第28話     対策

  56-028

「私、明日もう一度神戸に行きます!それと父の会社と共同企画の玉露堂にも話を聞きに行きたい」

「一月から始まるのよね!千歳製菓と玉露堂の共同企画」

「ネットで調べても、江戸時代から続く由緒有るお茶屋としか書かれていないのです。一般には全く販売していない様なのです」

「格式が高いのね!お父さんの会社の事を守らないとね!新人の三木君連れて行く?」

「事故の事も有るから、ガードマンとして付き合いますか?」


翌日京都の玉露堂に三木と一緒に向うと「当社は週刊誌の取材とかは受けないのですが?」といきなり言われた。

「今度モーリスさんの企画で、名古屋の千歳製菓さんと共同で頒布会をされるそうですね」

その言葉に顔色を変えて「な、何故世間に出ていない事を知っているのですか?」

驚きながら答える。

「御社の取引先に付いてお聞きしたいのですが?」

「一般のお客様ですが?それが何か有るのでしょうか?」

「今日は富田社長いらっしゃいませんか?」

「富田は今出ていますが、週刊誌の方にお話する様な話は何も有りませんよ!」

「天保年間から続く由緒有るお茶さんが、何故頒布会での販売をされているのでしょう?」

「それは自由だと思うのですが?週刊誌の方に色々言われる事では無いと思いますがね」

事務所にもお茶の香りが漂って、お茶の会社だと誰にでも判るが、事務所の従業員が数人で机も極端に少ないので、営業の人も殆ど居ないのだと美沙は感じた。

「販売エリアは全国ですよね!」

「は、はい!勿論です!」

「お見かけすると営業の方は少ない様に思うのですが?」

「少数精鋭ですから、これで充分です!」と言った時、社長の富田が戻って来た。

挨拶をすると「どの様な取材?何も特徴の無いお茶屋だよ!」

先程の男が富田社長に耳打ちして教える。

「何処で聞いて来たのよ!まだ誰も知らない企画なのに?またモーリスの宣伝記事を書くのだな?本社の村井課長か?」そう言ってモーリスを疑う。

事実モーリスを絶賛する記事は毎月何処かのマスコミが取り上げる。

「違いますよ!私は千歳製菓で聞いたのです!」

「千歳製菓は喋りだな!今回初めて共同で販売するのに、お口が緩いのだな!確かに千歳製菓との共同企画だが、まだ内容はモーリスから聞いてないので企画内容は判らない!それでも売れる記事を書くのだろう?専門だから?」

「誤解されていますね!私達の記事はモーリスの悪行を暴く記事ですよ!」

「えー!モーリスの悪行を暴く?」驚く富田社長。

「五年間でモーリスさんと取引していた会社が十社も倒産しているのです。私達はその謎を記事にするのです!」

表情が大きく変わって「十社もですか?でしょうね!我社も、、、、、」そう言って言葉を濁した。

「どうされました?」

「いいえ、お話する事は有りませんが、二年程前にモーリスを退社した優秀な男が居たのです。名前は安田俊幸って人です。その人を捜せば素晴らしい記事が書けますよ!」

「えっ、その安田って人は何処に行けば会えますか?」

「判りませんが、果物の会社で失敗して左遷されて辞めましたね!私の会社はモーリスにお世話に成っている立場ですから、これ以上は何も申せません!」

「もしかして、この中に果物の会社が有るのですが?」十社のリストを見せる美沙。

「みどり青果だったかな?果樹園だったと思うけれど違うかな?」曖昧な事を言う富田社長だが、帰る時に「頑張って下さい!これ以上犠牲に成る会社は見たく有りませんからね!」

急に態度が変わった富田社長。

この社長もモーリスの犠牲者の一人だと直感で思う美沙。

すると「実は会社は歴史が有るが、私が色気を出してモーリスと取引を初めてから、泥沼状態にしてしまった。後悔してもどうする事も出来ないのが現状だよ!実に巧みだ!その内容は安田さんに聞けば判るだろう?頑張って下さい!」そう励まされて玉露堂を後にした。

カメラマンの三木は美沙と同時入社だが転職組で二歳年上、美沙とチームが組めたので良い気分に成っている。

美沙には全く三木は興味が無いので、仕事以外の話はかみ合わない。

「三木君!調べて欲しい事が有るのよ!今から岡山まで飛んでみどり青果の事をしらべて欲しいのよ!」

「大阪支店に聞けば良いのでは?」

「違うのよ!先程の富田社長の話は今の状況の打開に成るかも知れないでしょう?」

「確かに何か奥歯に物が挟まった様な話でしたね」

「ね!今度食事ご馳走しますから、お願い!」両手を合わせて頼まれるともう、メロメロの三木は直ぐに引き受けて岡山に向った。


美沙はその後小諸社長と神戸駅の近くで会う事に成った。

小諸社長が遠方なので気の毒に思って、会社から出て来てくれたのだ。

「態々すみません!」笑顔で挨拶をすると「美人のお嬢さんに田舎まで取材に来て頂いては申し訳有りませんからね」

「京漬の元部長の自宅に行って来ました!」

「流石は一流雑誌の記者さんは違いますね!」笑顔で褒め称えて内容を聞いている。

美沙は泉田元部長の話をして、玉露堂の話も詳しく伝えて知恵を借り様とした。

「取り急ぎお父さんの会社を窮地から救わなければいけませんね!」

「そうなのです!今私の同僚が岡山のみどり青果に向いました」

「玉露堂の話がそのみどり青果ですか?私も果物の頒布会を買いましたよ!確か桃とか梨が送られて来ましたが、みどり青果では有りませんでしたね」

「異なる果実店でしょうね、沢山業者は持っていますからね!」

「その果実店が見つかれば安田さんの行方と、モーリスの内部事情が判る訳ですね」

「父の会社も同業他社に応援を依頼して切り抜けるのは無理でしょうか?」

「モーリスに決まったアイテム次第では可能性が有りますよ!お父さんに聞いて同業他社を捜して貰えば良いと思います」

「京漬さんと同じ手法で逃げるのですね!」

「社長さんが気付けば良いのですが、兎に角アイテムを調べてからに成りますね」

美沙は今後もアドバイスを頂きたいと、丁寧に御礼を言って夜遅い新幹線で帰宅した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る