第30話   美沙奮闘

 56-030

翌日、岡山から帰った三木をステーキハウスに連れて行った。

「約束だからね!奮発するわ!何か面白い情報掴んで来たのでしょう?」

「社長の武藤さんと青木って女性がみどり青果の正社員だったのですが、時々若い女の人がみどり青果に来ていたらしいのです」

「若いって何歳位の人?」

「先ずは一杯飲ませて下さいよ!」

「はいはい!お飲み下さい!」ビールをグラスに注ぐ美沙。

「今日は特別暑いから、美沙さんに注いで貰うと一段と美味しい!」

一気に飲み干してグラスを再び差し出す。

「早く言いなさいよ!」苛々しながらビールを注ぐ。

「美沙さんにはかなわないと思いますが、美人で三十歳位の女性らしいですよ!」美沙にお世辞を交えて言う。

「名前は?」

「それはパートさんも知らない様ですね!さっちゃんと呼んでいた様です!」

「さっちゃん?か名字を言わなかったのは何か秘密が有るのよね」

「流石は美沙さん鋭いです」

「先程から美沙さんって馴れ馴れしくない?赤城さんと呼べないの?」

そこにステーキ肉が鉄板に置かれて、一気に食い気に向く三木。

「三木君!それだけなの?」と苛々して聞く。

「それだけですよ!パートさん二人目捜すのは大変だったのですよ!」

「青木さんって女性の年齢は?武藤社長の年齢は?」

「二人共五十歳位だと聞きました!」

「自宅は何処なのよ!」

「近いって!朝も早いし夜も遅くまで仕事していたって聞いたから、間違い無いですよ!」

「そのさっちゃんは、二人の子供では無いわね、五十歳位で三十歳の子供は考え辛いわよね!他に誰かよく来た人は?」

「二回程、モーリスの若い男が来た様です!」

「どの様な感じだったの?」

「パートさんの話ではとても親しい感じで話していたと聞きました」

「モーリスの若い男?安田さんだろうか?」

考える美沙を尻目に次々とビールをお代わりし、肉を食べまくっている。

「み、赤城さん!肉お替わり良いですか?」

「えっ、もう食べたの?恐いわ!」三木の食欲に驚く美沙は自分の肉を分けて追加を避けた。

すっかり酔っ払った三木は「でも少しお酒が入ると一層綺麗ですね!僕ファンになります!」そう言って美沙を困らせる面倒な酔っ払いに変わった。

「武藤社長の住所には何も無かったの?」

「登記上は小さなワンルームマンションが住所でしたよ!」

「初めから計画倒産ね!青木さんの住所は?」

「誰も知らないと、武藤社長のマンションの近くも聞き込みましたが、出入りする人も誰も見たことがなく本当に住んでいたのか?全く判りませんでした」

「すると、武藤社長の奥さんが青木さんって事も考えられるわね!」

「登記する為にワンルームマンションを借りて、本当は武藤社長と青木さんは夫婦だとしたら?」

「会社の登記ではそこまで判りませんよ!赤城さん!歌でも歌いに行きませんか?」

「三木君は呑気よね!私は父の会社が乗っ取られるかの瀬戸際なのよ!歌なんか唄える状況では無いわ!食事が終ったら帰るわよ!」

「えーもう帰るのですか?もう少し楽しみたかったなー」

「この問題を解決させたら、ゆっくりカラオケ付き合うから、もう少し頑張って!」

「は、はい!判りました!何をすれば良いでしょう?」

急に元気になった三木に「私が男の人をナンパするから、ボディーガードしてくれない?」

「えー!ナンパ?誰を?」

「千歳製菓の常務をナンパして聞き出したい事が有るのよ!」

「お爺さんをナンパするのですか?」

「違うわ!三木君と同じ歳位の人よ!」

「私と同じ歳で常務なのですか?」

「父親が社長だからね!」

「親の七光りか、その様な男は駄目です!」

「どうしても聞き出したいことが有るのよ!モーリスの担当は常務だから、必ず知っていると思うのよ!」

美沙の思惑通り京極常務は企画表を村井課長から預かっていたが、ライバルの頒布会に知られると同じ様な商品をぶつけてくるので、十一月の製造まで内密にして、ぎりぎりまで発表を待って欲しいとモーリスから頼まれていたのだ。

その為、京極社長にも伝えていなかった。


その頃、信紀は気が進まないが、美沙の熱意に負けて常務のスケジュールを調べ始めた。

社内でも常務は女性に手が早いとか、恋人が複数存在するとか悪い噂が多かったのでなお心配でもあった。

来週、東京のJST商事の吉村課長にアポをとっている事が、偶然専務の酒田から耳に入った。

自分の様に上手に接待が出来るのか?心配でアドバイスをしたと神崎工場長に話しているのを聞いたのだ。

例の向島の芸者の処に連れて行く話が進んでいる様で、来週の金曜日の夜ジェームスと吉村課長を接待する様だ。

信紀は経理の北川碧に過去の領収書から接待は何処のお店で行ったかを聞きだし美沙に伝えた。


「東京?新幹線のチケットは会社で準備するの?」

「多分経理で準備すると思うが、美沙、新幹線の中で近づくのか?女性関係には悪い噂のある常務だから危ないぞ!気をつけろよ」

「そうよ!そんな危険な事はしたら駄目よ!」と妙子も反対をするが「絶対に聞き出さないと、千歳製菓は破滅するわ!ボディーガードを付けているから大丈夫よ!」と美沙は答えた。

「ボディーガード?」

「会社の若いカメラマン!」

「そう言えば、一緒に仕事していた木村さんがひき逃げに遭ったのでしょう?危険な香りがするわ!」

なおも妙子は止める様に言う。

だが、美沙の決意は固く常務が乗る新幹線の席を調べて欲しいとの一点張りだった。

数日後、信紀は再び北川に新幹線の日程と席の場所を教えてくれるように頼んだ。

「赤城さん何故?常務の事を?」と尋ねられて「娘が雑誌の記者で偶然を装って専務に取材したいと言うのでね」

正直に話すと、面白そうだと北川は乗り気になって教えてくれた。


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