞くと、私共でも騙されていたと思います!実に巧妙で悪辣です!この様な会社に対しては業界が結束して戦わなければこそ対等な立場になれますね」

一月   紅白饅頭      越後屋

二月   鶯餅        無し

三月   三色団子      秋田和菓子

四月   桜餅        秋田和菓子

五月   柏餅        多い

六月   水無月       無し

七月   水羊羹       多い

八月   水饅頭       多い

九月   栗饅頭       無し

十月   栗羊羹       無し

十一月  みたらし団子    秋田和菓子

十二月  柚子餅       越後屋

「この頂いた資料の中で三色団子、桜餅、みたらし団子、それに水羊羹は我社で製造させて頂きます。水饅頭も私共が懇意にしている業者に手伝って貰えるので大丈夫です。越後屋さんは如何でしたか?」

「越後屋さんには、来週お邪魔させて頂こうと思っています」

「そうでしたか?会長がこの様な田舎までご足労いただくとのことだったので、前もって越後屋さんにも打診させて頂いています。宮代会長が来られた事をお伝えすれば、協力して頂けると思います」

「大泉社長、何から何までありがとうございます」

「先日、赤城さんから切実なお話頂きまして、千歳製菓さんがお願いされるのなら協力致しましょうと、約束させて頂きましたから。今日宮代会長にお越し頂き、千歳製菓さんの真意が確認出来ましたので、協力させて頂きます」

「本当にありがとうございます!社内ではモーリスを欺く為に誰にもまだ話していません!明日帰りましたら役員達には内密に話す予定です」

「モーリスに悟られると、次の手を打たれますから来月末までは内密にするのが良いと思います」

美沙は「頒布会の応募が始まれば、モーリスもお客様第一になりますから、簡単には止める事が出来ないでしょう!それに私達の特集記事が出ますので、この企画の数字は通常の二割増しから三割増しになると思われます」と言ってモーリスの販売量の予測を書いて大泉社長に見せた。



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