第33話   工場探し

56-033

「四月が桜餅で、秋田和菓子が製造しています。塩漬けの桜の葉を用いた、江戸に発祥した桜餅。濾し餡を焼いた生地で包んだもので、東京隅田川向島の同名の寺の門前でこの桜餅が作り始められたといわれる花見のお菓子です。五月は柏餅で、これは色々な和菓子屋が製造していてライバルが多い商品です。六月は水無月で、オリジナルです。京都では一年のちょうど折り返しにあたる六月三十日に、この半年の罪や穢れを祓い、残り半年の無病息災を祈願する神事『夏越祓(なごしのはらえ)』が行われ、その際に食べられます。水無月は白の外郎生地に小豆をのせ、三角形に包丁された菓子ですが、それぞれに意味がこめられています。水無月の上部にある小豆は悪魔払いの意味があり、三角の形は暑気を払う氷を表しているといわれています」

「この品物は何処も作っていないのですか?」

「はい、町の和菓子屋さんでは作っていますが、冷凍設備を持つ会社は皆無でしょう」

自信作の様に言う京極常務、確かに美沙も一度も口にしたことは無かった。

幼い時から会社の饅頭を信紀が持ち帰るので殆ど食べていたが、この品は記憶に無かった。

「七月は水羊羹で、この品ものもライバルが多いですね。八月も水饅頭で、多くの会社で沢山製造しています。九月は栗饅頭、十月が栗羊羹、この二品は冷凍で製造している会社は無いと思います。十一月がみたらし団子で、秋田和菓子がライバルですね。十二月は柚子餅で、十二月の冬至に作る柚子餅。桜餅にも使われる道明寺を使ったレシピです。柚子の皮入りで風味がしっかりと味わえる一品です。これは越後屋さんも作られていますね」

ひとしきり説明を終え京極常務は「記事を楽しみにしています」と言って帰っていった。


京極常務が帰った後、美沙は資料を基に一覧表を作り対策を考え始めた。

一月   紅白饅頭      越後屋

二月   鶯餅        無し

三月   三色団子      秋田和菓子

四月   桜餅        秋田和菓子

五月   柏餅        多い

六月   水無月       無し

七月   水羊羹       多い

八月   水饅頭       多い

九月   栗饅頭       無し

十月   栗羊羹       無し

十一月  みたらし団子    秋田和菓子

十二月  柚子餅      越後屋

「この一覧表で見ると、秋田和菓子さんと越後屋さんにお願いして、他にも何件か探せば千歳製菓で四品だけを千歳製菓で作ればいけるわね!」

「製造してもらえるところを探してから千歳製菓に乗り込むのですか?」と三木が尋ねる。

「でも簡単に引き受けて貰えるでしょうか?納入価の問題も有るし」小南も不安そうに言った。

この頃、三人は千歳製菓を救う事が、スクープになると考え始めていた。

この頃、三人はスクープの事より千歳製菓を救う事を考えるようになっていた。

モーリスの悪事の一端が今、正に目の前で行なわれ様としていたからだ。

美沙がホワイトボードに書き始める。

①製造アイテムを極端に減らす削減させる。

②従来の取引先を縮小させる。 

③増資をさせて会社内部に入り込む。

④工場増設、冷凍倉庫の建設を迫り、資金を使わせる。

「以上が、今モーリスが千歳製菓に仕掛けている事です。ね、この後どの様な事を仕掛けてくるのかは判らないですが」

「次回あの京極常務が来るまでに、生産の目処を付けなければ話にならないわね。これだけでは説得することもできないわね」

「秋田までの交通費は出ないと思いますので、私一人で行ってきます。他のメーカーへはお二人にお願いします!」

「どの様に言うの?」

「モーリスから注文を受けたのですが、生産キャパオーバーで助けて頂きたいとしか頼めないでしょうね」

「週刊誌の記者が頼むのは変なのでは?」

「橋渡しだけで、後程正式に千歳製菓の者がご挨拶に参りますので宜しくお願いします。で良いと思います!」

「取り敢えず作れる工場探しが先決ね」

「本社への原稿提出まで十日ですから、それまでに目処を付けておきたいわね!」

「取り敢えず来週有休を使って秋田に行って来ます!」

「健闘を祈るわ、こっちの事は私たちに任せて」

「父の会社を守る事とこれ以上の被害者を出さない為にも頑張らなくちゃ、報道する者の使命ですからね」

「かっこいい良いですね!」三木が褒める。


それと並行して、小南はウィークジャーナル大阪支店に寺崎貢の現在の仕事と住まいを捜すよう依頼をしていた。

小南が寺崎志乃の実家に話を再度聞きに訪れたとき、祖父母から孫の貢が父親の復讐を考えている様なので止めて欲しいと頼まれていたのだった。


だが、寺崎貢の行方は掴めず、母親の志乃もパートの仕事を辞めて行方が判らなくなっていた。

小南は、いやな予感がした。

二人はモーリスへの復讐の計画を実行しようと大阪ですでに機会を狙っているのではないか。会社を相手にするのはリスクが有るが、個人を狙うなら当時の担当者ではないのかと思った。

再び、大阪支店にモーリスの当時の担当者の調査を依頼した。が、食品部門は村井課長その下には入社五年未満のバイヤーが五人と言う事だけで、寺崎食品の当時の担当者までは調べることができなかった。


週末、再びウィークジャーナル名古屋支店に来た京極常務だったが、三人とも留守で残念そうに帰った。

それを聞いた美沙は、既に京極常務は自分に興味を持っていると理解し、今後の展開には大いに味方になると期待した。この計画を先に京極社長に話さなければならないので一人でも味方が欲しい美沙だった。


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