第32話   判明したアイテム

56-032

数日後、美沙の会社に京極常務が訪問したいと連絡をしてきた。

京極常務からの連絡を待ち構えていた美沙は、喜んで翌日の午後一番に会社で会う約束をした。それまでに三木と二人で偽の企画書を製作し京極常務から十二ヶ月分のアイテムを聞き出す作戦を立てた。


京極常務は約束の時間より早く「赤城美沙さん!いらっしゃいますか?」と事務所に現われた。

約束の日、三木と美沙は近くの飲食店で食事を終えて事務所に戻ると、京極常務は既に応接室で待っていた。

「この度は態々お越しいただきありがとうございます。連絡いただければこちらから伺いしましたのに、すいません」

「まだ極秘の資料ですので社内でも見せられませんので・・・」

大袈裟に驚きながら「えっ、極秘の資料を見せて頂けるのですか!」

「但し必ず記事にして頂けるのならですがね!」

「新幹線の中でもお話し致しましたが、新規取り扱いのメーカー様を大々的に紹介する企画ですから、新規のコーナーで千歳製菓さんのコーナー記事を大きく載せる予定です。幸いこの支店から新規取り扱いメーカーの申請は出ていませんないそうですよ!」

「モーリスから頒布会の企画はぎりぎりまで秘密にする様に指示が出ていますから、中々新規取り扱いのメーカーは公表しないのでしょう」

「じゃあ、千歳製菓さんは大丈夫なのですか?」

「十一月なら、公表しても良いからです!売上げの倍増を見込んでお願いに来ました。ですから私が持って来た資料は記事になるまでは、絶対に外部に漏れない様にお願いします!勿論千歳製菓の者にも。口外無用で願います」

「承知しました。絶対に口外は致しません。私達もこれで記事が書けます!十一月号の発売をご期待下さい」と笑顔で答える美沙。

京極常務から計画書を受け取って中を見ると、玉露堂のお茶が主で千歳製菓の商品は四割弱の様だ。

「次の年度には当社だけの企画で頒布会をする事になっていますので、実績を伸ばしてモーリスさんに千歳製菓の存在感を示したいのです。協力は惜しみませんので何でもおっしゃって下さい」

「先程ライバルに露見すると、モーリスが困ると言われましたが、実際このアイテムのライバルは多いのですか?」

「アイテムによって異なりますが、それぞれライバルと呼ばれる企業はありますね」

「常務さんがライバルと思われる企業を教えて頂けませんか?」

「えっ、ライバルの企業を?」

「その企業の商品と比べて見たいのですよ!」

「それ程変わりませんよ!甘味が少し異なるとかですね!」

「本当は取材をして記事を構成するのですが、常務さんに教えて頂ければ見本品を取り寄せて、ライバル他社と比較し御社の商品の良さを伝える記事を書きます」

「なるほど!その様な事なら喜んで協力しますよ!近日中に色々資料を持って来ます!」

「ありがとうございます。取材の手間が省けます」

「お世話になりますので一度お食事でもお誘いしたいのですが?」

ほら、プレイボーイ野郎が早速アプローチだ!と心の中でつぶやく美沙。

「それは大変嬉しいのですが、私達は一人でその様な席には行けません!取材は二人一組になっているもので」

「それなら、三木さんもご一緒にお越し下さい!」

「多分記事になると思うのですが、上司の決定が出ないと確約は出来ませんので後日またご連絡致します」

「そうですか、楽しみにしています!赤城さんの様な美しい記者さんになら、何でも答えてしまいますよ!」そう言って京極は帰って行った。

「美沙さんの話術は恐いですねー」三木は呆れた。


その日の夕方、愛知県警の刑事が二人名古屋支店を訪れて、小南と美沙が応接室に呼ばれた。

「ひき逃げの車両から、大阪の暴力団が浮かび上がりました」

美沙は今までの取材の経緯と木村さんが荒井興産と梶谷不動産を調べて、公園を作ると言う嘘の情報を流した役所の職員と偽る桐谷という男の存在を知ったことを詳しく話した。

刑事は木村さんからは桐谷の名前も聞いていなかったので、新しい情報だと喜んで手帳に書き込む。

話を聞き終えた刑事は

「新和商事って会社に心当たりはありませんか?」

「知りません。それは何処に在る会社ですか?」

「大阪ですが、ひき逃げの車の持ち主が新和商事の車なのです!」

「じゃあ、その会社が?」

「いや、それが車の盗難届けが事故の前日に出ていまして、事故とは関係無いということに、思うのですが、この新和商事も暴力団系の不動産会社なのですよ」

「新和商事に桐谷を名乗っていた男が居たら、繋がりますね」美沙が横から言った。

「早速調べてみましょう?また結果はご連絡致します」


翌日、京極常務が資料を持って再び美沙のところへ訪れ、た。来ると、丁寧に「これが来年採用の饅頭の一部です。皆様でお召し上がり下さい」と言って包を開いて中の箱を開けた。

箱の中には美沙が子供時から食べている饅頭が所狭しと並んでいた。

「これが薯蕷饅頭ですね!」箱の中を指さして美沙が言うと、京極常務が驚いて「薯蕷饅頭をご存じなのですか?これは驚きました」美沙はしまったと思ったが、京極常務は美沙が赤城の娘だとは気が付かなかった様だ。

「薯蕷とは山芋のことです。丁寧に摩り下ろした山芋を練り込んだ生地で蒸し上げています。白の饅頭は甘露栗をカットした物を入れた黒こし餡、紅の饅頭は小豆の豆が入った白こし餡です」と京極常務が解説の紙資料を見ながら説明をした。

「これがライバルと呼ばれる会社です」A4の用紙を差し出す。

一月の紅白饅頭は越後屋さんの商品が一番近いが、他の会社は少し製造方法が異なっている。

「月別に説明書きをしいていますので、よく判ると思いますよ」

「これは有り難いです。記事が書き易くなりますいです」

二月はこの鶯餅ですが、類似品の会社がありません。

三月が三色団子で、秋田県の秋田和菓子さんが同じものを作っています。と次々と詳しく説明を始めた京極常務を美沙はノー天気な男だと思って見ていた。

自分と付き合いたいので、話のネタを今後も何度も運んで来るだろうと心で笑った。


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