第27話   交通事故

 56-027

「当時私は一般に販売する商品を組合の有志に頼み廻って、製造をお願いして廻りましたが、何処も引き受けては貰えなかった。それで逆の発想でモーリス向けの商品の半分程度を同業他社に頼み込んで製造して頂きました。今もモーリスには当社の商品として納品していますが半分は同業他社の製品です。実際社内ではモーリスの商品を作る事を優先しようの意見が多かったのですが、モーリスに偏ってもしも取引が無く成ったら?と意見を言いまして社長の英断で今の状態を確保したのです。その為京漬け物に関しては、モーリスは他社にも商談する事が出来ずに、その後も京漬が販売をしているのです」

「同業他社の品物が沢山京漬さんから納入されているのですね」

「あの時、当社も同じ様にモーリスの商品を作る為に、一般店の取引を辞めていたら、モーリスの術中に填まり今頃は奴隷に成るか?倒産だったでしょうね」

「奴隷ですか?」

「全国に沢山の奴隷の企業が有ると思いますよ!倒産したのは十社ですが、奴隷はその数倍有ると思いますよ!」

「そんなに不幸な企業が沢山有るのですね!その為にも我々が書く記事は重要ですね!」

「いいえ、その逆も考えられますよ!貴女方に記事でモーリスの売上げが減ると、一気に倒産してしまうからです!」

「あっ、そうだわ!悪い記事が出ると客は買わなく成るので、売上げが急速に減少して奴隷企業は一気に倒産?」美沙は自分達の記事でモーリスの売上げが大きく減る危険を危惧していた。

美沙はこの問題は単なるモーリスの摘発記事ではまた被害者が続出すると思った。

駅前のホテルに泊ろうと捜していると、急に携帯が鳴り響き「大変よ!木村さんが交通事故に遭ったのよ!」小南圓の悲痛な声が携帯に響く。

「どの様な事故ですか?身体は?」

「全身を強く打って今、名古屋市内の病院に運ばれたのよ!医者の話では命は大丈夫の様だけれどね!」

「良かったわ!相手は?」

「捕まってないわ!ひき逃げよ!」

「えーひき逃げ?直ぐに帰ります!」

福知山で泊って翌日神戸の小諸社長に会う予定だったが、京都まで出て最終に近い新幹線で名古屋に戻る事にした。

新幹線の中でも美沙は胸騒ぎが止らない。

理由はモーリスが自分達の取材を嗅ぎ付けたので、木村さんが狙われたのでは?の不審が大きく広がっていた。

木村さんが狙われたのは、もしかして土地に関する事で都合の悪い事が有るのでは?もしもそれが原因なら別の部分から、モーリスを攻める事が出来ないのだろうか?

全国の全ての頒布会がモーリスと同じ様な事をしている訳では無いだろう?

我々の記事で窮地に成る納入業者を救えないのだろうか?

美沙は色々な事を考えながら名古屋に向った。


のぞみ保育園には荒井興産が「マンション建設は手違いの様ですよ!ご安心下さい」

「じゃあ。当初の予定通り公園が出来るのですか?」

「いいえ、あの役所の男は偽者で、行方が判りません!」

「じゃあ、安心出来ないじゃないですか!」

「でも梶谷不動産では当面何も建築予定は無い様です!隣も買われては如何ですか?」

「そんなお金は有りませんよ!」

「千歳製菓さんに買って頂きましょうか?」

「えっ、その様な事お願い出来ますか?」

「今、営業倉庫に保管されている様なので、自前の倉庫を持たれると便利に成るのでは?勧めてもらいましよう」

「荒井さんは千歳製菓さんの事よくご存じですね!」

「いゃー、小耳に挟んだのですよ!」惚ける荒井。


だが、実際はモーリスの松永部長が苦肉の策で、冷凍倉庫を作る様に話をしていた。

大量の注文を一度に納品する場合が有るので、常に在庫が必要に成ると言った。

京極社長は既にモーリスとの取引を前提に、取引先も製造アイテムの整理を進めているので後には戻れない。

今後近くと言っても往復のトラック便の費用、倉庫代金を考えると倉庫の建設は非常にメリットが有る様に思えた。

土地は借りて上物だけを建設すれば、比較的安価で倉庫が建てられると持ちかけた。

京極社長は場所が一キロ程度で、のぞみ保育園の転居先と同じだと聞いて一気に乗り気に成った。

その結果、工場増設用地も荒井興産の持ち物、今度の冷凍倉庫は梶谷不動産の持ち物に成る。

着々と罠に落ちていく千歳製菓。


松永部長と村井課長の話では、既に千歳製菓で作らせる品目が想定されて、納入価格も算定されている。

サイドは百二十日、人件費の計算、設備の費用等も計算されている。

勿論京極社長の給料も既に計算されていた。

「宮代会長には引退して頂く事にしよう!」

「宮代会長の財産も頂かなければ今回の仕事は終りませんが?」

「増資で少し使わせたが、まだまだお持ちだからな」

二人は計画通りに進んでいる事を確認していた。

「困るのはウィークジャーナルだよ!調べた感じでは本社の指示で最近我社と取引をしていた会社を調べている様だ」

「だいj大丈夫でしょうか?」

「一番の懸念は例のマンション建設を悟られた事だったが、京極社長に倉庫の建設で切り抜けたので大丈夫だろう!」


翌日木村カメラマンは大腿骨の骨折の重傷だが、それ以外は打撲で全治二ヶ月の診断が出た。

「すまん!当分取材には出られない!」

「大丈夫よ!若いカメラマンの男の子を廻して貰えるから、ゆっくり休んで!マンション用地にはもうマンションは建設しない様だわ!」

美沙は昨日の泉田の話を二人に喋らなかった。

他の企業の連鎖倒産が恐かったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る