第29話    計画倒産

 56-029

カメラマンの三木は岡山県備前市に在るみどり青果の跡地に着いた。近所に尋ねて歩いたが、住民は「この場所にみどり青果の看板があったが、一年程で廃業したのでよく判らないです」と答えるばかりだった。

三木は大阪支店の調査報告書をもらった。それには武藤社長が一年程この地でみどり青果の営業をして、日本各地から果物を集めて包装して発送をしていたと書いてあった。

倒産後の武藤社長の行方は不明で、モーリスも多大な損害を被ったと記載されていた。

三木から電話で報告を貰った美沙は「少し変ね?」と首を傾げて言った。

「何故?変なのですか?大阪支店が調査した裏付けも調べましたが、変な事は何も無いですよ!」

「モーリス程慎重に取引先を調査する会社が、何故創業一年程の会社と取引をしたの?変だと思わない?創業して直ぐにモーリスと取引して、一年程で倒産すると何もモーリスには得な事が無いわ!モーリスがその様な事する?」

「お客様への返金とかで、相当な損が発生したでしょうね」

「三木君!じゃない三木さん!その武藤社長の消息と、そこで働いていた人を見つけて調べて貰える?」

「えー、その代わり食事は高級料理にして下さいよ!」

「分かったわ、牛丼の予定だったけれど、奮発するわ!」

「牛丼?それは無いよ!岡山ですよ!それも備前市まで来ているのですよ!」

三木は美沙と一緒に食事が出来る事だけを期待して調査を続けた。


その日の夜、美沙は自宅で「お父さんに相談したい事があるの!」

「えっ、まさか恋人が出来たと言うのではないよな!働き始めてわずか数ヶ月で・・・」

「違うわよ!千歳製菓の事よ!」

「会社は今、廃止商品の作り溜めをして、取引先に迷惑がかからずに取引を他社に移管して貰う様にしているところだよ。で、どの様な話だ!」

「来年の玉露堂との共同企画の商品は決まっているの?」

「多分決まっていると思うが、お父さんが担当を外されてからは知らないな!それがどうした?」

「モーリスの仕事を他社で製造して貰って分散するのよ!」

「その様な事を何故するのだ!社長も常務も張り切っているのに、難しいだろう?」

美沙は玉露堂と京漬の泉田さんで聞いた事を詳しく話した。

そして、十社のリストを見せて信紀を説得した「信じられない!もう間に合わないかもしれない!」顔色が変わっていた。

「じゃあ、私が説明しに会社に行くわ!」

「駄目だ!仕方が無い!お父さんが社長に話してみるが、聞き耳を持つかな」

「じゃあ、先に商品リストだけでも手に入れて、製造して貰える工場捜しましょうよ」

「美沙の話が本当なら、大変な事になる!製造して貰える工場がいくつか見つかれば当社には利益は無いだろうが、京漬の様に正当な取引が可能になるな!」

そうは言った信紀だったが、美沙の話した事をとても京極社長には話せないと思っていた。

社長の性格を知りすぎる程知っている信紀は、その様な話を信じる人では無いと思う。

逆に今以上に冷遇を受けて会社を叩き出されるのが目に浮かんでいた。


美沙は自分達の記事が出ると、その時点で大きな売上げ減少が予想されるので、モーリスに操られている企業は存続が危なくなると言っていたが、一体いつ記事になるのだろう?各支店から原稿が出た時点で本社の企画部長が校正をするのだろうが、各支店からどの様な取材内容の記事が集まっているのかは不明だ。色々な事を考えると眠れなくなった。


翌日、信紀は工場長の神崎に、来年度から始まるモーリスの商品アイテムを聞いておいた方が製造計画を立てられますよと進言した。

神崎は赤城に「流石は元営業さんだ気が利くな!」と褒めたが一向に聞きに行く気配はない。

翌日もその次の日も全く気配が無く信紀は焦って来た。


岡山でみどり青果に働いていた人を捜すのに苦労したが、漸く一人の中年女性を捜し当てた三木。

その女性の意外な話に驚いた。

その当時、取引先はモーリスのみで、働いていたのはパートが二十人程度で、正社員は武藤社長さんと青木さんと言う女性だけだった。パート全員が約一年の契約で給料はこの辺りの会社の二割増しで多かった。倒産を知ったのは契約を終えた一週間後で、それまではその様な気配は全く無く、毎日沢山の出荷で追われていたと話した。二人の消息については全く知らないと言った。

三木は直ぐに美沙に連絡をすると「それって計画的だと思わない?」

「そう言えば、パート全員が一年契約で給料は他と比べて二割増しですからね」

「もう少し、探ってみて」

「えーまだ聞くのですか?疲れましたよ!」

「ステーキにするから、頼むわ!」

「ステーキですか?お酒も付けて貰えますか?」

「良いわよ!頑張って!」

その言葉で奮起した三木は再び調査に向った。

そして、岡山に二日間調査の時間を要した甲斐もあり、重要な証人に辿り着いていた。


父の信紀も工場長に再び尋ねたが「社長もまだアイテムは聞いていないそうだ!」との返事が返ってきた。

既に生産開始まで半年を切っているのに、何故アイテムの連絡が無いのか?信紀にも不信感を抱かせるモーリスの行動だった。

「それ本当なの?社長は知っていて隠しているとか?」美沙が信紀に詰め寄る。

「だが知らないと話しているのに、それ以上聞けないだろう?」

「担当の京極常務は何か知らないの?私に会わせてよ!」

「どんな理由で合わせるのだ!週刊誌の記者だと言っても会わないだろう?」

「常務のスケジュール調べて教えて!」

「どうするのだ!」

「ナンパするの」

「えー!」驚く信紀に平然と言う美沙は、何としても父の会社を救いたい一心だった。


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