第34話 不思議な納入価
56-034
その後飛行機で秋田県の秋田和菓子株式会社に向った美沙。
「ウィークジャーナルの記者さんが私共の会社に取材とは驚きました!それも名古屋支店の若い女性の方とは!」
「実は表向きはウィークジャーナルの記者として参りましたが、今日はお願いがあって参りました」
総務部長の吉武が身を乗り出して美沙に「どの様な事でしょうか?」と尋ねた。
「実は私の父は千歳製菓に勤めています」といきなり切り出した美沙。
「えっ、我社のライバルの会社にお勤めですか?」
「千歳製菓は来年モーリスに商品を納入する事になりました」
「今も時々納品入されている様ですが?」
「来年から頒布会にも納入する事が決まりました。単刀直入に申上げます。千歳製菓にはそれだけの生産キャパがございません!一部の商品を助けて頂けないでしょうか?」
「お父様の会社で生産キャパが無いのを、私共の会社で生産するのは難しいと言うより変ですよ!」
美沙は必死にモーリスの商売の方法と、ウィークジャーナルがどの様な記事を書くのかを説明した。
美沙の懸命な話に、吉武は社長を呼んで来ると言って席を立った。
しばらくして、社長の大泉が来て「遠路遙々来られて、奇想天外なお話をされるお嬢さんですね、だが、今の状況を聞く限り、このままではと千歳製菓さんは完全にモーリスの術中にはまりますね!先代の社長の宮代さんとは何度か会合でお会いしましたよ!お力になれるのなら私共が、損をだすまでは出来ませんがお手伝い致しましょう」と笑顔で美沙に言った。
「しかしそれにしても、モーリスはもの凄い手法で企業を食い物にするのですね!驚きました!もしも私の会社にも触手が伸びていたら、騙されていたかもしれませんね」
美沙は、これは自分の独断なので、正式に千歳製菓から打診が有ると思うと説明すると「お嬢さんの誠意が伝わらなければ、千歳製菓さんもそれまでですね」
美沙は自分が頼みに来た事は内密にして欲しいと頼んで秋田和菓子を後にした。
美沙の後ろ姿を見送りながら「吉武!良いお嬢さんだな。美人で父親想い!父親の会社を必死で守ろうとしている。涙が出るよ!」
「そうですね!彼女必死でした!玉露堂の話、京漬の話、寺崎食品の話、全て説得力がありました」
「だが、京極社長が頼みに来るだろうか?」
「それも運でしょう!」
「あの子の願いは叶えてあげたい!このリストで他に作れる会社を一応打診しておきなさい」
翌日の夕方、美沙が小南と三木に交渉の成果を尋ねると「難色を示しましたね!秋田和菓子さんが協力されるのなら考えますと言われたわ!」
「色々な会社が生産している製品については値段が合えば作るとの答えだった」
「秋田和菓子さんには協力すると言って貰えましたわ、後は京極社長がどの様に判断するかですね!それと納入価を聞いて無かったけれど常務に聞いてみますか?」
「何処の会社も納入価が合えばとの条件付きですからね!」
三人の話が終わると、早速京極常務に先日留守の時に来て頂いたお詫びの電話する美沙。
京極は予想もしていなかった美沙からの電話に喜んで「何かお困りの事は無いかと思いましてお伺いしただけなので、別に特別な話があった訳ではありませんので・・・」
「私は記事を書く上で重要な事をお聞きするのを忘れていましたので、もう一度お話をお聞きしたいのですが?」
「喜んでお伺いしますよ!」
「実はモーリスと取引をされるのに、利益が充分確保出来るのでしょうか?大量販売ですからそれなりに厳しい価格なのですか?」
「それが、違うのですよ!充分採算に乗る価格です!資料をお持ち致しましょうか?」
「そうして頂けると助かります。記事を書く上で重要ですので・・・」
美沙は京極の頒布会は充分利益に乗ると言う意外な言葉に驚いていた。訳が分からなくなり頭の中で自問自答していた。
頒布会は充分利益に乗る?それなら何故多くの会社がモーリスの術中に嵌って倒産するの?千歳製菓だけ異なるの?私は余計なお世話をしているの?
「赤城さん?!聞こえていますか?明日午後一番でお伺いしますよ!」との京極の声で現実に引き戻され「はい、聞こえています」と慌てて答えた。
「では、明日午後一番でお伺いします!」
「宜しくお願いします」と半ば放心状態で電話を切った。
小南に京極常務から聞いたことを話すと小南も「美沙、私達余計な事をしているのだろうか?」と言った。
「もしかして和菓子の値段を知らないのでしょうとか?」三木が言った。
「その様な事は絶対に無い、販売価格は確かに高いけれど納入価も高い筈が無いわ!それなら苦しめられる会社は無いはずですよね?」
「千歳製菓だけが特別ってことはない?」
「色々な状況から考えてそれは絶対に有り得ないと思います」
話が分からなくなり、三人は翌日京極常務の持ってくる資料を見てから、考える次の行動に入る事にした。
本社への原稿の締め切りが近づいていた。
翌日、笑顔でやって来た京極常務は嬉しそうに態々原価率まで書いて持って来た。
「えー、これって幾ら儲かるかの粗利率の計算ですよね!常務が計算されたのですか?」
「いいえ、社長が持っている原価表を今回の商品に当てはめただけですから、新製品とか従来作っていない商品は予測です」
「これでも先日頂いた売価に換算すると半額負担になりますね。モーリスが利益の半分持っていくのですか?」
「そうですが、モーリスさんが発送運賃を負担されるので、実際それ程は儲かりませんね。梱包資材もモーリスさんの負担になりますから、二割程度の利益しか残らないと思いますよ!」
「随分健全な商売ですね」
「実は私もその点が不安だったのですが、今年に数回納入させて頂いている商品も充分当社は儲かっています」
「支払いサイトは長いのでしょう?」
「いいえ、普通の六十日サイトですから、本当に良いお得意先です」
笑顔で答える京極常務は来年からの百二十日サイトになる事は敢えて話さなかった。
良い話で満載にする方が良い記事を書いて貰えると思っていたからだ。
「記事が掲載されたら御礼にお食事をご馳走します!是非三人でお越し下さい!」
本当は二人だけの食事がしたいのだが先ずは付録付きでも我慢するが、ゆくゆくは美沙と付き合いたいと思っている京極晃だった。
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