第26話 哀れな企業群
56-026
翌日、お互いの情報を持ち寄り検討に入った三人は、現状報告をまとめて本社に送った。
しばらくして本社からは他の取材班の情報も併せて十社のリストが送られて来た。
①酪北ファーム 北海道帯広市 農作物
②有田陶芸社 佐賀県有田市 陶器
③松村酒造 福島県福島市 日本酒
④東園芸 高知県高知市 園芸品
⑤寺崎食品 愛知県名古屋市 練り製品
⑥平尾水産 鳥取県境港市 干物、魚
⑦みどり青果 岡山県備前市 果物
⑧丸田工芸 広島県安芸市 工芸品
⑨吉高フーズ 山口県下関市 ふぐ、鮮魚
⑩スタイル日高 東京都新宿区 婦人服
「本当に色々な業種があるわね」
「この中に小諸社長が聞かれた会社があるのか、聞いてみましょうか?」
「そうね、そして、京都の京漬に行くのなら、このリスト見せれば何か判るかも知れないわね!」
「私は、明日もう一度寺崎の奥さんの実家に行ってみるわ!」
「俺は引き続き、建築関係を調べてみる!何処かで荒井興産と梶谷不動産がモーリスと繋がっている気がするからな!」
モーリスでは、松永部長が新和商事の社長新垣を呼びつけて、ウィークジャーナルの記者が嗅ぎ回っている事を伝え、土地関係で危険が迫っているので注意する様に促した。
新和商事の表向きは土地のブローカーだが、暴力団関係者ともコネクションがあり過去にも事件を闇に葬った事もある。
千歳製菓では、京極社長は保育園の敷地での工場増設が決まり、頒布会納入に目処が出来て上機嫌になっていた。
唯一気掛かりなのは頒布会開始と同時に支払いサイトが百二十日になることだけだった。
頒布会開始の二ヶ月前には殆どの取引先は整理され、千歳製菓はモーリスとJST商事のテーマパーク向け商品の依存が八割になる。
翌日、美沙は取材の名目で京都の京漬を訪れていた。
大きな漬け物専門の会社で、広報担当の人が応対をして「ウィークジャーナルさんが、私達の会社に取材に来られるのは珍しいですね」そう言って微笑んだ。
「ここの部長さんで泉田さんって方がいらっしゃったと思うのですが、その方のお住まいとかお判りになりますか?」
「えっ、当社の泉田部長ですか?数年前に退職したのですが、あなたのようなお若い方が何故ご存じなのですか?お父様がお知り合いでしたか?」不思議そうな顔をしながらも泉田の住所を調べて教えてくれた。
「御社はモーリスさんとお取引を沢山されているとお聞きしましたが?」
「はい、結構な商品を販売して頂いておりますが、その他の取引先も沢山ございます」
「大変お答え答え難い質問だと思いますが、支払いサイトは長いのですか?」
「長い方ですね!短いとは言えませんね!先程質問された泉田が部長の時に取引が大きくなったのですが、泉田部長は商談に苦労されていました」
「じゃあサイトが百二十日とかですか?」
「ははは、百二十日サイトで商売している会社が在るのですか?食品は長くても六十日でしょう?勿論モーリスも六十日ですよ!それでも長いでしょう?」
「は、はあ!」美沙は不思議に思った。
この後、商品の説明等を聞いて取材をしているように思わせて、本命の泉田部長の自宅を訪問する事にした。
泉田元部長の自宅は福知山に在るので、美沙は泊まりを覚悟して行くことにした。
山陰本線に乗って福知山に向うと、駅前の宿泊場所が在るのを確認してから泉田の自宅にタクシーで向った。
京漬の担当者が事前に電話をしてくれていたので、泉田元部長は美沙を待っていてくれた。
田舎の農家で大きな家、庭先では子供の声が聞こえて、お孫さんが遊んでいるのかな?と微笑ましく思う。
「ウィークジャーナルの記者さんが、この様な田舎まで何の取材でしょうか?それも若い娘さんが一人で?」
美沙は小諸社長の事を話したが、直ぐには思い出されずに「記憶に無いのですが?」
「泉田さんがモーリスの事でお話になられた方で、泉田さんの話で取引を控えたとおっしゃっていました」
しばらく考えて「ああー思い出しました!介護関係のお仕事の?老人ホームとかの方でしたよね!」と漸く泉田は思い出した。
「今日お伺いしたのはそのモーリスについてお聞きしたいのです。忠告をされていた京漬さんが今もモーリスと普通に取引されているのに驚きました」
「ウィークジャーナルの記者さんが何故モーリスの事を?」
「実は特集でモーリスを取材しているのです」
「頒布会の事を賞賛する記事ですか?その様な記事に私の話を載せて頂くのは遠慮させて頂きます」
「違います!この五年間で倒産した会社が十社、そのすべての会社がモーリスと取引があったのです。我社がその実態を暴き特集記事にするつもりです」
「何!モーリスと取引をしている会社で最近倒産した会社が十社も有るのか?」
「実は私の父が勤めている会社も最近モーリスと取引を始めて、従来の取引先を削減しているのです。何とか防がないと危ないのでは?と思っています」
「お父さんの会社がモーリスに狙われた?従来の取引先を整理した!それは危険だ!もう間に合わないかも知れないが、直ぐに止めさせなさい!危険だ!」
「じゃあ、京漬さんは何故モーリスと取引をされているのですか?」
「それは同士が助けてくれたからだ!京漬もモーリスの術中に填まる寸前だった。漬け物協会の同士が助けてくれて、商品を融通してくれたので、京漬は取引先の整理もアイテムの削減もせずにモーリスの商品も供給できたのだよ!その為モーリスの過度の条件を全て蹴って公正な取引が続いている」
「工場の増設とかはされていないのですか?」
「モーリス向けの商品はその後増やしてはいないと思う、従来のお得意様向けの生産の為には設備は増強した様だが」
「切り抜ける秘策があったのですね」
老人は薄っすらと笑みを浮かべて、遠い昔を思い出す様に天井を見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます